第8話 ディオノス市国
東の空が白み始めると、それまでエリクシルを覆っていた群青色のテクスチャが徐々に西へと追いやられてゆき、そこに張り付けられていた星々はそれに従うかのように透き通る青になりつつある空に溶けてゆく。唯一、この星を取り囲む星の帯だけは、夜に比べれば控えめな光しか発さないものの、空を二分する役目を果たし続けている。
恒陽の光はなだらかな丘陵地帯に満ちていた闇を溶かすように広がってゆき、丘の陰に隠れるように停車した異星の戦闘車両すらも暖かな光に包み込む。
エリクシルの一日はいつものように穏やかに幕を上げた。とある戦車とその乗員以外は。
『あったーらしーいあーさがっきたっ!きっぼーぉのっ、あっさーだっ!』
「う、ううん…だぁれが夏休みの悪習を再演しろと言ったバカヤロウ」
寝ぼけ眼を擦りつつ、車内に大音量で鳴り響いた聞覚えのありすぎる歌に抗議する。目覚ましのつもりなのだろうが、何故よりによってそれを選んだのか問い詰めたい。
『よろこーびにっ胸をひーらけっ、あーおぞーらあーおーげー!』
「起きた!起きたからその殺意しか沸かない音楽を可及的速やかに止めろ!」
『………』
「ったく、朝から騒がし」
『ラジオーの声にー健やーかな胸をー!』
「スヌーズ機能もやめいっ!」
「喧しいわ馬鹿どもがッ!」
早朝から始まったバカ騒ぎは、昨日の一件で寝不足気味のアルマが起き上がりざまにロッドを投げつけ。ユキトの後頭部にクリーンヒットすることで一応の終息を見た。
『え?ラジオ体操やらないんです?』
ノーマッドの戯言に「誰がやるか」と吐き捨て、香ばしい匂いを放つカップを傾ける。砂糖を多めに入れた熱いコーヒーが体を覚醒させ、ついでに今日最初の糖分を頭へと届ける。そして、もう片方の手に持っていた直方体に成形された保存食を一口。某蛇が「うますぎる!」と評した黄色いアレよりも程よく湿気を帯びておりいくらか食べやすい。ただし、味はアレに比べるべくもなかった。あまじょっぱい極太クッキーと表現するのが適当だろう。
「……さすがに5食連続でこの保存食だと飽きが来るな」
「その割にはやたら食ってるじゃないか」
コーヒーカップに落としていた視線をぽつりとそうこぼしたアルマの方に向けた。車長席を回転させ、
朝一番にユキトへ杖をクリーンヒットさせた少女は、湯気の立つマグカップをコンソールの上に置き、山積みにした保存食を無表情でもきゅもきゅと咀嚼していた。足元のごみ箱には昨日の分と合わせて、無数のパッケージが無造作に突っ込まれている。
「魔力を生み出すには食事が必要だと言っただろうが、馬鹿め。消耗している今ならなおさらだ」
「傷はまだ痛むのか?」
「それについては問題ない。貴様らの薬品は少なくとも高級ポーション並に効果があるようだ。飛んだり跳ねたりは無理だが、歩くだけなら依然と変わらないほどにはできる」
彼女には一昨日の夜からノーマッドの痛み止めや湿布薬などが処方されている。未来の医療技術で作られた医薬品はエリクシル人にも地球人と同じように作用し、体の回復を大幅に促進していたらしかった。
しかし、体が回復し始めると意識はやはり他の欲求の向上へと向かうのはどこの星でも同じようなのか、耐えきれなくなったとでもいうようにアルマが切り出す。
「……おいノーマッド、せめて別の味とかないのか?」
『作れはしますけどねぇ、ぶっちゃけその味以外食えたものじゃねーですよ』
「粒子3Dプリンタなんだから何でも作れるんじゃないのか?」
『あのね、車長殿。忘れてるかもしれませんが私は世界最高峰の戦車にして戦闘兵器ですよ?非常用のレーションならともかく、どうしてラピュタパンやリンゴやベーコン3枚に目玉焼き6個な”うましかて”の詳細なデータがあると思うんですか?』
「なんでよりによって
一瞬でそれらの料理を想像してしまったユキトは恨めしそうに車内カメラをにらみつける。一方、地球のネタが通じないアルマは首を傾げつつ、ないのならば仕方ないと新しいクッキーを齧る。もっとも、かりかりに焼いたベーコンと目玉焼きの朝食を想像させたノーマッドに思うところがないではないが。
「まあいいさ、食糧事情はディオノスに入ればどうにでもなる。そうだろ?アルマ」
「それなりにはな」
『それなり?と言いますと?』
話を理解していない異星人二人に頭痛すら覚えてしまう。駄目だこいつら、早く何とかしないと。
「では聞くが、貴様ら金は持っているのか?」
あ。と間抜けな声が車内に響き、深いため息が続いた。
「なんだありゃ?」
『ウォールマリアじゃないことは確かですねぇ』
朝食を終え、丘を越えた先に見えたのは白亜の巨壁というほかない光景だった。青々とした草原が広がる丘陵地帯に現れた白い壁は視界を横切るようにそびえ、高さは50m以上あり、円を描いているのか両端の方は遠くかすんで見えない。壁の向こう側はうかがい知ることが出来ないが、その中心と思われる部分には無数の尖塔をもつ巨大な城に見える建造物が小さく見えた。
「ディオノス市国だ。このあたりでは、まあ、中程度の規模の国だな」
「国が丸ごと壁の中に入っているのか、城塞都市、いや城塞国家というわけか」
『んー、半径4㎞ぐらいの円が城壁というわけですか。あの中でエリクシル人の生活は完結しているのですか?』
「おおよそはそうだ、農業も畜産もあの中で行う。ただ、何分限界もあるから壁の外へ出て資源を調達しなければならない」
車長席の後ろのキューポラから身を乗り出したアルマが「見ろ」と壁の上のほうを指さす。白い壁の上には等間隔で塔の様なものがそびえたっていた。
「壁の上に一定間隔で尖塔が立っているだろう?あそこに大型のクリスタルが埋め込まれていて、国全体を強力な防御結界で覆っている。また、戦闘の際には防御拠点にもなり、高い威力の大規模魔術を遠隔地に発動することが可能だ。この構造は大なり小なり人が住む領域には備え付けられている」
『これならヒュッケバイン相手でも安心だと?』
「10や20ならな。運の悪い国が200以上のヒュッケバインに襲われて1夜にして火の海になったり、超大型魔獣に襲われて踏みつぶされたりしたという話もある。そとで野宿するよりは安全というだけだ」
フン、と不愉快そうに鼻を鳴らし、ノーマッドから見て左側へと顎をしゃくる。彼女が意識を向けさせた先には、小さな機銃塔が搭載された装輪装甲車とその前後を固める砲塔を持ったハーフトラック式の装甲車両が縦隊となってディオノスめがけて巡行している姿が見えた。
「見ろ、行商のキャラバンだ」
「キャラバンというよりは
『8輪の装輪装甲車3台にSd.Kfz.251にⅢ号戦車E型の砲塔をのっけたような戦闘車両が護衛についていますね。速度は30㎞/hってところでしょうか』
「彼らについていくぞ、速度は30から40㎞/hに落とせ。賊の類と一緒にされたくはない。それと…」
『了解、のんびり行きましょう。って、あの?アルマ=サン?』
「なんだ?」
『どうして杖を構えられてらっしゃるのでせう?』
ノーマッドの外部カメラは、クリスタルを爛々と光らせたロッドを顔の高さに構え、酷薄な笑みを薄く浮かべたアルマを映し出している。まだ、付き合いが長いとはとても言えないが、とてつもなく嫌な予感がするのは事実だった。
「なに、当然のことをするまでだ。ユキト、ところでこいつの主砲、どう思う?」
「…すごく、おおきい、です」
「その通り。私が見てきた中でもここまでアホみたいな主砲をもつビークルは見たことも聞いたこともない。故に、余計な混乱を防ぐために必要な措置を講ずる」
『えっ、なにそれは…』
アルマの笑みがさらに深くなり、クリスタルの輝きが増すにつれて、ユキトは周囲に風ではない何かが渦巻くのを感じる。それは空気よりも軽く、乾いているが、ナニカがそこに有る。それはエリクシルで
「火は風に、風は水に、水は土に、土は火に、万物の理を廻りて我が理に従え。土よ、我が僕の姿を変えよ。
神に祈りをささげる修道女のようにクリスタルが輝く杖を書き抱き、祝詞を読み上げる巫女のように呪文を紡ぐ。最後の一言を言い終わった瞬間、クリスタルの中で輝いていた光がはじけ、紫色の魔法陣がノーマッドの真下に展開された。
『ふぁっ!?』
魔法陣は一瞬で掻き消えたかと思うと、地面が大蛇のように隆起しノーマッドの車体へとまとわりついていく。巨大な質量がうごめいているというのに、大きな音はほとんどしない。耳に届くのは草原を吹き抜ける風の音と、装甲板を擦る土の音だけ。10秒にも満たない間、ノーマッドの車体でうごめいていた土塊はようやく動きを止めたかと思うと、数秒前までの動きが嘘のようにぼろぼろと崩れ、車体から滑り落ちていく。後に残ったのは
『な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!?』
『ううっ、ひっく、汚されちゃったよう』
「誤解しか生まなそうな表現はやめろ」
比較的のんびりとした速度で先ほどのキャラバンの後ろをついていくノーマッドの車内には人工知能のすすり泣きが満ちていた。
「こうでもしないと目立つからな、天井のがとりんぐ?とかいう機関砲は砲身にカバーをかけるぐらいで済ませたのだから感謝しろ」
そのすすり泣きを聞き流し、どこ吹く風と言った風の魔女は横柄ともとれる言葉を吐きつつ、クッキーを齧っている。
『ひどい!ひどすぎる!戦車から主砲を取ったら無駄に硬い装甲車しか残らないじゃないですか!そうでしょう?!ユキトさん!貴方なら私の嘆きが解るはずです!デカい大砲が嫌いな漢が居ますか?!いや、いない!』
「まあ、浪漫は好きだが…さすがにこんなゲテモノ連装砲付きの戦車だと警戒されまくるだろう」
『行き過ぎた
ノーマッドがいつも以上に荒れているのはアルマの錬金術が原因だった。
155㎜もの口径を持つ戦闘車両が存在しないエリクシルにおいて、それを連装砲塔に収めたノーマッドの存在は特異に過ぎ、追われている立場のアルマにとっても、異星の探索が目的のユキトにとっても悪目立ちするのは避けたかった。
そこでアルマは周囲の大地を鉄へと錬成しノーマッドの車体上部を丸ごと覆うような偽装カバーを作り上げて、あたかも巨大なハーフトラックに見えるように偽装した。というのも、車体から大きく前方に張り出した主砲を格納するカバーをそのまま創るとフロントヘビーも甚だしく、バランスをとるために偽装カバー前部に4輪の車輪を追加した結果だった。(近況ノートに画像リンクあり)
今のところ、ノーマッドが使用できる武装は砲塔上部に搭載されていた
「まあ落ち着け、ノーマッド。逆に考えようじゃないか?」
『はい?』
「確かに主砲は使えんが、波動砲だと思えばいいし、何よりアレが出来る」
『………ハッ!?』
「大ピンチの時に
『…………………』
「おい、どうした?」
アルマにとっては理解不能な単語と情熱の羅列に急におとなしくなったノーマッドに不気味さすら覚えてしまい、思わずユキトの顔をけげんな顔で見てしまう。視線の先には、悪だくみが完全に成功した悪党の様な笑みを浮かべている戦車長。この逃亡生活において頼る相手を間違えたかと何度目かわからない自問が頭をもたげる。
『Cooooooooooooooooooooolッ!最ッ高ですよ!超Cooooolじゃないですか!さすがは我が戦車長!そこに痺れる憧れるぅ!直にこの車両に最適なアーマーパージシークエンスを作成しましょう!必要な爆砕ボルトの量!タイミング!パージ指令コマンドを作成しますのでちょっと黙ります!』
一方的に興奮した思考を垂れ流した後、車内にはノーマッドの喧しい声と入れ替わりで電算機がフル回転する音が響き始める。一仕事終えたといったような、どこかやり切った表情を浮かべたユキトは「ようやく静かになった」とシートに背を預けた。
ふと視線を感じるて振り返ると、呆れたようなアメジストがこちらを映している。
「如何した?アルマ」
「何でもない。……一応聞いておくんだが、装甲強制排除からの主砲斉射に浪漫があるのか?」
「何言ってる?装甲が吹っ飛んでとっておきの秘密兵器が出てくるとか勝利フラグ以外の何物でもないだろう?第一、カッコイイじゃないか」
「…………ハァ、貴様も同類か。期待した私がばかだった」
「ま、女の子には解らないかもな。でもさ、実際にその機能が完全に決まったら痺れると思うぞ?」
「
呆れたような同行者のド正論すぎる一言に何一つ言葉を返せなかった。
ディオノスに近づくと国を取り囲んでいる白亜の壁が垂直に切り立った壁ではなく、急傾斜がつけられた斜面になっていることが分かった。アルマによれば、もともと円形の山が連なる地形、俗にいうクレーターをそのまま利用して防壁にしており、ほかの国々も同じような地形をもとに防壁を建造しているらしい。
「ということは、大量の隕石が過去に落ちたのか?」
「ああ。それこそがこの星の大災害の始まりだったらしい。無数の宙の涙が大地に降り注ぎ、動植物が死に絶え、地表は焼かれ、続いて魔獣の冬がやってきた」
キューポラから上半身を出してディオノスの白亜の壁を見上げる少女の顔は、過酷な過去に思いをはせているのか僅かな陰りを見て取れた。
「恒陽の光が突然遮られ、地表から昼が奪われた。星も見えぬ暗い空をヒュッケバインが旋回し、そのころの魔術が通用しない雑多な魔獣が大地を覆った。大幅に数を減じたこの星の知的生命体は宙の涙が落ちた地を錬金術と結界によって要塞化し、魔獣に対抗できる力が出来るまで耐え忍んだ。生命に大損害を与えた涙が、わずかに残った高等知性のゆりかごになったというのは皮肉に過ぎるがな」
「対抗する力が、ビークルというわけか。君を助けた時から疑問に思っていたのだが、どうもビークルが魔獣に対抗できる唯一の手段だというのが納得がいかないんだが。僕たちから見ると、火力はともかく防御能力がどうにも低すぎる」
よい機会だと思いノーマッドの疑問点をぶつけてみる。直射式としか思えない砲の構造を持ちながら、正面戦闘を考慮していない車体設計を持っていたザラマリス憲兵の装甲車。アレがこの星のスタンダードなのだろうか?
「貴様が見たのはザラマリス憲兵隊のビークルだな?まあ、アレは旧式ということもあるが、基本的にビークルは魔力障壁による防御を第一とする。装甲を厚くしすぎるといざというときに逃げられんし、重すぎて動けなくなり操縦士の消耗も激しくなる。貴様らの星の機械のように怪しげな機構を使って、ボタン一つで動かしているわけではないのだからな」
「僕らからしてみれば、君らのほうが怪しげな機構を使っているように思えるけどな」
「フ、お互いさまというわけだ」
異なる星の2つの常識、片方だけならば表出することがないその違いになぜか二人して小さな笑みを漏らしてしまう。
「そのことは街に入ってから話すとしよう。それと、これを首にかけておけ」
彼女から投げ渡されたのは3㎝程の高さを持つ六角柱上のクリスタルがぶら下げられたペンダントだった。クリスタルの中には紫色の光が淡く輝いている。
「魔術妨害術式を仕込んだペンダントだ。この星の住人なら誰もが無意識に張っている、個人の情報を保護する程度の代物だが、それをかけておけば貴様が魔力炉を持たぬ異星人だと悟られることはない。貴様の正体を知るのは私だけで十分だ」
礼を言って、外から見えない様に首にかけた後で上着の中へと入れる。意外なことにその六角柱は人肌ほどの温度を発しているのか、冷たさを感じなかった。これも魔術によるものなのだろうか。
前方ではキャラバンの最後尾だったハーフトラックが壁の一部に口を開けたトンネルの中へ消えていく。トンネルの横には警備員の詰所の様な小屋があり、先日接触したザラマリス憲兵とはまた違ったデザインの制服に身を包んだ初老の男性が此方をけげんな目で見ていた。錬金術で車体を覆ったとはいえ、さらに巨大になったノーマッドは奇異に見えるのだろう。
赤と黄色でどぎつく塗装された停止を促すバーが下がり、ノーマッドはその手前で停車する。
「おはようございます。入国する人数と積み荷と目的は?」
「おはよう。人数は人間2名、アルマ・ブラックバーンとユキト・ナンブだ。さらにインテリジェンス・ビークル1機。積み荷は特に無し、目的は観光と物資の補給、職探しに
アルマが手慣れた様子で男性の質問に答え、懐から取り出したカードを審査官の方へと放り投げる。放り投げられたカードは滑るようにルブレヒト・シュルツと言う男性――胸にネームプレートが掛かっていた――の手へと吸い込まれていき、彼はそれを一瞥し、一つ頷く。柔和な印象を覚えさせる穏やかな口調だったが、その眼は細く自分たちが国に害を与えるものではないか審査する光が宿っていた。どうやら、彼は日本でいうところの入国審査官の立ち位置らしい。
「中を調べさせていただいても?」
「構わぬ」
彼女の即答にピクリと眉を動かしそうになる。ノーマッドは異星の技術の塊だ、容易に調べられてよいものではない。中を見られれば最後、怪しんでくださいと言わんばかりのものが並んでいる。
しかし、予想に反して入国審査官はノーマッドに乗り込むことはなく杖をかざすと異常なしとつぶやいた。
「特に危険物は検知されませんね。インテリジェンス・ビークルの登録は済んでいますか?」
「ああ、忘れていた。それの登録も目的に入れておいてくれ」
「承知しました。念のため、ゴーストの名前も押してていただけますかな?」
『ドーモ、シュルツ=サン。ノーマッドです』
「これはご丁寧に。ではブラックバーン嬢、ナンブさん、ノーマッドの入国を認めます。身分証と入国許可証をお渡しします、出国まで絶対に無くさないでください」
杖で床をたたく動作をすると、小屋の中から1枚のカードが此方へ滑るように飛んでくる、アルマの方には同じカードと身分証が2枚。プラスチックに似た素材の硬いカードでディオノス市国の旗がデザインされており、入国日や名前、入国ゲートなど基本的な情報が書き込まれていたが歯抜けの項目も多い。そこは身分証が手に入ってから書きこまれるのだろう。
「ようこそ。白亜の国、ディオノス市国へ。」
必要な仕事を終えた審査官は柔和な笑みを浮かべて杖を軽く振るう。魔力が渦巻く感覚を一瞬感じると、赤と黄色のバーが両側へ跳ね上がった。
「貴方たちの滞在が善きものと成ることを切に願います」
ノーマッドがゆっくりと動き出す中、なんとなく審査官に敬礼する。お辞儀よりも敬礼のほうを自然に行ってしまったのは、ナノマシンと帝国陸軍の軍服にしか見えないこの服のせいだろう。彼は一瞬面食らったように見えたが、すぐに笑みを浮かべて一部の隙も無い敬礼を返してくれた。
トンネルは徒歩で通れば広いと感じるのだろうが、大型の戦闘車両に乗ったままな上、照明は弱弱しく発光するクリスタルだけなのでやはり圧迫感を感じてしまう。
「さて、ようやく一息付けるな。必要なことを済ませたら宿をとるぞ。貴様には聞きたいことが山ほどある」
「此方も聞きたいことが山ほどあるんだ、お手柔らかに頼むよ」
「期待するだけ無駄だ」と彼女が笑う。
短いトンネルの向こうからは市街地の喧騒が響いていた。
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