アネモネ

「おにぃ、起きておにぃ! 3・2・1・天誅! 」

 その声と同時に俺の顔に濡れたティッシュが被せられる。

「お前さ、俺を殺す気? 」

 顔に被せられたティッシュを取って身体を起き上がらせる。

「おにぃ、今日から新しい学校だね! 楽しみだね! 」

 そういって義妹の美遥みはるが俺の隣で笑っている。

「あぁっ、そうだな…。それより顔洗って、朝飯作るから美遥は洗濯物を干しといてくれ」

 俺は立ち上がり、顔を洗いに洗面所に行く。

「それにしても叔父さんと叔母さんも、いきなり海外に移住するんだもんな…。かなり驚いたよ、それで部屋が余るし美遥が1人だと心配だからって京都の親戚の家に居候してた俺を呼び寄せるんだもんな…」

 顔を洗い、リビングに戻った俺は昨日漬けておいた鮭をグリルに入れて、そのあいだに豆腐の味噌汁を作っていく。

「おにぃ、って女子力高すぎだよね? どうしてそんなに出来るの? 」

 俺の作った朝飯を食べながら美遥が不思議そうに尋ねてくる。

「5歳から、色んな親戚をたらい回しにされてたから勝手に身に着いた処世術だよ。自分のことは自分でやってたからね」

 そういって食べ終えた食器をシンクに持っていき洗い物を始める。

「なんか変なこと聞いちゃってごめんね、おにぃ」

 洗い物をおこなっている俺の隣にやって来て、美遥は食器を拭いていく。

「いや、特に何とも思ってないから大丈夫だぞ? それよりも、ありがとうな。叔父さんと叔母さんに引き取られて、まだ1ヵ月ぐらいだっていうのにここまで素で居られるのは従妹で幼馴染の美遥の家族だったからだと思う」

 改めて美遥に礼をいうと彼女は頬を赤らめ俯いてしまう…。

「あっ、ヤバい! 美遥、早く学校に行く支度するぞ! 時間がマズいぞ」

「嘘ッ! あっ、本当だ…。ヤバいじゃん、おにぃ! 」

 そういって俺と美遥は慌てて家を飛び出した。

「おっ、おにぃ…。速い、速いよぉー」

 そういって息を切らせながら美遥が俺の後を追ってくる。

「美遥、無理しなくてもいいぞ。俺は転校の手続きがあるから先に行くだけだからな」

 そういうと美遥は頬を膨らまして俺を見つめている。

「おにぃ職員室の場所を知らないじゃん」

 そういって美遥は苦笑いしながら頑張って、後をついてくる。


「おはよう♪ おはようございます」

 校門の前であいさつをしている生徒がいる。

「おはよう♪ あっ、美遥ちゃん! 今日から新学期で生徒会は朝から挨拶運動って言いましたよね? 」

 そういって校門で挨拶をしていた女の子が美遥に駆け寄っていく。

「あれ? そんなこと言ってたっけ? 休み中に色々あって忘れちゃった♪ 」

 美遥はそういって頭を掻いている。俺の責任も少しあるかもしれない…。

「まったく、色々って何があったんですか? 」

 女の子は呆れた目で美遥を見つめてる。俺からも謝っておいた方が良いかもしれない。


「ごめん、ちょっと良いかな? 」

 そういって美遥と女の子の間に立つ。

「んん? どうしたの? 」

 美遥が不思議そうに俺を見つめてくる。

「えぇーっと、どうしたんですか? 」

 女の子は困った顔で俺を見つめてくる。

「いや、美遥が生徒会の仕事を忘れたのには俺も関係しているんだ、だから俺からも謝らせてくれ。申し訳なかった」

 そういって頭を下げると美遥と女の子が慌てている。

「おっ、おにぃ! 大丈夫、大丈夫だから! 美波みなみちゃん怒ってないから! このやり取りは私達の中では、いつも通りだから」

「そっ、そうですよ! とりあえず頭をあげてください。校門の前でこんなことをやられると困りますよ」

 二人に諭され俺は頭をあげる。

「おにぃ、って昔から突拍子のないことやるよね…。いや、まぁ、そこまで思ってもらえてるんだなぁーって思うと嬉しいけど…」

 っと言ってモジモジしている。

「いや、何かそういう甘い雰囲気はいいから…。それより美遥ちゃん、どういうこと? もしかして彼とイチャイチャしていて忘れたんですか? 」

 向かいに居る女の子が美遥に尋ねると美遥は顔を真っ赤にして俯いてしまう。俺とイチャついていると誤解されて恥ずかしいのだろう。

「違います。俺は美遥の従妹で彼女の両親に引き取られたんです。それで引っ越しの作業とかを彼女に手伝ってもらっていて、そのせいで忘れてしまったんだと思います」

 そういって彼女を見つめると彼女も俺のことを見つめてくる。

「知ってますよ? 夏休み中に1回会いましたよね? 確か美遥の家に遊びに行ったときにお茶を出してくれて…」

 まったく覚えてない…。どうしよう?

「なるほど、転校生は貴方だったんですね? よろしくお願いします、さぎのみやさん」

 あれーっ、何でこの人俺の名前を知ってるの? 自己紹介なんてしてったっけ?

 どう反応すればいいのか迷っていると美遥が耳元で囁いてくる。

仁比山にいやま美波ちゃんで、おにぃと同い年だよ! 8月に遊びに来た時に遭ってる」

 俺が困っていることに気づいた美遥が教えてくれた。


「こちらこそよろしく、仁比山さん。同じ学年だからクラスが同じだと心強いんだけど…」

 そういって手を出して微笑むと彼女も笑って握手をしてくれた。

「それじゃあ、一緒に職員室に行きましょ♪ 」

 俺達は三人で職員室に向かうことにした。

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