with you

 校長室を出て3年生のクラスを見に行くが生徒は皆、帰っていて教室はもぬけの殻だったので、俺は他の二人の容疑者の教室に寄った後、調理室に行くことにした。


「継君、楪先生の用事は済んだの? 」

 調理室に入ると澪川さんが包丁を持って駆け寄ってくる。

「ちょっ、落ち着いて! 一旦、包丁を置いて! 」

 そういうと澪川さんは包丁を持ったままだったことに気がついたのか苦笑いをして、まな板に包丁を置いて駆け寄ってくる。

「継君、お疲れ様。今、マフィンが出来上がったの♪ 継君、一つどーぞ」

 そういって澪川さんが出来上がったマフィンを一つ渡してくる。

「ありがとう、いただきます」

 お礼を言って、渡されたマフィンを食べると、なんだか不思議な味がする……。

「なんか不思議な味がするんだけど……。このマフィンって何味? 」

 見当がつかなかったので素直に聞くと澪川さんは微笑んで冷蔵庫から色んな材料を持ってくる。


蜂蜜・チョコレート・コーヒー豆・生姜・ラム酒・紙袋に入った茶色い粉末


 茶色い粉末が何か気になるが何も不思議なものは入っていない……。本当に何なんだろう? 

「その茶色の粉は? 」

 そう尋ねると澪川さんは笑って

「マカの粉末だよ? 特に変な味はしないと思うけど? 」

 そういうと『なんだか熱くなってきちゃった』と言って彼女はブレザーを脱ぎ始めブラウス姿になると汗で水色の下着が透けてしまっている。

「澪川さん、透けてる! 透けてるから! 熱いと思うけどブレザーを着て! 」

 そういうと澪川さんはトロンとした目で俺を見つめて、こちらに寄り掛かってくる。

「継君、継君だって興奮してるじゃん……。ねぇ、しよ♪ 」

 そういって抱きついてくるので俺は手を振り解き、一目散に逃げだした……。

 後日、気づいたのだが材料として使われていた【蜂蜜・チョコレート・コーヒー豆・生姜・お酒・マカ】は媚薬としても効果があると言われている食材だった……。


【澪川サイド】

 もうっ、継君のいけず! あないに生徒会の子達と仲良うして! 継君はあの時からうちの物なんやさかい……。絶対にあないな人達に渡してなるもんどすか! 私の処女は継君のためにあるんや……。

「だから継君、うちは貴方のお嫁はんになるね♪ フフッ♪ フフフフフフッ♪ 」


          6


「ビックリした……。いきなり澪川さんはどうしたのだろう? もしかしてラム酒のアルコールが抜けてなくて酔っぱらっちゃったのかな? 」

 突然の出来事でまだ心の整理が出来ていないので言葉にしながら整理をする。

「あんなに可愛くて誰にでも優しい彼女が俺みたいな人を好きになるなんてこと無い……。だから、アレはきっと酔っぱらっていたんだ、そうに違いない」

 自分で言っていて何だか悲しくなってくる。

「家に帰る前に商店街に寄って買い物をしよう……。あっ、でも酔っちゃった澪川さんと顔合わすの気まずいな……。ちょっと遠いし高いけど近くのスーパーに行くか……」

 俺は、家の近くのスーパーに寄ることにした。


「先輩、買い物ですか? 」

 スーパーで野菜を品定めしていると後ろから小春ちゃんが話しかけてくる。

「あっ、小春ちゃん。そうだよ、買い物だよ。小春ちゃんも買い物? 」

 そう尋ねると小春ちゃんは後ろを振り向きカートを押している女性を見る。

「そうです。母と一緒に買い物に来てます」

 彼女の視線の先を見ると小春ちゃんに似ている女性が会釈をしてくる。

 なので俺は小春ちゃんのお母さんに挨拶に行く。

「こんばんは、2年の鷺ノ宮 継と言います。小春ちゃんには生徒会でお世話になっています」

 そう挨拶をすると小春ちゃんのお母さんは嬉しそうにニコニコ笑って大根を手に取る。

「あっ、その大根より、こっちの大根の方が良いですよ」

 そういって俺は3つ隣にあった大根を小春ちゃんのお母さんに渡す。

「大根は触ったときに硬くて、ハリとツヤがあって色が白く、ひげ根が少なく均一に並んでいる物の方が新鮮で美味しいですよ」

 不思議そうな目で見つめられるのは何故だろう……。

「男の子なのに野菜の見分け方とか分かるの? 凄いわね! それに、もしかしてだけど料理もするの? 見慣れないスパイスを買っているみたいだけど……」

 小春ちゃんのお母さんが、俺の買い物かごに入っているクミンシードを見つめて聞いてくる。

「いや、そんなに珍しいスパイスでは無いですよ? カレーに使うガラムマサラとかに使われていますし……。美遥、従妹の女の子がよく貧血になるので欠かせないんですよ。クミンはヘモグロビンを作るのを助けたり、赤血球を作るのを助けたりする効果があって貧血の予防や改善に期待できるんですよ」


 また驚かれてしまった……。そんなに驚かれる様なことなのだろうか? 

「継君、小春に料理を教えてあげてくれない? この娘、料理が出来ないのよ。他は出来るんだけど……」

 そういって俺のことをチラチラと見つめてくる。

「おっ、お母さん! 先輩に言わないでよ! 恥ずかしいじゃん! 」

 小春ちゃんは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにお母さんのことを叩いている。

「別に恥ずかしいことじゃないよ、何でも完璧に出来る人より、苦手なことがある方が可愛らしいよ♪ 」

 そういって小春ちゃんに笑いかけると小春ちゃんは顔を隠してお母さんの背後に隠れてしまう……。

「あらら、照れちゃった……。継君、この娘ダメだと思うから今日は失礼するわね♪ それじゃあ、またね♪ 」

 そういって2人はレジに行ってしまったので俺は買い物を続け、クミンシードの他にいくつか食材を買って家に帰ることにした。


「おにぃ、今日はオムライスが食べたい」

 美遥からそんなリクエストを受けたのでデミグラスソースのオムライスを作って、その日の夕飯は簡単に済ました。

「それじゃあ、お休みなさい。おにぃ」

「あぁ、お休み」

 そういって部屋に戻り3年の【清水 政宗】の机から採取した指紋と他の二人の机にあった指紋を隠しカメラから採取した指紋と照合する……。

「やっぱり……」

 とりあえず明日、みんなに分かったことを報告しようと思い、今日は寝ることにした。


「まず、結論から言うね……。3年の【清水 政宗】先輩は今回の犯人ではないことが分かった。理由は彼の机にあった指紋を全部確認してみたんだけど1つも【左偏流弓状紋】が出なかった……。指紋を1つも付けないで机で授業を受けるなんて無理だと思う、だから彼は限りなく白に近いと思う。あとの二人はどっちも【左偏流弓状紋】が検出されたからどちらかが犯人の可能性が高くなった」

 そう伝えると七緒はショックが隠せないのか落ち込んでいる。

「七緒、落ち込むのは早いだろ。犯人じゃないって思うなら、落ち込むより犯人じゃないっていう証拠を集めてくればいいだろ? 」

 そういって彼女を励ますように肩を叩くと七緒は頷いて、生徒会室を出て行ってしまう。

「鷺ノ宮くん、いいの? 七緒ちゃんにあんなこと言って……。コレを設置するってことは、たぶん犯人は分かっているのですよね? 」

 そういって仁比山さんは俺から、ある物を受け取って生徒会室から出て行く。

「何となくは分かってる、あと動機さえ見つかれば繋がる……」

 週末まであと2日(金・土)

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