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「おはよう、おにぃ」

 そういって美遥が瞼を擦りながら2階から降りてきた。

「お前は相変わらず朝が弱いよな? 昨日は時計が鳴らなくて、たまたま俺が寝坊したけど美遥はいつもだもんな…」

 そういって、ぬるま湯で湿らせたタオルを美遥に渡す…。

「誰のせいで悶々として寝れなかったと思ってるんだバカおにぃ」

 美遥が恥ずかしそうに何かを囁いているが全く聞き取れない…。

「ほらっ、どうでもいいから朝ご飯食べるぞ」

 『いただきます』と挨拶をして俺はサバの味噌煮を箸で解しながら食べ始める。

「うわぁ、おにぃ朝からサバ味噌! やった! おにぃ最高! 」

 チョロいな…。そんなことを思ったのは、もちろん秘密である。

「美遥、昨日は悪かったな…。そのお詫びって言ったらおかしいかもしれないけど、お弁当作っておいたから昼食の時にでも食べてくれ」

そういってバンダナに包んだお弁当箱を美遥に渡す。

「おにぃ、ありがとう! それじゃあ私、着替えて学校に行くから鍵閉め、お願いね」

 美遥は味噌汁を飲み干すと洗面台に向かっていった。


 美遥が歯を磨き、着替えて学校に行った後、俺は家の掃除と洗濯物を干す。

「よしっ、今日も完璧! 俺も学校に向かいますか」

 俺は鞄を持って家を出て、鍵を閉めて学校に向かう。


「おはよう…? おーいっ、おはようってば」

 通学路を歩いているとウチの学生たちが挨拶を交わしている。

「いい加減に返事してよ! 無視するならエイッ! 」

 いきなり右腕に抱きつかれる。抱きつかれた腕を見ると頬を膨らました澪川さんが居た。

「おはよう、もしかしてさっきから挨拶してた? 」

 澪川さんに尋ねると彼女は頷いて俺を見つめてくる。

「ごめん、まったく気づかなかった」

 そういうと彼女は俺の腕に抱きついたまま移動を始める。

「えっと、どうして腕に抱きついたままなのかな? ここ学校の近くだし、抱きついたまま通学すると変な誤解されるよ? 」

 そういって手を離すが澪川さんが握ったまま離そうとしてくれない。

「別に誤解されてもいいじゃん、っていうかいい加減気づいてよ、バカ」

 顔を真っ赤にして何か言ってるけど恥ずかしいなら離せばいいのに…。

 そんなことを思いながら歩いていると俺達の前に但馬が歩いているのに気がついたので俺は澪川さんに先に行くことを伝え、なんとか腕を離してもらい但馬のもとに行く。

「おはよーさん、但馬、プリント夏休みの課題だったじゃねぇーか…。澪川がお前に返しに行くって言ってたけど、ちゃんとやったか? 」

 但馬の目の下にはクマがはっきりと浮かんでいる。

「終わってねぇーよ…。どうしよう今日の2限には提出なんだよ…。それよりお前も大変だな…」

  目の下のクマは何をしていて出来たんだよ…。勉強して出来たんじゃねぇのかよ? ってか大変そうって何がだ?

「あぁ、目の下のクマか? PS4やってた! 」

 自業自得だな…。なら遠慮なく金を取ろう。

「ここに答えの記入されたコピーのプリントがあります。落札価格は2000円からです。落札しますか? 」

 そういって俺は鞄からコピーのプリントを出す。

「2000円かぁー、高いだろ…。もう少し安く…」

「ならないな、家でゲームをやっている暇があったならプリントをやればよかった。コレでも友情価格だぞ? 」

そういうと但馬は渋々財布から2000円取り出し、俺に渡してきた。

「昼飯、一緒に学食で食おうぜ、これで奢るから」

 そういうと但馬は笑いながら頷いて『サンキューな』と言って、走って学校に向かっていった…。今から受け取ったプリントの答えを写すのだろう。

「先生、あんまり感心しないなぁー」

 背後から声が聞こえたので振り返るとそこには楪先生が立っていた…。たぶん但馬は先生が見えたので逃げたのだろう…。あの薄情者。

「先生ね、思うのだけど宿題は友達に見せてもらう物でもないし、ましてや売買するものではないと思うの…。どうかな、継くん? 」

 表情は笑っているんだけど、目が笑ってない…。

「はい、先生の仰る通りです。すみませんでした」

 そういって頭下げると先生は頷いて俺の頭を撫でてくれる。

「分かったなら、良いんだよ♪ でも次は無いからね」

 そういって先生と喋りながら登校する。


「へーっ、じゃあ先生って新卒の先生なんですね? 」

 どおりで若い訳だ…。納得。

「そうだよ、そんなに継くんと歳は変わらないんだよ♪ 」

 そういって先生はニコニコ笑っていて、少し可愛らしいと思ってしまった。

「継くんって今、1年生の萌木さんの家に住んでいるのよね? 不純異性交遊はダメだからね」

 いたずらっ子のように微笑みながら、先生は俺を指差してくる。

「それより、そのキーホルダー何も絵柄が無いけど、どうしたの? 」

 腰からぶら下げているキーチェーンに付いている白い陶器のキーホルダーを見つめてくる。

「昔、亡くなった母に貰ったんです。昔は何か絵柄があったはずなんですけど、いつも身に着けてたからか、絵柄が消えちゃって…。このキーホルダーと対になる物もあって、それは昔大切な人にあげた気がします…。両親が亡くなって精神的に安定していない時だったんで、誰にあげたのか覚えていないですけどね…」

 そんなことを話しているうちに校門前にたどり着いた。

「おはようございます♪ あっ、おにぃ♪ おはよっ」

 そういって美遥が駆け寄ってくる。

「今日は仁比山さんに迷惑を掛けてないよな? 」

 美遥の隣で微笑んでいる仁比山さんを見つめると彼女は指でOKサインをしてくる。

「それじゃあ、仕事がんばれよ♪ 仁比山さん、美遥をビシバシ扱き使っていいですからね」

 そういって俺は校舎に入る。

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