irony

教室にむかい廊下を歩いていると前から見知った顔が手を振りながらやって来る。

「おはよう継、生徒会に入ってくれる気にはなったかな? 」

 七緒が手を振ってやって来るもんだから、周りの生徒たちが俺のことを訝しげな視線で見つめてくる。

「目立つな、お前…。生徒会かぁー、そういえば一つ聞きたいんだけど、生徒会の役員って部活は何か入ってるのか? 」

 昨日美遥に聞きそびれてしまったので七緒に聞いてみることにする。

「うん、みんな何かしらの部活には入ってるよ。ちなみに私はチア部だよ♪ 継はサッカー好きだったよね? もしかしてサッカー部? 」

 そういって俺の顔を見つめてくる。

「いや、サッカーはスパイクだったりソックスだったりで、金が掛かるから辞めた。中学の頃は一人で出来てお金の掛からない部活をしていたかな…。そのおかげで簿記2級を中学3年に取得してる。高校はバイトしてたから部活はしてなかったな…」

 そういうと七緒は俺の頬を指で押してくる。

「継は何がしたいの? 清櫻はバイト禁止で部活は全員が入部しなくちゃいけないからね? 今日は放課後、色々と見て回ったら♪ 」

 そんなことを話しているうちに俺の教室の前に着いたので七緒と別れ、教室に入る。


「「どういうことだ! 」」

 教室に入ったとほぼ同時にクラスの男子達から教室の隅に連行された…。

「どうして君みたいなパッとしない奴が【清櫻の白百合】桜庭さんに話しかけられているんだ? 何か彼女の弱みでも握って、自分に話しかけてくるように命令しているんだろ」

 そういって学年でも頭も良くてイケメンと言われる男が俺の胸倉を掴んでくる。

「ちょっ、ただの幼馴染ってだけの話だから…。それに優等生でイケメンの仮面が外れかかってますよ」

 そういって笑いかけると彼は舌打ちをして手を離してくれた。

「それじゃあ、戻りますね」

 そういって席に戻ると但馬が絡まれている様子を見ていたのか手招きをしてきて耳を貸すように言われたので彼は周りに聞こえないように耳打ちをしてきた。

「アイツ、名前は武田たけだ龍馬りょうまっていうんだけど、1年生の時、学年集会でみんなが居る前で桜庭さんに告白して【私には将来を約束した人が居ます貴方とは付き合うつもりがありません】って断られて爆死したんだよ。それからアイツは桜庭さんに近づく奴を目の敵にしてて…。お前も大変だな? でも桜庭さんからお前に話しかけているんだよな? 何でだろうな? 本当に幼馴染ってだけなのか? 」

 そういって俺を見つめてくるが、それ以外思い当たる節が無い…。

「あぁ、それ以外思い当たらない…。あっ、でも生徒会に入らないかって勧誘されてる」

 但馬にそう伝えると彼は驚いた顔をしている。

「お前、その事は絶対周りに言うなよ! 龍馬も生徒会に入ろうと嘆願書を出したみたいだけど下心のある人はいれませんって言われて却下されてるんだ…。バレたらまたややこしくなるぞ」


 そんなことを但馬と話していると教室の扉が開く音がして誰かが俺の机の横で止まる。

「ねぇ鷺ノ宮さん、生徒会に入るか決めましたか? 七緒ちゃんが気になってて」

 仁比山さんが名指しで尋ねてきた…。名指しじゃなければスルー出来たのに…。

「それじゃあ俺、勉強再開するわ」

 但馬は逃げ出した…。

 周りの男子と女子がザワザワしている…。

「私は、鷺ノ宮さんが生徒会に入ってくれると助かるな♪ 男の子が入れば昨日みたいな力仕事も大分楽になると思うし」

 あっ、さっきの男が来た・・。

「仁比山さん、そんな男に頼まないで僕に頼みなよ、僕が生徒会に入って手伝ってあげるよ」

 そういって仁比山さんの肩に手を置く。

「鷺ノ宮さんは、どうして迷っているんですか? 七緒ちゃんだって、お願いするなら貴方しかいないって凄く信頼しているんですよ? もし生徒会としての仕事が不安なら私がフォローするので任してください」

 後ろにいる武田の顔が凄いことになってるんだけど…。

「あのさ、僕のことを無視しないでくれる? 僕が生徒会を手伝ってあげるって言ってるんだよ? 」

 あぁーっ、笑顔が引きつってるよ…。これ以上、彼を刺激するようなことは控えた方が…。

「結構です。手伝ってあげるよ? そんな上から目線の人に頼むようなことはありません。それに少し頭が良くて顔が良いからって調子に乗らないでください♪ 中身はクズ以下で評価が出来ないんですから♪ 七緒ちゃんも貴方のことを裏表があって信頼出来ないって言って生徒会に入ることを許可しなかったんですから、身の程をわきまえてください」

 あぁーっ、火に油を注いじゃったよ…。

「てめぇ、調子に乗るなよ! 」

 あぁーっ、本当は目立たず地味に学園生活を送りたかったのに…。


「やめなって、女の子に手を出すのは男としてダメだろ」

 振りかぶった拳を捌き、自身の拳を彼の顔面に寸止めする。

「たまたま当たらなかったからって調子に乗るなよ」

 そういって彼は俺を睨みつけてくる。

「俺の場合は寸止めしたんだけどね♪ いちいち噛み付いてこないでくれるかな? 見てて不快だから」

 俺はそういって彼の手を離して微笑みかけると教室には険悪なムードが漂い始めた。


「みんな、なに、ボーっと立っているの? 早く席に着いて」

 教室に入ってきた先生の声と共にみんな席に着き、その日の授業が始まった

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