アワイ オモイ
「失礼します」
そういって調理室の扉を開けると何かが焦げた臭いが微かに漂う…。
「あれっ、鷺ノ宮くん? どうしたの? 」
そういって不思議そうに首を傾げて尋ねてくる。
「いや、お昼の件がどうなったかな? って思って…。場所については生徒会長の七緒に聞いた」
そういうと彼女は驚いた顔で俺のことを見つめてくる。
「七緒って生徒会長の桜庭さんの事だよね? 知り合いだったの? 」
驚いた様子で尋ねてくるので俺は頷き、直人の出会いを要約して澪川さんに話す。
「なるほど、そんなことがあったんだね? あっ、お昼のプリントだよね? コピーしておいたよ♪ どーぞ! 」
そういって澪川さんは、鞄から例のプリントを渡してくる。
「澪川さん、ありがとう。それより、ちょっと焦げた臭いがしてたけど何か作っていたの? 」
そう尋ねると澪川さんは恥ずかしそうな顔で、少し焦げてしまったアップルパイを差し出してきた。
「少し焦げちゃってるけど食べる? 」
アップルパイは端の方が少し焦げてしまっているがシナモンの香りがして、とても美味しそうだ。
「それじゃあ、俺はアップルパイのお礼に水筒に入れてきたコーヒーを一緒に飲もう」
そういって鞄から水筒を取り出し、カップに中のコーヒーを注いでいく。
「どうかな? 少し焦げっちゃったけど…」
不安そうに俺のことを見つめているが全然問題ない…。かなり美味しい!
「いや、コレかなり美味しいよ! シナモンの香りも良くて…。まだ残ってる? もし残ってたら貰っても良いかな? 従妹の子に食べさせてあげたいんだけど…」
そう尋ねると澪川さんは少し頬を膨らましながら箱に入れたアップルパイを持ってきてくれる。
「ありがとう」
そういって箱を受け取ろうとすると彼女は手を引っ込めてしまう。
「あのね、あげるのは良いんだけど、今は私と二人でゆっくり食べているのに他の女の子のことを話すのは、どうかなぁーって思うんだけど? 」
そういって彼女は頬を膨らましている。
「うん、確かに…。もしかしたら少し無神経だったかも? (えっ、何かマズいこと言ったのかな)」
不思議に思いながらも話を合わして、とりあえず謝りアップルパイを貰った。これで美遥と一緒に帰れなかったことへのお詫びは手に入れた。
「このコーヒー、味がスッキリしてて苦くないね? 美味しい」
そういってカップに注いだコーヒーを美味しそうに飲んでくれる。
「水出しコーヒーだから苦みが少なくて味がスッキリしてるんだよ。アップルパイのシナモンと相性がいいよね、かなり美味しい…。なんかさっきから美味しいしか言ってないな」
そう言いながらコーヒーとアップルパイを食べていく…。
「本当? そんなに美味しそうに食べてもらえると嬉しいな♪ ねぇ、親しみを込めて継君って呼んでいい? 継君、家庭科部に入部してくれない? 夏に3年生が辞めちゃってから部員が4人になっちゃって同好会になっちゃうの部に昇格するには部員が5人居ないといけないのだけど、この時期に入部する人なんかいないでしょ? だから継君さえ良ければ家庭科部に入部してくれないかな? 」
生徒会と兼部は出来るのだろうか? 家に帰って美遥に聞いて大丈夫そうなら入部しても良いかな? 料理は昔から好きだし…。
「名前のことはOKだけど部活については、少し考えさせてもらっても良いかな? 明日には返事が出来ると思うから」
そういって澪川さんを見つめると彼女は嬉しそうに微笑んでくれた。
お皿やフォークなどを洗って、片付けをして俺と澪川さんは校門まで移動する。
「継君の家って何処? 」
駐輪所から自転車を押しながらやって来た澪川さんが尋ねてくる。
「俺の家族が住んでいた家は、もう違う人が住んでるから何処にも無いかな? あっ、でも今は親戚の家を廻ってて美遥…。1年の萌木さんの家に居候させてもらってる…」
そういうと澪川さんは聞いちゃマズいことを聞いてしまったという様なバツの悪い顔で俺を心配そうに見つめてくる。
「大丈夫、大丈夫だから、そんな顔しないで、逆に気を使われるほうが嫌だから」
そういって澪川さんを見ると彼女は頷いてくれる。
「じゃあ聞くけど、そのアップルパイって萌木さんに? 」
そういってアップルパイの入った箱を指差してくるので俺は頷く
「美遥、甘いもの好きだったから…。このアップルパイ、かなり美味しかったから食べさせてあげたいなって思って」
そういって澪川さんを見ると彼女は頬を膨らまして
「本当は継君だけにたべてもらいたいんだけどなぁー。私、継君のためなら何でも作ってあげるよ♪ (それに好きな子を落とすには、まずは胃袋から)」
と言って微笑んで俺を見つめていた。
「それじゃあ、私はこっちだから…。少し名残惜しいけど、また明日会えるよね♪ バイバイ♪ 」
そういって澪川さんと商店街の入り口で別れる。彼女の家は商店街にある花屋さんだそうだ…。
「うん、また明日学校で」
俺は手を振って居候している美遥の家に帰ることにした。
「ただいま」
そういって玄関を開けると美遥が腕を組んで仁王立ちしていた…。
「おにぃ、今日は一緒に帰ろうって昨日の夜に言ってたよね? それに、おにぃが料理してくれないとご飯食べれないじゃん! お腹空いたの! 」
そうなのです。萌木家の両親は父親が仕事で海外に引っ越し、母親は父親に付いて行ってしまい実質、家に居るのは美遥だけ…。しかも家事スキルは皆無…。料理をさせたら鍋を焦がす、洗濯をさせたら白いブラウスが淡い青色になるし、掃除をさせたら本棚を倒して掃除を増やすし…。要するに何も出来ないんだ美遥は…。それで家事が出来る俺に白羽の矢が立ったのだろう。
「確かにもう7時だもんな…。直ぐ夕飯を作るから、そのあいだコレでも食べててくれ」
そういって俺はアップルパイの入った箱を手渡す。
「んんーっ、買収なんて手に乗らないんだから…」
そういって美遥が顔を逸らす。
「このアップルパイ、めちゃくちゃ旨いよ? 美遥が食べないなら俺が食べるけどいい? 」
美遥に差し出したアップルパイの入った箱を手元に戻そうとすると箱が掴まれる。
「はっ、はやく夕飯作ってよね? そのあいだ食べて待ってるから」
俺の持っていた箱を半ば強引に奪い取り、美遥は奥のキッチンに戻っていく。
「美遥、今日の夕飯は何が良い? 」
エプロンを着けながらテーブルでアップルパイを食べている美遥に尋ねると彼女はアップルパイに夢中で全く聞いていない…。
しょうがない、今日は美遥の好きなハンバーグにしておくか…。
俺はハンバーグと付け合わせのグラッセを作り始める。
材料
合いびき肉 400g
A コンソメ 大さじ1
A こしょう 少々
玉ねぎのみじん切り 1個分(200g)
パン粉 1/2カップ(20g)
牛乳 1/4カップ
溶き卵 1個分
酒70cc
Bウスターソース 70cc
Bケチャップ70cc
Bオイスターソース 大さじ3
B砂糖大さじ1
ハンバーグの作り方
1、フライパンに油大さじ1を熱し、玉ねぎを薄く色づくまで炒め、冷ます。パン粉に牛乳を入れて浸しておきます。
2、ボウルにひき肉、Aを入れてよく混ぜ、1の玉ねぎ・パン粉、溶き卵を加えて粘りが出るまで揉む。4等分にして小判形に形を整え、中央を少しくぼませます。
3、フライパンに油大さじ2を熱し、2のタネを強火で1分焼いて裏返し、フタをして弱火で5分焼きます。
4、フライパンに残った肉汁にBを加えて煮立て、ハンバーグにかければ
「はい、これでハンバーグの完成です」
次は人参のグラッセ
材料
にんじん1/2本
バター 10g
砂糖 大さじ4
水 400cc
塩 2つまみ
人参のグラッセの作り方
1、 水400ccににんじん、バター、砂糖を全部入れる。
2、 にんじんが柔らかくなったら甘みを引き出すために塩を二つまみ入れます
3、 あとは煮詰めるだけです。
「うわぁっ、いい匂い! おにぃ、今日ハンバーグ? 」
そういって美遥がキッチンにやって来る。
「あぁ、今日はハンバーグと付け合わせに人参のグラッセにブロッコリーとバターコーンだよ。それより、盛り付けが終わったら洗濯するから洗濯物を出しておいて」
そういって盛り付けていく。
「本当におにぃは。手際が良いよね? 私じゃ絶対出来ないよ」
そういって美遥は2階の自分の部屋に戻っていく。
「俺だって、こうなりたくてなったわけじゃねぇよ…。こうならざるを得なかったんだよ」
両親が5歳の時に亡くなって、それから親戚の家を転々としてたから出来ることは自分でしていた。
「おにぃ今日のブラ、青で新品なんだけど一緒だとマズいかな? 」
そんな声が洗面所から聞こえてくる。
「ネットに入れて分けとけ、それと夕飯の準備出来たぞ」
そういうと洗面所から
「わかったぁー」
と美遥の大きな声と足音が近づいてくるのでテーブルに料理を移動させて席に着く。
正直、女の子が従兄とはいえ男性にブラの洗濯方法を聞くのは、いかがなものかと思うがお互い異性として認識していないから良いのだろう…。
「あっ、そういえばおにぃ、明日からお弁当だからね」
夕飯を食べ終わり、食器を洗っているとリビングでのんびりテレビを見ていた美遥が思い出したかのように話しかけてきた。
「確か但馬もそんなことを言っていたような気がする…。美遥はいつもお昼、どうしてたんだ? 」
美遥は少し考えた後、お財布を確認する。
「お金もあるし、明日は学食にしようかな? ウチの学食は安くて美味しいからね♪ おすすめはカツカレーかな? ボリュームもあって300円だから…。そうだ、おにぃも明日一緒に学食で食べようよ! 生徒会のみんなも喜んでくれると思うよ♪ 」
生徒会の面々と一緒に食事か…。七緒とか清櫻の白百合って言われてるみたいだしな…。さすがに考えさせられるな…。男子達から恨まれるのは嫌だし。
「ごめん、明日一緒に飯食べようって約束した奴がいるから俺はお弁当でいいや、また今度よろしく頼む」
そういって俺は冷蔵庫の中の余り物を確認する。
「よし、あとは明日の朝にお弁当箱に詰め込むだけだな」
そういって俺はエプロンを外してソファーに座りテレビを見ている美遥の隣に腰を下ろす。
「ありがとうおにぃ、私、明日も挨拶運動があるみたいだから、明日は先に家出るから鍵閉めよろしくね♪ 」
そう言ってくるので俺は頷き、テーブルの上で澪川さんから受け取った但馬の特別課題プリントを行っていく。
「何やってるのおにぃ? 」
そういって美遥が俺のプリントを覗き込んでくる。
「あぁっ、1学期の総復習用のプリント? のコピーを貰って、少しでも授業に追いつこうと思ってね」
そういって俺はプリントの問題を解いていく。
「おにぃって犬と猫どっちが好き? 」
テレビを見ながら美遥が尋ねてくる。
「どちらかって言えば猫かな? 自由な感じでちょっとうらやましいかも」
そんな他愛のない会話を少しして美遥はお風呂に、俺は部屋に戻りプリントの続きと但馬から教えて貰った二学期からの範囲を少し予習しておく。
「おにぃ、お風呂出たよ」
美遥の声が聞こえたので1階に降り、洗面所の扉を開けると下着姿の美遥が居た。
「ちょっ…」
着替えるの遅すぎだろ…。仕方ない、さっさと脱いで風呂に入るか…。
そう思い裾に手をかけTシャツを脱ごうとすると頭を叩かれる。
「ちょっ、なに脱ごうとしてるのおにぃ…。少しは恥ずかしがってよ! 女の子の下着姿を見たんだよ? なのに何で反応が自分も脱ぐなの? おかしいでしょ! 」
おかしいと言われても…。美遥は妹みたいな存在だし…。妹の下着姿を見て、欲情しますかって問題になると思うんだよな? 答えは『欲情しません』するはずが無いじゃん…。
「あっ、本当だ、下着姿だったんだ…。きゃーっ、可愛いー! ベッドにお持ち帰りしたい(棒読み)」
「おにぃのバカ! アホー」
美遥は、顔を真っ赤にして洗面所から飛び出していってしまった。
「しょうがない、明日の朝ご飯は少し手の込んだ物にして、お弁当も作って、持たせてあげよう」
そんなことを呟きながら俺は湯船に浸かり1日の疲れを取ることにした。
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