true blue

 放課後


「さてさて二人とも、昨日の行動について教えて貰おうかな? 」

 そういって俺と小春ちゃんを見つめてくる。

「えっと…。昨日は食堂のメニューに関する依頼があって…」

 小春ちゃんが楪先生を見て、怯えながら話し始める。

「うん、その事については学校の栄養士さんから話は聞いたよ」

 声は優しいんだけど顔が笑ってなくて物凄く怖い…。

「確か食堂のメニューをボリュームアップしてほしいって依頼だったんだよね? それで栄養士さんと話して、野菜の価格が高いから無理そうかもって話になったんだよね? それなのに、どうして商店街の色んなお店から電話が掛かってきたのかな? 私、継君たちが商店街に行って食材の話をしてきたってこと何も聞いてないんだけど? 」

 楪先生の背後に阿修羅さまが見えるのは俺の気のせいだろうか…。

「そっ、それは…」

 泣きそうになりながら小春ちゃんが説明をしようとするが、そんな状況の彼女に説明させるわけにはいかない…。そう思い、俺は小春ちゃんの前に1歩出て、彼女を隠すように楪先生と小春ちゃんの間に立つ。

「俺から説明します」

 そういって昨日のことを細かく楪先生に伝えて、謝罪をする。

「本当に申し訳ありませんでした。俺が一人で勝手に行動してしまい、小春ちゃんを巻き込んでしまいました」

 そういって小春ちゃんを庇うと彼女は俺の背中に寄り添って

「先輩だけの責任じゃないです。先輩に順序を教えていなかった私にも責任はあります。楪先生ごめんなさい」

 小春ちゃんは、そういって俺の裾を握る…。

「よく謝れました。二人とも反省してるならいいわよ♪ あとは先生たちが引き継ぐから安心して」

 そういって楪先生は俺と小春ちゃんの頭を撫でようと手を伸ばしてくる。

「継君、やっぱり大きいよね…。なんか悔しい」

俺の頭に手を伸ばしながら楪先生は悔しそうに呟く。

「それは、男性と女性ですから…。仕方ないと思いますよ? 」

 そう笑いかけると楪先生は悔しそうに何かを呟いていた。


【楪サイド】

 

しばらく見ないうちに継君は大きくなっていた。名前は変わってなかったけど顔つきや背丈が変わってたから一瞬、本当に継君かなって思ったけど優しいところや人一倍周囲に気を配るところは変わってなかった…。

「昔の継君はあんなに小っちゃくて可愛かったのにな…」

 継君には聞こえないように小さな声で囁いた。


「継と小春、話が終わったなら、こっちに来て二人の意見も聞かせてくれないかな? 」

 そういって七緒が手招きをしているので俺達は七緒のもとに行く。

「どんな意見書が来てるんだよ? 」

 そういって意見書を見ると、そこには少し難しそうな依頼が書かれていた。


【意見書】

 窓を開けて部屋から出てトイレに行っている間に部屋から腕時計が盗まれてしまった。唯一の出入り口である扉には鍵をかけて外から入れないように締めておいた…。腕時計は妻からのプレゼントなので、とても大切な物なんだ…。どうか探すのを手伝ってほしい

                    校長 井伊いい忠介ただすけ

 まさかの校長先生からの依頼だった…。


「目撃者はいないし、校長室は3階で校長室の窓はサッシだけでベランダ的な感じではない…。鍵も閉めていた…。どうやって盗んだんだよ…」

 窓が開いていて、完全な密室では無いにせよ、どうやって侵入して校長室から出て行ったんだ? とりあえず校長先生に話を聞きに行こう。

「継はどう思う? 」

 七緒が俺に意見を求めてくる。

「とりあえず、みんなで校長先生にどんな状況だったのか話を聞きに行こう」

 そんなこんなで俺達、生徒会メンバーは校長室を訪ねることにした。


「失礼します」

 そういって校長室の扉をノックして中に入ると、部屋の中でキョロキョロしている校長先生が居た。

「あぁ、生徒会のみんな、意見書を見て手伝いに来てくれたのかな? 腕時計はシルバーの物なんだけど…」

 そういって床に這いつくばりながら必死に腕時計を探している。

「それじゃあ、私達も探すので、どういった状況で無くなったのかお話を聞かせてください」

七緒が話を聞くと、どうやら依頼書に書いてあった通り、少し席を外しているうちに時計が盗まれてしまったようだ…。


「鍵を閉めてたから侵入するとしたら、この窓からか…」

 そういって盗まれた当初、鍵が開いていた窓を見ると、サッシの部分に土汚れがある…。

「時計が盗まれたのって昨日でしたっけ? 」

 そう尋ねると校長は頷いて俺を見つめてくる。

「あの日は確か午前中雨が降っていて、盗まれたのは午後の3時…。だとすると、この汚れは…」

 なんとなく犯人は想像がついたのだが確信が無い…。

「俺、ちょっと中庭に言ってくる」

 そういって俺は上着の内ポケットから小さいけど高性能な狩猟用の双眼鏡を取り出す。

「ちょっ、おにぃ! 何それ? 」

 そういって俺が持っている双眼鏡を指差す。

「双眼鏡だよ? 別に普通じゃない? いつも持ち歩いてるし…。じゃあっ行ってくる」

 そういって部屋を出て行くと後ろで美遥が溜息を吐いて『双眼鏡を持ち歩いてるとか普通じゃないよ…』と言っていた。


 さてと、中庭にやってきたけど…。

「やっぱりあった…。ということは今回の犯人はアイツだな…。でもどうするかな…」

 そう言いながら中庭にある木を見つめる。

「こんなところで何をしているの? 」

 そういって楪先生が背後から両手で俺の肩を抱き寄せる。

「先生、そういう行為はどうかと思うんですけど…」

 そういって先生の手を振り解こうとすると俺の耳元に顔を近づけ

「そっか、じゃあ離れるね…。継君には嫌われたくないから」

 先生はそういって背中から離れる…。俺には嫌われたくない…。どういうことだろう?

 そんな事よりも今、考えなくちゃいけないのはアレだよな…。


「ただいま戻りました。犯人と時計が何処にあるのかも大体の見当はつきました」

 そういって校長室に戻ると校長先生が駆け寄ってくる。

「誰が私の時計を盗んだんだい? 贈り物とはいえお金になるような物じゃなかったのに…」

 不思議そうにしている校長先生や探せている生徒会のメンバーに俺が調査した結果、導き出された犯人と犯行を話していく。


「単刀直入に言います。犯人は中庭の木に巣を作っている鳩ですね」

 そういって俺は窓のサッシを指差す。

「ここを見てもらうと分かると思うのですが、土汚れが付いてますよね? よーく見るとこの土汚れ、足跡の様に見えませんか? 」

 校長先生に尋ねると先生も頷いている。

「でも、どうしてカラスが校長先生の腕時計を盗んでいったの? 」

 不思議そうに七緒が尋ねてくる。

「まぁ正直、誰のでも良かったんだろうね…。たまたま校長先生が窓を開けっぱなしにして机に置いていた時計に日光が反射して光っていたから持ち帰ちゃったんだろうね…」

 そういって七緒にむけて苦笑いをすると彼女も状況を理解できたのか苦笑いをしていた。

「問題はここからなんだけど…。今の時期は子育てが終わっていて基本巣の周辺に居るから校長先生の腕時計をどうやって回収するかが問題だと思うけど、そういうのは業者に任せましょう。俺達では荷が重いです」

 そういうと校長先生は頷いて『場所が分かっただけでも助かったよ、ありがとう』と言って電話を掛けようとし始めたので俺達は校長室から退室した。


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