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 美遥にお弁当のことを伝えるのと、ほぼ同時に洗濯機が終了を告げる。

「さてと、それじゃあ洗濯物を干しますか…」

 俺はベランダの物干し竿に洗濯物を干してから自分の部屋に戻り、学校の鞄を持って部屋を出ると同じタイミングで美遥も部屋から出てきた。

「それじゃあ行くか」

 そういうと美遥は頷いて、手を握ってくる。

「やめなさいって…」

 そういって美遥の手を離して俺と美遥は一緒に登校する。


「おはようございます。先輩♪ 」

 そういって小春ちゃんが笑いながら駆け寄ってくる。

「うん、おはよう…。なんだかご機嫌だね、何か良いことでもあったの? 」

  嬉しそうに俺を見つめてくる小春ちゃんに尋ねると彼女は頷いて腕に抱きついてくる。

「ねぇねぇ、ちょっとおにぃ…。昨日、小春ちゃんに何かしたの? 昨日ミスったんだよね? どうして小春ちゃん機嫌がいいの? 」

 知らない、っていうか美遥の背後から邪神の様な存在が腕組みをしているように見えるのは気のせいだろうか…。

「先輩! 先生に説明したら放課後、また一緒に商店街に行きましょう」

 小春ちゃんが、そういって微笑みかけてくると半歩右後ろを歩く美遥が俺の太股を蹴りつけてくる。

「ちょっ、痛いし、転びそうになるからやめてほしいんだけど…」

 そういって後ろを歩く美遥に声を掛けると美遥は頬を膨らまして

「おにぃが小春ちゃんにデレデレしてるのがいけないんです。もっとシャキッとしてください」

 二人に挟まれたまま登校することになったのだが、登校中、男子達の殺気が込められた視線を浴びることになったのは言うまでもない…。


「みんな、おはよう♪ 」

 救世主メシアが教室に降臨した…。

「おはよう澪川さん…。いや、メシア澪川さん! お願い助けて」

 そういって教室に入ってきた彼女の背中に逃げ込む。

「皆が、皆が質問攻めしてくるんだ」

澪川さんの背後に隠れて、彼女にそう伝えると周りに居た女子が小春ちゃんと美遥が腕に抱きついていたことを澪川さんに伝える。

「継君は生徒会に入ったんだよ、それに家庭の事情で今、萌木さんの家に居候してるんだって…。それに、萌木さんは継君の親戚で従妹なんだよね? 」

 さすが澪川さん! 俺がどんなフォローが欲しいのか分かってくれた。

「そう、そうなんだよ! だから美遥と付き合ってるとか、二股かけてるとか、そんなんじゃないから! みんな誤解しないでくれ」

 そういって澪川さんの背中から様子を窺うと、みんな『澪川さんが言うなら本当なんだろうなぁー』といって自分たちの席に戻っていく。

「ありがとう澪川さん」

 そういってお礼を言うと彼女は笑って俺を見つめてくる。

「ねぇ継君、実際はどうなの? 私以外の女の子とイチャイチャしてるの? 」

 目がマジだよ? 1番信じてくれて無いじゃん!

「マジで何もないから! 特に、俺みたいな冴えない一般人が付き合える様な相手じゃないでしょ? それに俺、澪川さんとイチャイチャなんてしてたっけ? 」

 そういうと澪川さんが俺の顔をジーッと見つめてくる。

「そっか、なら良いけど…。それより、継君は校門で挨拶してなくてよかったの? 」

 澪川さんは、そういって不思議そうに見つめてくる。

「あぁ、その事なら大丈夫みたい…。正式に任命されるのは1ヵ月後の生徒総会の時みたいだから、それまでは公に活動はしなくていいみたい」

 そういって席に座ると同時に仁比山さんが教室に入ってきた。

「継君、今日の放課後、生徒会室に来てくれますか? 今朝、意見箱を見たら依頼書がいくつか入っていたのでお手伝いをお願いしたいのですが…」

 仁比山さんが俺の机の前にしゃがんで俺のことを見つめてくる。

「うん、大丈夫だけど、みんなの視線が痛いから少し離れてくr…」

「皆さんのことは関係ありません、私は鷺ノ宮さんとしっかりお話がしたいんです。それと今日のお昼ご飯、御一緒してもよろしいでしょうか? 」

 お昼は小春ちゃんに昨日のお詫びも兼ねて一緒に食べようと思っていたけど…。二人っきりよりは良いよね?

「うん、良いけど生徒会室で良い? それともう一人一緒に食べたい人が居るから呼んでも良いかな? 」

 そういうと仁比山さんは少し考えたあと了承してくれた。


「それじゃあ、今日の授業はここまでだ、委員長、号令」

「起立、礼」

「ありがとうございました」

 午前の授業が終わったので早速LINKで小春ちゃんに連絡を取ることにする。

【メッセージ】

 小春ちゃん、今日一緒にお昼食べない? 生徒会室で食べようと思うんだけど、どうかな?


 そうメッセージを送ると直ぐに返信がきた。


【返信】

 えっ、良いんですか? 嬉しいです! これから生徒会室にむかいますね! 待っててください!


どうやらOKらしい…。俺も小春ちゃんを待たせるわけにはいかないので仁比山さんと一緒に生徒会室にむかうことにする。


「なるほど、一緒に食べたい人って小春さんだったんですね」

 俺と仁比山さんが生徒会室に入って少しすると、小春ちゃんが顔を真っ赤にして生徒会室の中に入ってきた。

「えっ、何で仁比山先輩が居るんですか? 」

 真っ赤な顔で俺に尋ねてくる…。仁比山さんの事を話していなかったから怒っているのだろうか? 昨日のお礼がしたくて、お昼ご飯に誘ったんだけど逆に怒らせてしまった…。

「んんーっ、私って、お邪魔でしたか? 」

 仁比山さんがそういって俺と小春ちゃんを見つめてくる。

「そんなことないよ、それよりもお昼ご飯にしようよ」

 そういって俺達は各々で持ってきたお昼ご飯を食べることにした。


「あれっ? おにぃ達、ここでご飯食べてるの? 」

 そういって生徒会室に入ってきたのは美遥と七緒だった…。

「お前らこそどうしたんだよ? 教室に友達いないのか? 」

 そういうと美遥は頬を膨らまして俺のことを見つめて

「そんなわけないじゃんか! おにぃが今日の朝、アイスを作ってたから冷蔵庫のある生徒会室で食べると思ったから来てみただけだよ…。本当だよ…。おにぃが食べる前に食べようなんて、ちょっとしか思ってなかったよ? 」

 こいつ食べようと思ってただろ…。

「私は教室に居ると食事する姿もジーッと見られてゆっくりできないから、いつも生徒会室で食べているんだよ」

 人気者も大変なんだな…。でも、まさか美遥にアイスを作っていたことを気づかれていたとは…。バレていたならしょうがない…。

「そうだよ、アイスを作ってきたからみんなで食べようか? 本当は放課後にでもって思ってたけど…」

 俺は冷蔵庫からタッパーとガラスの容器を5つ取り出して、アイスを容器に盛り付けていく。

「みんな、おにぃのアイスは頬っぺたが落ちるぐらいヤバいからね! 」

 そういって美遥はスプーン片手にそわそわし始める。

 頼むからハードルを上げないでほしいんだけど、美味しいって言われるとちょっと嬉しい…。

「学校で、しかも生徒会メンバーだけアイスってなんだか特権を使ってるみたいで後ろめたいけど、この暑い中アイスってかなり嬉しい」

 七緒の言う通り、確かに今日は残暑で熱くなるって天気予報で言っていたからね…。だからちょうど良いと思ったから朝イチで作ったんだよ。


「先輩、アイスってそんなに簡単なんですか? 」

 そういって小春ちゃんは俺の隣で紅茶を淹れながら尋ねてくる。

「うん、結構簡単に出来るよ♪ 作り方は…」


材料

 卵 2個

 生クリーム 200cc

 上白糖 60g

 レモン果汁 大さじ1

 塩 少々

 ラム酒 大さじ1

 バニラエッセンス 5から6振り


作り方

1、 卵黄と卵白を分けて別のボウルに入れる。卵白に塩を加えて、ピンと角が立つまで泡立てる。

2、 卵白を泡立てたホイッパーでそのまま、生クリームに甘味料・レモン汁を入れて7部立てにする。

3、 引き続きそのままのホイッパーで、卵黄にバニラエッセンスを加えて、白っぽくもったりして筋が残る程度に泡立てる。

4、 生クリームに卵黄・ラム酒を少しずつ入れてよく混ぜる。

5、 4に卵白を数回に分けて切るようにしながら混ぜ合わせる。

6、 タッパー等の容器に入れて、冷凍庫で数時間冷やし固めたら完成!


「って感じで一般家庭でも作れるよ」

 盛り付け終わったガラスの容器をみんなに渡しながら、小春ちゃんに作り方を教える。

「それにね、このアイスは糖質カットしてるから体重を気にしなくていいから嬉しいんだよ」

 何故美遥が偉そうに話しているんだ? 確かに夏休み中『ダイエットする! 』とか言っていたのにアイスがやめられない美遥のために作ったアイスだけど…。なんか釈然としない…。

「凄いね! このアイス本当に糖質カットしてるの? 継って料理だけじゃなくて、お菓子作りも上手いんだね? 」

 そういって美味しそうに七緒はアイスを食べていく。

「鷺ノ宮さんは、本当にお料理がお上手なんですね? 」

 かなり高そうな、お弁当を食べていた仁比山さんに褒めてもらえると嬉しい。


「小春ちゃん、ちょっといい? 」

 そういって隣に座る小春ちゃんに耳打ちする。

「冷蔵庫にチョコ入ってるから小春ちゃんが食べて、昨日のお詫びだから小春ちゃんの分しかないから、みんなが居なくなったら食べてね」

 そう伝えると小春ちゃんは顔を真っ赤にして頷いてくれた。


「それじゃあ、午後の授業も頑張ろう」

 予鈴が鳴ったので俺達はそれぞれ教室に戻ることにした。

 途中、小春ちゃんは忘れ物をしたと言って生徒会室に戻っていった。


「それじゃあ、今日の授業はここまで、このあと続けて帰りのHR《ホームルーム》をしちゃうから、どうしてもって人だけお手洗いに行ってきて」

 そういって楪先生は俺を見て、手招きをする。

「なんですか? 」

 そういって楪先生の居る教壇に行くと彼女は俺のことをジーッと見つめてくる。

「先生に何か報告することがあるんじゃないのかな? 」

「えっと…、商店街の事でしょうか? 」

 そう尋ねると楪先生は頷く。

「そうだよ継君、商店街のお店と提携して食材費を抑えようと考えてくれたのは嬉しいんだけど、何も相談しないで行動しちゃうのはどうかなぁーって思うな…。この話はHRのあと、生徒会室で小鳥遊さんと一緒にじっくり聞かせてもらうからね…」

 微笑んでいるけど目が笑ってなくて、とても怖いです。先生…。

「それじゃあ席の戻っていいよ継君、それじゃあHR始めましょうか」

 先生は終始笑顔だったけど放課後が物凄く怖い…。

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