Wake Up

「おにぃ、遅い! あともう少しでお腹と背中がくっつくところだったぞ! 」

 そういってキッチンに入った俺のことを見つめてくる。

「そんなにヤバかったなら作って食べればよかったじゃん」

 そういうと美遥は頬を膨らまして

「私の料理が壊滅的なの、おにぃ知ってるでしょ! 私のダークマター食べる? 」

「絶対に嫌です」

「即答かよ! おにぃのバカ! 愛しいいもうとのためだったら何でも出来るよとか気の利いたことを言えぇー」

 無茶を言うなよ、お前のダークマターは、この世のものとは思えないほど崩壊していたんだぞ! 一瞬、父さんと母さんが見えたんだからな。


 商店街で買ってきた総菜をお皿に移してレンジで温めてテーブルに並べ、糠床から胡瓜と茄子を取り出し、切って小鉢に盛りつける。

「おにぃ、味噌汁じゃなくて今日はスープが良い」

 そういって美遥が卵を冷蔵庫から取り出して持ってくる。

「分かった、今作るから席に座って待っててくれ」

 卵だけのスープだと味気ないのでカニ缶と乾燥キクラゲを取り出して、鶏ガラスープに入れて卵でとじる。

「おにぃ、まだぁー」

 どうやら、相当お腹が減っているらしい。

「今、出来たから先に食べてていいぞ? 」

 そういって、お椀にスープを注いでテーブルに持って行く。

「それじゃあ、いただきます」

 かなり我慢していたのか俺が席に着くと同時に美遥はご飯を食べ始める。


「慌てて食べるなよ? 咽るからゆっくり良く噛んで…」

「けほっ、こほっ! 」

 言わんこっちゃない…。俺は美遥のコップに麦茶を注いで彼女に手渡す。

「あっ、ありがとうおにぃ…」

 そういって手渡した麦茶をゆっくりと飲み干して苦笑いをしている。

「そんなにお腹空いてたのか…。ごめんな遅くなっちゃって」

 そういうと美遥は首を横に振って

「確かにお腹は空いてたけど、おにぃの責任じゃないから気にしないで…。私も料理が出来るようになりたいな…。それより小春ちゃんと商店街に行って、何か収穫はあったの? 」

 そういって俺のことをジト目で見つめてくる。

「いや、完全に先走り過ぎた…。明日、楪先生に謝ってくる」

 そういうと美遥は苦笑しながら俺のことを見つめてくる。

「なんだよ? 」

 苦笑いしている美遥にそう尋ねると美遥は俺を見つめて

「おにぃ、また暴走したの? ちゃんと順序を考えて行動しなくちゃ…。小春ちゃんに迷惑掛けなかった? 掛けたなら何か、お詫びをしなくちゃね」

 そういって、いつの間に食べ終えたのか、空になった食器をシンクに持って行ってしまった。

「お詫びか…。何が良いんだろう? 」

 そんなことを考えながら食事を済まし食器を洗い、風呂に入って1日が終わる。


「起きろ、もう6時だぞ」

 そういって美遥の部屋を開けると美遥は下着姿のまま、ベッドで寝ている。

「まったく、無防備すぎるだろ…。これ、俺じゃなくて他の男子だったら絶対欲情してただろうな…。まったく、すやすや寝息立てて起きそうにないな…」

 俺は洗濯ばさみを持ってきて美遥の鼻を挟む。

「ふぎゃっ! 痛い! 痛いよ! ナニコレ! 」

 そういって起き上がり鼻を挟んでいた洗濯ばさみを俺に見せてくる。

「洗濯ばさみだよ? 起きないから挟んじゃった♪ 」

 そういって微笑みかけると美遥は頬を膨らまして

「挟んじゃった♪ じゃないから! 笑うな、クソおにぃ! 」

 美遥は、そういって立ち上がると洗濯ばさみを構えて、にじり寄ってくる…。

「さぁ朝ご飯にしよぉー」

 にじり寄ってくる美遥をかわして、リビングに戻り、朝食をテーブルに並べる。

「おにぃ、ってたまに意地悪だよね」

 そういって制服に着替えて顔を洗い、目が覚めた美遥がリビングに下りてきてテーブルに座る。

「ほらっ、可愛い子には、イタズラしたいっていうじゃん、それだよ、それ」

 そういって美遥の話を適当に流しながら彼女の髪の毛をブラシで梳かしていく。

「もうっ、おにぃ…。って、そんな言葉で騙されないからね! めっちゃ痛かったんだから」

「夕飯は美遥の好きなパイナップル入りの酢豚な」

 しょうがない、今日の夕飯を美遥の好物にして、ご機嫌を取ろう。

「うっ…。分かった、許してあげます。だけどパイナップルいっぱい使ってね! 約束だからね」

 どうして好きなのか理解出来ないが、それで機嫌を直してもらえるのなら安いから仕方ない…。


「今日は、お団子ヘアーにしたぞ? うまく出来たか? 」

 そういって手鏡を渡した後、食器を洗いにシンクに向かう。

「おにぃってさ、女子力高過ぎだよね? どうして髪を結うの私より上手なの? 」

 美遥も俺の後を追ってきて、隣で洗い終わった食器を布巾で拭きながら尋ねてくる。

「なんでだって? 自分のことは自分でするようにしてたってのもあるけど、1番は生活力皆無の従妹と1カ月間、一緒に生活してたら自然と強化されたんだよ」

隣にいる美遥を見つめると彼女は気まずそうに笑っている。


「美遥は可愛いのに色んな意味で残念女子だからなぁー、そのまんまだと美遥を嫁に貰う奴、俺ぐらいしかいなくなるぞ? 美遥は、もとが良いんだから頑張れよ…」

 そういって濡れた手をタオルで拭いて、美遥の頭を撫でて脱衣所に向かう。

「さてと、そろそろ洗濯機も終わってるだろうから干さなくちゃ」


【美遥サイド】


おにぃはいつも私のことを思ってくれている。昔も今も…。

「別に、おにぃだから可愛いところもダメなところも全部見せるんじゃん…。おにぃだったら、素の私を見せても引かないから…。それに私はおにぃ以外の人と結婚するつもりないもん、おにぃが貰ってくれるんなら残念女子でいいもん」

って、なに言ってるんだろう私! 聞こえてないよね、おにぃ…。

 少し不安になった私は、おにぃの居る脱衣所に行くと『まだ終わってなかったか…』と言って、グルグル回る洗濯機を眺めているおにぃが居た。

「おにぃ、まだ時間掛かりそう? 」

そう尋ねるとおにぃは、今私に気づいたのか少し驚いた顔をした後『大丈夫だから学校の用意と、お弁当を用意しておいたから鞄に入れておきな』と言って私に笑いかけてくれた…。もうっ、おにぃ大好き!

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