ココロの引力

「ただいま戻りました。どんな感じにまとまりそうですか? 」

 出入り口付近に居た佐々木さんに話を聞くと、どうやら誤解が生んだ嫉妬による嫌がらせだったようで二人は仲直りをして、刑事事件にもしないで厳重注意で済ますらしい……。

「なるほど、状況は分かったんですが、何で生徒会メンバーと楪先生は顔が真っ赤になっているんですか? 」

 不思議に思い、尋ねると佐々木さんは苦笑いをしながら

「そのことについて、俺から言えることは何ひとつ無いかな……」

 他のみんなもなにも教えてくれなかったが、何故か京極のおっさんだけニヤニヤ笑って

『頑張れよ』と言っていた。


「んじゃあ、丸く収まったことだし……。シュークリーム食べる? 」

 調理室で作ったシュークリームを持ってきていたので皆に1つずつ手渡しする。

「おっ、気が利くな継! それじゃあいただきます」

 あっ、何も聞かずに食いやがった……。

「ブフッ! なんだこれ! おまっ、このシュークリームの中身ツナマヨじゃねえか! 」

 あぁーっ、京極のおっさんが当たりを引いたのかリアクションつまんないな……。

「おっさん、もうちょっと面白いリアクションしてくれよ。それに、辛子とかワサビじゃないだけまだマシだろ? 昔、ワサビ饅を食べて悶絶してたもんな」

 そういって笑っていると腕を小春ちゃんに捕まれて顔を耳元に近づけてくる。

「先輩、料理だけじゃなくてお菓子の作り方も教えてもらえませんか? 手作りのお菓子を渡したい人が居るので……」

 そういって恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「勿論、任してよ♪ 」

 渡したい相手は誰なんだろうと思いながら、明日の午前中から小春ちゃんの家で料理を教えることになった……。


「じゃっ、俺達は帰るわ」

 そういって京極のおっさんと佐々木さんは帰っていった。

「それじゃあ、私達も帰ろっか……。早苗、余計なこと言ったら怒るからね」

 七緒が如月さんにそう言って俺の手を握ってくる。

「どうしたんだ七緒? 」

 七緒に尋ねると彼女は頬を赤くして

「別にいいでしょ? ほら、帰るよ!」

 そういって俺の手を握ったまま歩いて行ってしまう。

「ちょっと待てってば……」

 俺は手を引かれて、校長室を後にする。


「美遥、夕飯の買い出しに行くから手伝ってくれるか? 」

 帰る仕度をしながら美遥に声を掛けると美遥は頷いて隣にやって来る。

「今日は、おにぃの得意な親子丼食べたいな半熟の! それと久しぶりに茶碗蒸し作って京風の! 」

 まぁ、荷物持ちをしてくれるみたいだし、少しのわがままなら良いかな? 

「それなら、明日料理教えてもらうのに必要な食材を購入しておきたいので私もお買い物付いて行っても良いですか先輩! 」

 小春ちゃんがそういって俺を見つめてくる。

「いいよな美遥? 」

 美遥に尋ねると少し不貞腐れた顔をしたように見えたが笑って頷いてくれた。

「それじゃあ、お疲れ様」

 俺達はそういって買い物をしてから帰ることにした……。


「先輩、明日は何を教えてもらえるんですか? 」

 そういって小春ちゃんが俺の顔を覗き込んでくる。

「んんーっ、肉じゃがとかどうかな? 男性が女性に作ってもらいたい料理の定番だし」

 そういうと小春ちゃんは考え込んでしまう。

「さいしょにつくる料理にしては少し難しかったかも……。それじゃあ俺が好きで手軽にできる唐揚げとかどうかな? お弁当のおかずにもなるし」

 そういうと小春ちゃんは頷いて

「いきなり肉じゃがは、やっぱり難しいですよね? でも、先輩みたいな料理の出来る人が唐揚げ好きだったのは、ちょっと意外でした! むね肉とモモ肉ってどっちが唐揚げに向いているんですか? 」

 そういって小春ちゃんは鶏肉を見つめているので俺は隣に行き

「モモ肉はジューシーでサクサク、むね肉はさっぱりヘルシーって感じかな? 美遥はモモ肉で作った唐揚げの方が好きだな……」

 そういって俺は夕飯用のモモ肉とむね肉を1パックずつ買い物かごに入れる。

「あれ? どっちも買うんですか? 確か親子丼って言ってましたよね? そんなにお肉使うんですか? 」

 隣でどっちにするか迷っている小春ちゃんが買い物かごに両方入れる俺を見て不思議そうに尋ねてくる。

「おにぃの親子丼は両方半分ずつ入れてブレンドするんだよ。かなり美味しくて油断すると頬っぺた落ちちゃうんだから! 」

 何故か自分のことのように自慢げに美遥が説明してくれる。

「そうだ、今日使って残った鶏肉を明日、持って行くよ。それで実際に両方作ってみて食べ比べすればいいよ」

 そういうと小春ちゃんは頷いて

「明日は私が先輩から教えてもらって美遥ちゃんの分も唐揚げを作ってあげる」

 と言って美遥と嬉しそうに喋っていた。


「それじゃあ先輩、明日の夕方3時ですからね♪ お疲れさまでした」

 そういって小春ちゃんは嬉しそうにスキップをして帰っていく。

「おにぃ、私にも料理教えてよ……」

 隣を歩く美遥がそういって俺のことを見つめてくる。

「えっ、お前本気なの? 俺、お前の実験台になるのは嫌だよ」

 俺は嫌そうな目で美遥のことを見つめ返すと美遥は俺の脇腹を思いっ切り殴ってくる。

「痛いから、だってお前が作ると食べられないものが出来て、食材が無駄になっちゃうじゃん……。だから無駄にならないように俺が食べるけど……。だってお前、最初お米洗うのに食器用洗剤を使おうとしてたんだぜ? その様子を見ていた俺から言われてもらうと、お米を洗うのもままならなかった奴に調理を教えるってかなり不安だぜ」

 そういうと美遥は頬を膨らまして

「うぅぅっ、おにぃのバカ! 鈍感! 分からず屋! 」

 そういって美遥は怒りながら俺の手を離して先を行ってしまう……。

「そんなに怒るなって……。卵焼きとか簡単な料理から始めるんだったら教えてやる、美遥は小春ちゃんと違って複数の食品を手順通りに調理するのが苦手みたいだから、ゆっくり1つずつやっていこうな」

 先を行く美遥の背中にそう伝えると美遥は振り向いて

「私だって小春ちゃんに負けない、大切な思いがあるの! それに料理は気持ちって言うでしょ? だから私の料理が1番だもん! 」

 確かに【料理は気持ち】という言葉はあるけど、お前の料理は気持ちでどうにかなる物では無いんだが……。と思いながら俺は相槌を打っていた。

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