Surely

「心配したんですからね、先輩」

 クリーニング屋に行く途中、というか家から出たら玄関の前に小春ちゃんが立っていて『おはようございます。先輩にはいくつかお話したいことがあるので一緒に登校します』と言って、俺の隣を歩いてついてくる。

「先輩はいつも向こう見ずなんですから! 少しは考えてから行動してください」

 小春ちゃんは怒った顔で俺のことを見つめてくる。

「ごめん、心配かけて…」

 そういって謝ると小春ちゃんは頷いて

「本当ですよ。でも先輩に何もなくてよかったです。それより、どうして先輩は体操服で登校するんですか? 先輩って確か家庭科部で運動部じゃないですよね? 」

 俺が体操服で登校していることを不思議に思ったのか小春ちゃんが首を傾げて尋ねてくるので嘘を吐きたくなかった俺は昨日、何があったのかを説明すると……。


「バカなんじゃないですか? どうして警察に任して帰らなかったんですか? 見つかって撃たれるかもって考えなかったんですか? 信じられないバカですね……。先輩が無茶しないように私が付いていてあげます。だからもう無茶はしないでくださいね? 約束ですよ! 」

 そういって小春ちゃんは頬を膨らまして、腕に抱きついてくる。

「ごめん、心配かけちゃって……。本当に申し訳ないと思ってるから腕に抱きつくのを止めてくれないかな? 」

 通学路なので同じクラスの男子が時折、舌打ちをしながら俺達を追い越していく……。

「嫌です。離したら先輩、絶対に逃げますよね? だからダメです」

 そういって離そうとしてくれないので俺は諦めて、そのままクリーニング屋に行くことにした。


「なるほど、通学路から横道にそれたのはクリーニング屋に行って制服を受け取るためだったんですね? (てっきり朝からいやらしいことをされるんじゃないかって心配しちゃったよ……)」

 真っ赤になった顔で小春ちゃんが尋ねてくる。

「そうだけど……、小春ちゃん顔真っ赤だけど大丈夫? 」

 心配になり小春ちゃんに尋ねると彼女は頷いて『大丈夫です』と言って顔を逸らしてしまう。

 そんなことを話しているうちにクリーニング屋に着いたので一緒に店内に入るとオールバックにサングラスをかけた男性が立っていた……。

「なんで東京こっちに居るの京極のおっさん……」

 俺はスーツ姿で店内に立っている、おっさんに問いかけると彼は一瞬驚いた顔をしてニヤニヤ笑いながらやって来る。

「なんだ、腕なんか繋いじゃって……。彼女か? 猪突猛進で危なっかしい奴だけど継のことよろしく頼みますよ、彼女さん」

 そういって京極のおっさんが小春ちゃんに頭を下げる。

「そっ、そんな……。こちらこそよろしくお願いします? 」

 何で受け入れちゃうのさ! ややこしくなるじゃん! 

「ちょ、お前……。良い娘じゃんか! もうヤッたのか? 籍だけでも入れて絶対に逃がすんじゃないぞ! 」

 おっさん、俺の話を聞けよ……。小春ちゃんは彼女じゃ……。

「継先輩、そろそろ学校に行かないと遅刻しちゃいます。継先輩の叔父様、私達はこれで失礼します! 継先輩、急ぎますよ」

 制服を受け取った俺は、腕を引かれてクリーニング屋を後にする……。

「あとで話があるから電話するからな! 」

 京極のおっさんは、そういって手を振って笑っていた……。


「先輩、はやく! 生徒会の私達が遅刻したらマズいですよ! 」

 そういって小春ちゃんが俺を手招きする。

「小春ちゃん、恥ずかしいから止めてほしいんだけど……」

 校門へ向かう生徒達が俺と小春ちゃんを見比べて、男達は殺気の込もった視線で、女子たちは好奇な視線で俺達を見つめてくる……。

「継君おはよう、小鳥遊さんと仲が良いんだね? 私、ちょっと妬いちゃうなぁー」

 背後から悪寒がしたので振り返ると引きつった笑顔で俺と小春ちゃんを見つめる澪川さんが居た……。


「おはよう澪川さん……」

 そういって挨拶をすると澪川さんは俺の腕に抱きつき密着してくる。

「ねぇ継君、宿題やって来た? 私、分からないところがあったから教室で教えてほしいんだけど良いかな? 」

 澪川さんはそういって美遥の方を嬉しそうに見つめている。

「継先輩、さっき彼女か? っておじさんに言われちゃいましたね……。私達、そんなにお似合いだったんですかね? ちょっと恥ずかしいですけど嬉しいです」

 顔を赤くして、しかも校門の前でモジモジしながら話すようなことじゃないだろ! ヤバい、周りの男共が睨みつけてくる……。

「継君、今日は家庭科部の活動があるから放課後、部室に来てね」

 勝ち誇った顔でそういった後、澪川さんは腕を離すことなく教室に入るまで隣を離れてくれなかった……。

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