ナイショの話
「食堂のメニューをボリューミーに、って言うけど、そんなことまで俺達が改善するのか? 原価率とか考えると、俺達が出しゃばっていいような問題じゃないと思うのだが…」
俺の前を歩く、会計兼書記の小春ちゃんに尋ねると彼女は俺の方を振り返り説明を始める。
「確かに私もそう思うんですが、何かしらアクションを起こさないと『女子だけの生徒会だから所詮、口だけのお飾り』とか『生徒会を私物化しているダメ役員』とか言われてしまうんですよ。実際、去年の生徒会は何もしなかったので任期を全う出来なかったって聞いてます。なので、出来る出来ないが重要ではなく、行動したことが重要なんだと思います。だから私達は生徒に不満が出ないように頑張りましょう」
そんな話をしているうちに食堂に着いた。
「失礼します、生徒会書記の美濃口です」
「同じく、生徒会庶務の鷺ノ宮です。食堂のメニューをボリュームアップしてほしいという意見書があったので可能なのか、お話を伺いにきました」
そういうと調理のおばちゃんたちが厨房の奥から白衣を着た栄養士さんを連れて来てくれた。
「ボリュームアップか…。単刀直入に言うよ、無理…。してあげたいとは思うけど、限られた材料費でやりくりしてるから」
そういって栄養士のお兄さんは奥から帳簿とレシピ帳を持ってくる。
「野菜が高いですけど、抑えることは出来ないんですか? 」
たぶんスーパーとか八百屋に行かないんだろうな…。天候不良が続いて野菜の単価は高くなってるんだよ…。でも、確かに商店街の物より高いな…。
「野菜は物価が高いから仕方ないよ…。これ以上安く売ってくれるようなところ近場には無いんだよ」
そういって困った顔をしている。
「そうなんですか、じゃあ現状、量を増やしたりは出来ないってことですか? 」
小春ちゃんが尋ねると栄養士のお兄さんは、少し考えてからメニュー表を持ってくる。
「ここから、ここまでのメニューを20円値上げすれば増量することも可能かもしれないけど、どうする? 」
それを聞いた小春ちゃんが俺のことを見つめてくる。
「値上げに関しては私達の領分を超えてしまうので先生たちに相談してみるので持ち帰ります。今日は貴重なお時間をありがとうございました」
そういって俺達はお辞儀をして食堂を後にする。
「成果は無かったですね、むしろ値上げをお願いされちゃいましたね…」
少し困った顔で小春ちゃんは俺のことを見つめてくる。
「いや、そうでもないよ…。仕入してる業者が安くなればボリュームアップできる可能性はあるってことが分かったからね。小春ちゃん、このあと暇かな? 暇だったら付き合ってほしいんだけど? 」
そういうと何故か小春ちゃんの顔は真っ赤になって俯いてしまった。
「わっ、私で良いんですか? 七緒先輩じゃなくていいんですか? 」
何故ここで七緒が出てくるんだろう?
「いや、七緒じゃなくて小春ちゃんとが良いんだけど? (スーパーと八百屋の値段の比較とかさせておいた方が、このあと役に立つだろうし…)」
そういって小春ちゃんを見つめると真っ赤になった顔で頷いてくれた。
「それじゃあ、とりあえず生徒会室に戻って報告したら一緒に帰ろう」
そういって俺は顔を真っ赤にしている小春ちゃんを放置して生徒会室に戻ることにした。
「おかえり、継」
生徒会室に戻ると七緒がニコニコしながらこっちにやって来る。
「どうしたんだ? なんだか、やけにご機嫌じゃないか? 」
そう尋ねると七緒がスマホの画面を見せてくる。
【幼馴染LOVE】という話題の恋愛映画の試写会チケットがペアで当選したと書かれている。
「お前、めっちゃ話題の恋愛映画じゃん! よく当たったな? 」
そういうと七緒は胸を張って自慢げにしている…。正直、胸が強調されて目のやり場に困るからやめてほしい。
「いいだろ! でも、ペアだから1枚余るんだ、もし継が見たいなら1枚譲ってもいいよ」
いいのかな? 七緒だって女友達と行きたいだろうし、俺と一緒に居る所を誰かに見られて誤解されるのもマズいだろうしなぁー…。
「いや、いいよ。俺は時間のある時に身に行けたら行くよ。それに話題の映画だから1年後くらいにテレビで放送すると思うし」
そういうと七緒が頬を膨らまして、わき腹を小突きながら文句を言ってくる。
「私の誘い、断るのか? 私は継と行きたいんだ」
泣きそうな顔でそんなことを言われると物凄い罪悪感がするのだが…。
「俺じゃなくて、友達や家族を誘えばいいんじゃないか? 」
そういうと七緒は俺のことを指差してくる。
「継は、私の親友でしょ? 親友じゃないなら恋人同士なのかな? 」
そういって七緒は俺の顔を覗き込んでくる。
「親友じゃなくて恋人同士ならキスしても良いよね? 」
どんな暴論だよ! どうせしないだろうと思い
「そうだね、キスする? 」
そういって笑いかけると七緒は顔を真っ赤にさせて俺を見つめる。
「する気も無いのにそんなことを言うからだよ、分かっただろ? 誰か他の人を…」
そういって七緒を見ると七緒は瞳を閉じて唇を突き出している。
「えっ、えぇーっ! 」
思わず叫び声をあげて辺りを見回すと美遥が俺のことを睨んでいる。
「継、今は私のことだけを考えてほしいな」
そういって七緒が俺の頬を手のひらで包み、顔を寄せてくる。
「ダメッ、ダメだって! そういうのは、ちゃんと好きな人とやるもので勢いや意地のためにするものじゃないってば」
そういって七緒の頬を掴み近づいてこないように対抗する。
「なに? 照れてるの? キスしてほしくなかったら一緒に見に行く? 親友として」
「断ったら? 」
「このまま続ける」
どうやらキスをするか映画を一緒に見に行くという選択肢しかないようだ…。
「一緒に映画を見に行きます」
そういうと七緒は嬉しそうにしながらスマホの画面のスクショをメールに添付して送ってきた。
メールには「約束だからな♡ 」と一文添えられていた。
「お前、ハートはどうかと思うぞ? 」
そういうと七緒は頬を膨らましていた。
「おにぃ、話はまとまったの? 」
七緒と話が終わるタイミングを見計らっていたのか美遥が書類を持ってやって来る。
「いや、まとまってない、だから話をまとめるために、これから小春ちゃんと二人で商店街とかに…。あっ、来た。それじゃあ先に帰る。美遥、夕飯のおかずは買って帰るからお米、炊飯器で炊いておいて」
そういって俺は小春ちゃんの手を握り、商店街に向かうことにした…。
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