STEP

「ねぇ継君、ちょっといい? 」

 午前中の授業が終わり、食堂で持ってきたお弁当を食べようと思い、席を立ちあがると澪川さんに腕を掴まれてしまう…。

「ごめん、但馬と飯を食いに食堂に行くから後でいい? 」

 そういって但馬を見ると彼は『ごめん』と言ってどこかに行ってしまう。

「アイツ、どっか行っちゃったよ…。一緒にご飯食べよ? 」

 但馬に逃げられてしまったので逃げようにも逃げられない。

「いや、俺なんかより他の人と一緒に食べてきなよ、俺も他の男子達と一緒に食べるから」

 そういって立ち去ろうとすると腕を抱き寄せてくる。

「い・い・よ・ね? 」

 どうやら逃げられないようだ…。


「それで、どうして調理室? 別に一緒にご飯を食べるだけなら食堂とかでも良くないか? 」

 不思議に思い、澪川さんに尋ねると彼女は頬を膨らまして

「分かんないならいいよ、もうほんとに鈍感なんだから…。それよりも、部活のこと考えてくれた? 」

 そういって澪川さんは、さり気なく俺に唐揚げを差し出してくる。

「あぁ、部活の事ならOKだよ。俺、家庭科部に入部するよ。でも生徒会に庶務として入ることになったから、いつも居ることは出来ないからね…。それと、この唐揚げは? 」

 そう尋ねると澪川さんは、俺の開いた口に唐揚げを詰め込んでくる。

「お礼かな? 」

 お礼で開けた口に唐揚げを突っ込まれるなんて新手の拷問か?

 そんなことを思いながら必死に唐揚げを咀嚼していく…。

「どうかな? 美味しく出来てると思うんだけど…」

 美味しいとは思う、見た目的に…。呼吸するのに必死だったから味が分からない…。

「うん、美味しかったよ」

 そういって頷くと嬉しそうに笑って、きんぴらごぼうを箸で摘まみ俺の口元に運んでくる。

「私が自分で作ってみたんだけど、どうかな? 」

 そういって俺のことを潤んだ瞳で見つめてくる。そんな顔で見つめられたら断りづらいじゃないか…。

 俺は差し出されたきんぴらごぼうを食べる。

「うん、美味しいよ…。澪川さん、料理上手なんだね♪ 素敵なお嫁さんになれるね♪ 」

 そういうと澪川さんは顔を真っ赤にしてワタワタし始める。

「おっ、お嫁さんだなんて…。気が早いよ…」

 そんな話をしているうちに予鈴が鳴ったので俺達は食べ終わったお弁当箱を片付け教室に戻ることにした。


「そういえば次の授業って何だっけ? 」

 後ろに居る澪川さんに話しかけながら教室の扉を開き、中に入ろうとすると女子の悲鳴が聞こえる。

「どうしたの? 」

 そういって顔を正面に向けようとすると澪川さんが顔を押さえつけてくる。

「鷺ノ宮さん、はやく! はやく扉を閉めてください! 」

 教室の中から仁比山さんの叫び声が聞こえる。

 俺は仁比山さんの叫び声が心配で、無理矢理顔を教室に向けると、そこには白いレースの下着をつけて立ち竦む仁比山さんが居た。

「ダイジョウブ…。オレ ナニモミテナイ」

 そういって扉を静かに閉める。

「鷺ノ宮さんの色情魔! 」

 教室の中から仁比山さんの叫び声と同時に何かが扉にぶつかる音がする…。

「ごめん、そういえば今日の午後の授業は一年生との合同体育だったこと忘れてた…」

 そういって澪川さんは舌をぺろっと出して、はにかんでいた。

 俺は、逃げるように、その場を立ち去った…。あっ、体操服を取ってもらうの忘れた…。

「おにぃ、正座して…。話があります」

 放課後、生徒会室に呼ばれたので生徒会室の中に入ると、そこには美遥と仁比山さんが鬼のような形相で仁王立ちしている。

「はい、何でしょう…」

 なんとなく予想は出来ているが、念のため確認をする。

「胸に手を当てて、おにぃ自身に聞いてくれる? 怒られる様なことをしてるはずだよ」

 こういう時の美遥は1つ年下なのに物凄く怖い…。

「お昼休みの事なのかな? 」

 そういうと仁比山さんが顔を真っ赤にして、俯いてしまう。

「それ以外ないでしょうが! おにぃのバカ! どうして体育だって、気がつかなかったかな? おにぃってこういうところ抜けてるよね」

 そういって美遥は呆れたようにため息を吐いていた…。

「鷺ノ宮さん…。私が紅い下着を着けていたのを忘れてください…」

 仁比山さんは、そういって俺のことを見つめてくる。

「あれっ? 白じゃ…」

「はい、ギルティ おにぃ、やっぱりミナミん先輩の下着姿を凝視していたんですね! サイテーです」

 そういって美遥が俺の腹に正拳突きをしてくる。

「グブッ…。おまっ、シャレにならねぇーぞ、この突き…」

 俺はお腹を押さえてその場にうずくまる。

「ちょっ、美遥ちゃん! 鷺ノ宮くんに注意してとは言ったけど、殴っちゃダメだよ」

そういって仁比山さんは、うずくまる俺を心配そうに見つめている。

「いいの、ミナミん先輩の下着姿を見て発情していた変態おにぃなんて滅んじゃえば! 私の下着姿を見ても何も思わなかったくせに、どうして先輩だけ…」

 ブツクサ言っているが、何で美遥が怒っているのか、まったく分からない。仁比山さんが怒るのなら分かるのに…。

「おーい三人共、いつまでじゃれ合ってるの? 今日も仕事が溜まってるんだから早く仕事をしてくれよ」

 そういって七緒が起案書の様な紙を持ってピラピラと振っている。

「どんな仕事なんだ? 」

 そういって俺は、二人から逃げ出し七緒に尋ねる。

「いや、この意見書については、継は役に立たないような気が…」

 そういって俺に意見書を見せないようにしてくる。

「七緒、気になるじゃん! 教えてよ」

 そういって七緒が持っている意見書を見ると、そこには目を疑う様な内容が書かれていた。

【意見書】

 生徒会メンバーの下着の色は何色ですか? 3年 P.N 貴方の恋人


「セクハラじゃねぇかよ! 」

 思わず叫ぶと他のメンバーは頷いた後、溜息を吐いている。

「っていうか、そんなセクハラまがいの質問に答えてないよな? 」

 そう尋ねると小春ちゃんが頷いて意見表に何かを書き込んでいる。

【意見書】

 生徒会メンバーの下着の色は何色ですか? 3年 P.N 貴方の恋人

【回答】

 その日によって違います。どんな色の下着を着けているかは想像にお任せします。

                               美濃口 小春

「こんな風に記入して、受け流します。あれっ、もしかして本当に何色の下着を着ているのか記入していると思いました? 顔、赤いですよ? 先輩にだったら特別に教えてあげても良いですよ? 」

 そういって小春ちゃんはクスクス笑っている。

「本当? じゃあ見せてよ」

 少し困らせてやろうと思い、小春ちゃんの耳元で囁くと彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまう。

「冗談でも可愛い小春ちゃんがそんなことを言うと、本気にする男が居るかもしれないから軽々しくそんなこと言っちゃダメだよ」

 そういって俯く小春ちゃんの頭を撫でると小春ちゃんは身体をプルプルと震わせている。恥ずかしかったのだろう…。


「いいですよ、そこまで言われたら見せてあげますよ! 私は口だけの女じゃないってことを教えてあげます」

 そういってブラウスのボタンを外しにかかる。

「ちょっ、ストップ! ストップ、ストーップ! 」

 俺はブラウスを脱ごうとする彼女の手を握りしめる。

「どうして止めるんですか? 先輩は私の下着が何色なのか見たいんですよね? だから脱いで見せてあげようとしているんですよ? 」

そういって、なにがなんでも脱ごうとする小春ちゃんを脱がさないように押さえつける。

「もうお前ら、いいかげんにしろーっ! 全員そこに正座しろ」

 そういってブチ切れた七緒には誰も逆らえず全員怒られるのであった…。


「まったく、みんなしっかりしてよね! 今日の意見書に学食のメニューをもっとボリューミーにしてほしいっていう意見があった、だから男性の継と料理の上手な小春の二人で学食の調理員の人と意見交換をしてきてくれないかな?」

 そういって七緒は俺達に意見書を渡してくる。

「先輩が言うなら仕方ないです。下着を見せろ、って言ってくる変態と一緒なのは襲われないか怖いですけど頑張ってみせます」

 胸元を押さえながら、そういって小春ちゃんは意見書を受け取る。

「継、大事な後輩を無理矢理押さえつけて襲い掛かったら、切り落とすからね♪ 」

 そういってハサミで紙を切っていく。

 ナニを切るんですか? めっちゃ怖いんですけど…。冷笑を浮かべながら紙を切る七緒に送り出され、俺と小春ちゃんは食堂に向かうことにした。

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