HANABI

「12時から試写会だよな?」

 目の前に立っている七緒に時間の確認をすると、彼女はスマホを取り出して確認をする。

「うん、そうみたい……。ねえ継、大丈夫? もっとこっちに寄っても良いんだよ?」

 そういって七緒は心配そうに俺を見つめてくる。

「大丈夫、それよりお前の方こそ平気か?」

 壁と俺に挟まれている七緒の方がキツそうに見えるのだが……。

「うん、継のおかげで平気かな? でも、人ごみの中ってやっぱり暑いね」

 そういって七緒は胸元をパタパタと手で扇いでいるけど、正直、目のやり場に困るからやめてほしい……。

 俺が顔を逸らしていることに気がついたのか七緒は、くすくす笑っている。

『次は日比谷、日比谷です』

「継、次で降りるよ」

 車内アナウンスで目的地である日比谷に着くことが分かったので俺は七緒の手を優しく握る。

「どうしたの継?」

「はぐれるわけにはいかないだろ?」

 そういうと七緒は笑って頷き

「もう絶対に離さないでね」

 と言って顔を真っ赤にさせていた。


「継、ほらっ、行くよ」

 そういって七緒が俺の手を引っ張る。

「いや、映画館で映画って言ったらポップコーンにコーラじゃない? どうしよっかなぁーって思っていたんだけど試写会だから止めたほうがいいのかな?」

 七緒にそう尋ねると彼女は頷いたあと売店で今から見る映画とは別のハンドタオルを買って、俺に渡してくる。

「感動作らしいから泣くかもしれないよ? 継の泣き顔が見られるかな? さすがに私も自分のを使うと思うから、これ使ってね!」

 そういってニヤニヤしながら俺を見つめてくる。

「大丈夫だから、さすがに高校生にもなって映画で泣くわけ……」


「フフッ、継泣いてたじゃん! 観る前『さすがに高校生になって映画で泣くわけないじゃん』って言っていたのは誰だっけ?」

 そういって七緒が俺のことを見つめてくる。

「お前だって泣いてたじゃん。アレは泣くって! あそこで主人公の幼馴染が車に轢かれそうになった主人公を助けて、代わりに車に轢かれて死んじゃうなんて虚しすぎるだろ……。それに主人公の『会えなくなって初めて分かった、私の本当に大切で大好きだった人』って言葉が親近感を覚えて……」

 七緒から貰ったハンドタオルで涙を拭う。


「本当にいい映画だったよね♪ 私は主人公の女の子が幼馴染の男の子を追って死のうとした時に死後の世界から手紙がきて『俺はいつでも、いつまでもお前のことを見守っている。だからお前が今、何を思っているのかも分かる。俺もお前に会いたい、だけどそれじゃダメなんだ! お前には俺の分も笑って生きていてもらいたい……。お前がおばあちゃんになって迎えが必要になったら俺がお前を迎えに行く。それまでは、さよならだ』って書かれた手紙を読むシーンがすごく感動的だった!」

 そういって七緒は笑って俺の先を歩いて行く。

「楽しかったね……。今度は違う映画を一緒に観に来ようよ」

 そういって青になった横断歩道を渡っていく。

「七緒危ない!」

 信号を無視して自動車が横断歩道に突っ込んでくる。さっき観ていた映画と同じ様なシチュエーションだ……。

 そんなことを思いながら七緒の手を掴み、思い切り引き寄せる。


「危ないだろ! 運転するな、クソ運転手! 大丈夫か七緒?」

 俺の腕の中にいる七緒に声を掛けると驚いたような顔で俺を見つめてくる。

「おーい、大丈夫か七緒? ボーっとしてるけどケガは無いか?」

 再度確認をすると七緒は次第に涙目になって

「継、私は継と一緒に居たい! だから絶対に私の前から居なくならないで」

 そういって抱きついてくる。

「分かった、分かったから道路の真ん中で抱きついて泣かないでくれ! 周りからの視線が痛い……」

七緒が俺を放してくれたのは、それから10分後だった

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