シルシ
先生、もう暗くなっちゃったので俺が先生の家まで送っていきますよ」
家事が終わり、外を見ると辺りは暗くなっていた。
俺は薄手の上着を着て、洗って乾燥機で乾かしておいた先生の着替えを紙袋に入れたものを渡す。
「わざわざありがとう継君……? 畳んで入っているけど、これって継君が畳んでくれたの?」
何を不思議そうに見ているのだろう……。美遥はさっきから、ずっと先生の横でテレビを見ていたじゃないか……。
「そうですよ、俺が全部畳んでおきましたが……。マズかったですか?」
そういって楪先生を見つめると、彼女の顔が見る見るうちに赤くなっていく。
「マズいに決まってるじゃん! 下着見られただけじゃなくて畳まれたんだよ! カップのサイズとか色とか柄とか知られちゃったんだよ! 恥ずかしいじゃん」
そういって楪先生は、恥ずかしそうに紙袋の中に入っている下着と俺を交互に見つめている。
「そんな恥ずかしがることじゃないですよ、大人なんだから美遥よりカップのサイズが大きいのは普通ですし、柄がシンプルなのは大きいと柄とかも限られるって聞いたことがあるので多分それが原因でしょうし、まぁ1つ意外だったのが紫色だったってことだけですかね? 休日だからですか? 学校で着ていたら目立ちますよ?」
どうしたのだろう、俯いて肩を震わせ……。
「ごめんなさい! 余計な事を言い過ぎました! 泣かないでください! 可愛いです! 大丈夫です! 先生は綺麗です」
泣いていると思い、必死に取り繕うとしたが、どうやら逆効果だったようだ……。
「私は、怒っているの! 見られるのだけでも恥ずかしいのに、胸の大きさやブラの色まで知られちゃったんだよ! やっていいことと悪いことがあることぐらい分かってよ! バカ!」
そういって怒った顔で俺の頬を引っ張ってくる。
「いひゃい(痛い)ひぇんひぇい(先生)やみぇて(止めて)ごめんなひゃい(ごめんなさい)」
頬をグニグニされながら謝っていると楪先生は、涙目になりながら
「絶対に誰にも言わないこと、それと今度生徒会で合宿と称して家に来るから、その時は私の好きなオムハヤシ作ってよね! それじゃあ、帰るから送ってくれるんだよね? 狼になったら怒るからね!」
そういって手を差し出してくる。
「先生、大人げないです……。でも、先生も案外可愛いところあるんですね? 美遥、先生を家まで送ってくるから寝るんだったら戸締りして寝ろよ? じゃあ、行ってくる」
先生から差し出された手を握り、家を出る。
「継君とこうして手を繋いで帰るのって子供の時以来だね? 継君は私のこと覚えてる?」
そういって俺のことを見つめてくる。
「なに言ってるんですか、俺が先生と会ったのは、転校してきた時が初めてですよね? 誰かと間違えているんじゃないですか?」
身に覚えが無いので、そう答えると楪先生は笑って
「そっか、私の勘違いだったのかな? もし、何か思い出したら教えてね、継君。あっ、私の家、もうすぐだから此処まででいいよ♪ 気をつけて帰ってね」
そういって楪先生はマンションに入っていったので俺も家に戻ることにした。
【楪サイド】
「そっか、覚えてないか……。無理も無いかな? あの時、継君は事故で両親を……」
でも、ちょっと酷いよなぁーっ! 何も覚えていないなんて……。
「なんか、ちょっとイラッとしたからお酒飲もーっと」
そういって私は部屋に戻ると冷蔵庫にあった缶チューハイを飲むのであった……。
「お前、まだ起きてたのかよ……」
家に帰ると美遥がまだテレビを見ていた……。
「おかえり、おにぃスマホ見た?」
そういって美遥が手を差し出してくる。
「あぁっ、見たよ。だからチョコミントのアイスを買ってきたんだろ? だけどこの時間に食べるのか?」
そういって差し出された手にチョコチップのカップアイスとスプーンを手渡すと美遥は嬉しそうにアイスを食べ始める。
「それじゃあ、俺は明日、七緒と行く映画の試写会、早いからもう寝るから部屋できちんと寝ろよ」
そういって俺は自室に戻り、眠ることにした。
「やっほー、継待った?」
次の日、七緒と9時に駅前広場で合流のため少し早く来たのだが……。
「結構待ったよ……。七緒、今何時だと思ってんだよ? 遅れるなら、せめて一本連絡をしろよな?」
スマホの画面を見ると9時43分と映し出されている。
「ごめん、慌てていたから気がつかなかった……。本当にごめん」
そういって七緒は申し訳なさそうに俺を見つめてくる。
「まぁ、七緒に何かあったわけじゃなくて良かったよ、結構心配したんだからな? それよりも、そろそろ電車に乗らないと本格的にマズくなるから行くぞ」
そういって七緒に手を差し出すと七緒は頷いて俺の手を受け取り、俺達は駅に向かった。
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