Surely

「お姉さん、一緒にお茶しに行かない? 俺、美味しい店の場所知ってるんだ」

 駅前の広場を通りかかると、見慣れた女性がチャラそうな男性2人に声を掛けられている。

「いや、私は買い物に行きたいんですけど……」

「買い物なんて後で良いじゃん! 俺達と一緒にご飯食べに行こうよ♪ 奢るからさ」

 あぁーっ、めっちゃ困ってる顔してるよ……。

「美咲、待った? っていうか誰? 知り合い?」

 そういって俺は私服姿の楪先生に駆け寄る。

「あっ、継君」

「俺の彼女に何か用事ですか? これから2人で夕飯の食材を買いに行くのですが?」

 そういってチャラい男達を見つめると彼らは舌打ちをして去っていった。

「それじゃあ、買い物に行こうか美咲」

 そういって楪先生の手を握って顔を寄せ、耳元で呟く。

「さっきの男達がまだ見ているかもしれないから、嫌かもしれないけど、しばらくは名前で呼んで恋人のふりをします」

 そう伝えると楪先生は頷いて、俺の腕に抱きついてくる。

「継君、大好き♪ さっきは助けてくれてありがとう♪ 今日は継君の好きなサバの味噌煮にするね♪ 私、しっかり練習して美味しく作れるようになったんだよ」

 楪先生は、そういってウインクをしてくる。

「あっ、ありがとう……」

 ヤバい、先生なのに不覚にも可愛いと思ってしまった。

「どうしたの継君? 顔が真っ赤だよ?」

 そういって楪先生が顔をしたから覗き込んでくる。

「何でも無いですよ」

 覗き込んできた先生を見つめると首元にどこかで見たような気がする白い鳩のネックレスがかけられていた。


【楪サイド】

 継君、私がしているネックレスを見ていたよね? もしかして昔、約束した2人だけの秘密を思い出してくれたのかな? もし、継君が気づいてくれたなら私の気持ちにも気づいて生徒と先生って関係も発展するのかな?

 そんなことを思っていると継君が私の手を優しく包み込んでくる。

「美咲、はやく夕飯の食材を買いに行こう」

 彼が卒業するまでは私の『好き』って気持ちには蓋をしよう……。でも、彼が私に気づいて迫ってきたら私は拒めるのだろうか? 

「そうだね継君、腕によりをかけておもてなしするね♪」

 そういって私は微笑んだ。


 ブルーのチェック柄のシャツワンピース姿で微笑む楪先生の姿に思わず見惚れてしまった……。

「ちなみに、今日は何を作る予定なの? 美遥ちゃんから家事全般は継君がしてるって聞いたけど?」

 俺の耳に手を添えて周りに聞こえないように尋ねてくる。

「そうですね、今日はローストビーフでも作って丼にでもしようかなと思います。一緒にどうですか?」



「それで先生がウチに来たんですね」

 そういって美遥が家にやって来た、楪先生に尋ねる。

「ごめんね、美味しそうだなぁーって思って、ついてきちゃった♪」

 食材の入った袋を持ちながらキッチンにむかっていく。

「おにぃ、お腹空いた! 私はお風呂に入ってくるね」

 美遥は、そういって1度部屋に戻ったあと、着替えを持ってお風呂に行ってしまった。

「それじゃあ、夕飯を作りますか」

 そういってエプロンを着けてキッチンに立つと隣で腕まくりをした楪先生が包丁を持って生姜を切り始める。

「楪先生、何をしているんですか?」

 不思議に思い、楪先生に尋ねると彼女は笑顔で

「サバの味噌煮を作ってあげるって言ったでしょ? だから私も作るわよ」

 俺と楪先生は料理を始めた。


材料

 牛もも肉(塊)      200g

  温泉卵          3個


 タレの材料

  砂糖          小さじ2

  醤油          小さじ2

  みりん         小さじ2

  バルサミコ酢      小さじ1

  サラダ油        適量

  塩コショウ       適量

  練りワサビ       適量


 作り方

  1、魚焼きグリルを予熱する。サラダ油

    をぬって牛もも肉をのせ10分

    加熱して火を消す。

    アルミホイルに包んでグリルに

    戻し、30分ほど置いて

    食べやすい大きさに切る。

  2、小鍋にアルミホイルの肉汁とタレの

    材料を入れて、中火で加熱する。

    沸騰させてトロミがつくまで

    煮詰める。

  3、ご飯を盛った丼に切った

    ローストビーフを乗っけて、真ん中

    に温泉卵を乗せて、その上からタレ

    をかけて完成。

「おぉーっ、手際が良いね継君、私も負けないよ」

 そういって楪先生はサバの味噌煮を作っていく。

「おにぃ、お風呂出たよ。うわぁっ、今日はローストビーフ丼! 私、大盛ね!」

 そういって椅子に座ってテレビを見始める。

「俺は後でいいので先生入ってきたらどうです? 今日は9月下旬とはいえ蒸し暑かったですし、今味噌煮を作って汗かいたと思いますし? 着替えなら用意しておくので入ってきていいですよ」

 そういって楪先生を見つめると彼女は恥ずかしそうに頷いてお風呂にむかう。

「美遥、お前の服を先生に持って行ってくれないか? そのあいだに盛り付けておくから」

 そういってローストビーフを丼に盛り付けていく。

「おにぃ、私のお肉多くしてよ」

 そういって立ち上がり部屋に戻っていく……。


「それじゃあ、いただきます」

 お風呂から出てきた先生含め3人で夕飯のローストビーフ丼、シーザーサラダに楪先生が作ったサバの味噌煮を食べる。

「楪先生が作ったサバの味噌煮美味しいですね」

 そういって笑いかけると同時に何故か涙が頬を伝って落ちていく。

「おにぃ、どうしたの? なんで泣いてるの?」

 向かいの席に座っている美遥が心配そうに俺のことを見つめてくる。

「どうしたの継君? もしかして私の料理が不味かったのかな?」

 隣に座る楪先生も不安そうな顔で俺を見つめてくる。

「いや、そんなことないですよ、とっても美味しいです。だけど、どうしてだろう? 涙が溢れてくるんです」

 昔、食べた様な……。そんな気がして……。

「あまりに美味しすぎて悔しくて泣いたんだよ、きっと……。おにぃもまだまだだね」

 ダークマターを量産する美遥には言われたくないけど……。もしかしたら美遥の言った通りなのかな? 分からないけど泣いたままじゃ楪先生も不安だよな……。泣き止め俺!


「そっか、美味しすぎて泣いてくれたんだ♪ 嬉しいな♪ 今度、また作りに来てあげるね2人共……。あっ、でも今度は生徒会のメンバーでお泊り会にしましょ、先生が2人だけなのに家に来ている姿を他の人に見られたら勘違いされるかもしれないし……。その点、生徒会メンバーで来れば、私は顧問だから怪しまれる心配は無いからね」

 そういって俺と美遥に笑いかけてくる。

 とりあえず、夕飯を食べ終えた美遥&楪先生はテレビを見て、俺は食器の片づけや洗濯物を干したり、家事をおこなっていた。

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