レイヤー4 【7/7】
結局、問題の原因はファームウェアのバグだった。
今回リプレースしたメーカーのルータは、同一バージョンのファームであっても
細かい話はよく分からなかったが、悪さをしていたのはVPNトンネル上のACL──アクセス
室見はコンフィグを作り直す際、
──以上は請け売りなので、実のところ工兵は問題を完全に理解していない。ただ状況を説明された
そのあとのことはよく覚えていない。
連日の
だから、それは
「──
〓
「桜坂君、ちょっといいかな」
デスクで週報を書いていると
──まさか、また飛び込みの仕事じゃないだろうな。
恐る恐る立ち上がり振り返る。藤崎は手帳だけを
「ミーティングスペースで。すぐ終わるから」
にこやかな表情が逆に恐ろしい。
丸テーブルにたどりつくと藤崎が
「……えっと、何かありましたか」
「そんな構えないで。いや、ほら。そろそろ入社して二週間だからね。うちの会社で働いてみてどうだったか
「どうだったか、──ですか?」
「
……ああ。そういうことか。工兵は肩の力を抜いた。
「怒られてばかりですよ。……そろそろ
「そうなの? カモメさんの話だと、
またあの人は適当なことを言って……。工兵はややげんなりしながら答えた。
「一回客先からの帰りに昼ご飯をご
実際、以前より
──まぁ、こないだの作業中もさんざん失礼なこと言ったしな……。
「
考え込む
「室見さんがあれだけ
「はぁ」
「あと先々週の
「……え?」
「勝手に人の部下を使わないでくださいって。
工兵はぽかんと口を開けた。
………。
藤崎は「とにかく」と言葉を重ねた。
「室見さんがあそこまで人のことを気に掛けるってあんまりなくてね。彼女、技術的には
「よい結果?」
「技術的な部分を室見さんが受け持って、コミュニケーション面を桜坂君がフォローする。桜坂君、実家でお店の手伝いとかしてたんでしょ? その時の
工兵はぎょっとなった。
「な、なんでそんなこと知ってるんですか。僕、藤崎さんにそんなこと一度も──」
「面接でアピールしたって聞いてるよ? 人事から回ってきた評価資料に、そう書いてあったけど」
まさかそれを折り込んだ上で
『──やるなぁ
カモメの
「そういうわけなんで」
藤崎はにやりと
「これからもよろしく頼むよ。室見さんからしっかり技術を吸収してもらって、お客さんとのやりとりでは逆に彼女をフォローしてあげて、
『これからもよろしく』
藤崎の言葉が耳に残っている。これから──つまり、
………。
無理だ──。
理性が冷静な判断を下す。この会社に入って以来、数限りないトラブルに巻き込まれてきた。わずか二週間でこの
それが室見を支え部門の戦力となる?
笑えない……よな。
───。
「何してるのよ、こんなところで」
聞き覚えのある声が休憩スペースに
「
室見は
「週報、書き終わったの?」
「……あ」
やばい、待っていたのか。
「いいわよ、できてないなら。まだ休憩してて」
室見は
「座ったら」
中腰の工兵に室見は
──なんだ、これ。
工兵は
……え? なに、
考えてみれば先週の作業について室見は
「
「すいませんでしたぁ!」
飛び上がらんばかりの勢いで
「……なにしてんのよ、あんた」
「……なにって、……
「こないだのこと?」
「先週の作業で、室見さんに
室見は「はあ?」と
「なんで
……話?
なんだろう、おずおずと立ち上がりソファに腰掛ける。
………。
なんだ、一体何を迷ってるんだ。
「OJT」
彼女は
「……は?」
「OJT、合格だから」
キッと
……え?
「まだ二週間たってないけど、あんたには結構働いてもらったし。それなりに使えることも分かったから、そろそろいいかなって。……まぁ、まだ全然だけどね。あんたなんか私から見たらひよっこ同然だけど、それでもしごく価値はあるかなって思ったから」
「………」
工兵はぽかんと口をあけた。
予想外の
室見が
「………、どう」
「どうって」
「私の下で、まだやっていく気ある?」
十日前の自分なら即座に断っていただろう。もともと室見を見返すつもりで
だが今、室見に対するわだかまりは
果たして自分はこの会社でやっていけるのか、ITという業界で生きていけるのか。──
………。
………。
くそっ。
こんな感覚、今まで経験したこともなかった。
DCでの件を思い出す
………。
あーあ。
工兵は口元を
「……
工兵は
「例の検証
「え?」
僕も──使わせてもらいますから。
そう、さらりと。
なにげない
工兵は自分の進むべき道を告げてみた。
なれる!SE 夏海公司/電撃文庫・電撃の新文芸 @dengekibunko
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