レイヤー2 【10/10】
「あ、あの……」
「ここ」
耐えかねて声を上げた
「passwordが平文になってる。これじゃあコンフィグ見ただけでログインパスが丸わかりじゃない。enableもsecretを使ってないし。あと、vtyにだけパスワードかけてコンソールが認証なしになってるのはなんで?」
ぐっと口ごもる。指摘の意味を考える間もなく室見は言葉を続けた。
「cdpを殺してないから対向のデバイスに余分な情報を与えかねない。logの表示も起動時間準拠のまま。あとでトラブル起きた時にどうやって時系列
意気消沈していると、不意に室見が「でもま」と言った。
「よくできてるんじゃない?
「……え?」
工兵はぱちりと目をしばたたいた。
え、何?
今、なんて言われた……?
「なによ、変な顔して」
「あ、いえ、すみません。……その、これでいいんですか? 納品──できちゃうんですか」
「はぁ? 何聞いてたのよ、さっき直すところ教えたでしょ。そこを修正して終わったら実機に投入。まだやること残ってるわよ。ほら
信じられない思いのまま室見の
どぎまぎする
「これがコンソールケーブル」
説明しながらケーブルをノートPCに
「TeraTermを起動、新規接続のダイアログでシリアル・COM3ポートを
画面に〓型のプロンプトが現れる。室見は工兵にPCを差し出した。
「え」
「これでPCとルータが繋がったの。あとは自分で打ってみなさい。コマンドは私が言うから」
室見が横でコマンドを読み上げていく。ぎこちなくキーボードを
室見に言われるまま、自分で作ったコンフィグを画面に
───。
四苦八苦した挙げ句、コンフィグの投入が終わる。工兵は
「まだまだ。ちゃんと動くかテストするわよ、
「テスト?」
「
………?
よく分からない。首を
「これルータ。いい? あんたがインターネット側に設定したインタフェースと私のPCを繋ぐ。で、LAN側にあんたのPCを繋ぐ。設定が正しくされていればPC同士、ちゃんと通信できるでしょ? そういうこと」
「PC同士? 通信できるんですか?」
「あたりまえでしょ、ルータってそういう機械なんだから」
いや、まぁ
自分の作った
「いいから、ごちゃごちゃ悩んでないでやってみる。PCのアドレスをこれに変えて。で、LANケーブル準備。向こうの棚にクロスケーブルって
大声に背中を押されケーブルを取りに行く。机に戻るとホワイトボードの図に従いPCとルータを接続していった。
「アドレス変え終わった? じゃあ次、コマンドプロンプト立ち上げて。──そう、『ファイル名を指定して実行』からcmdと打ち込んで。リターン。そう、それ」
黒一色のアナクロな画面が起動していた。画面左上に白字で『C:¥Users¥rikka』の表記がある。その横には〓の表示。
「ping、スペース、対向PCのアドレスを入力」
「pingは通信
「わか……る」
「あんたがここ二日かけてやった作業、その結果よ」
ごくりと
室見は無言で工兵の決断を待っている。工兵は大きく息を吸い込み
───。
Pinging xxx.xxx.xxx.xxx with 32 bytes of data:
Reply from xxx.xxx.xxx.xxx: bytes=32 time〈1ms TTL=128
Reply from xxx.xxx.xxx.xxx: bytes=32 time〈1ms TTL=128
Reply from xxx.xxx.xxx.xxx: bytes=32 time〈1ms TTL=128
…
画面を数字とアルファベットが流れていく。
Reply from──意味は……応答あり。
つな……がった?
「気持ちいいでしょ?」
振り向くとすぐ
「あんたの作ったネットワークよ」
僕の──?
もう一度、pingコマンドを発行する。結果は同じ。Reply fromの
室見は
「
室見は
「あんた、一度
「え……」
突然の申し出に工兵はきょとんとした。室見は心なし
「休憩よ、休憩。食事でも一服でも、とりあえず頭休めてきたらって言ってるの。残りのテスト、ぼんやりやってミスされるのも
「じゃあ、ちょっとだけ」
ここは彼女の
机に手を突き立ち上がる。その時、どたどたと
「む、室見さん!」
悲鳴のような声が
入り口に細身の男性が立っている。真ん中分けの髪、
「た、た、大変だよ、室見さん」
「なんですか、いきなり」
「い、今うちの部署に荷物が届いてて。中身見たらネットワークスイッチだったんだけどなんの案件に使うか分からなくって。たまたま社長がいたから
M情報……? 聞き覚えのある社名に首を
──ていうか、あれ? 今自分達のやってる案件って……
「M情報の機械なら、ここにありますけど」
室見の
「ゲートウェイルータじゃなくてスイッチ。どうも社長、DC内スイッチのリプレースも
「四台。24ポートものが二台と48ポートものが二台」
「納期は」
「
………。
ふ、ふざけるなあっ!
工兵は
「な、な、なんでそんなことになってるんですか。社長はなんて言ってるんです?」
「いや……忘れてた。ごめんって」
………。
一体どうするつもりだ。すがるような思いで室見を
「──ま、いつものことか」
えええ!
「うん、ま、いつものことなんで。ごめん」
藤崎さんまで!?
「というわけで
だが
結局、作業は
そして結局──
その日も、工兵はめでたく終電帰りとなった。
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