レイヤー4 【2/7】
「……ちょっと、
「ですから、何度も言ってますように」
室見が固い口調で言う。
「私が本案件の担当者です。スルガシステムのエンジニアとして、本日こちらの
「担当者、担当者」
男は
「あなた達みたいな新人が?
室見は
「
「それじゃあ資格は? 資格、何か持っているの、あなた。CCIEとかネスペとか」
「………」
「はっ」と鼻を鳴らして男は首を傾けた。
「口ではなんとでも言えますよ。でもね、スキルを証明できるものがなければあんた達みたいな中小ベンダ、安心して使えないの。ていうか本当に、あなたエンジニア? アシスタントじゃなくて」
みしりと何かの
これは……やばい。
「どうすれば、ご納得いただけるんですか」
室見は声を
「業務経歴書を書面でお出しすればいいですか。それとも
「……あー? そんなのどうせ口裏合わせてそれっぽいこと言うだけでしょ。とにかくね、きちんとした人を連れてきてください。信用して任せた挙げ句トラブられたら、
とりつく島もない。事実上の交渉打ち切り宣言だった。
ぷちりと、何かの切れる音が
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「……うにゃっ!?」
バランスを崩し室見が転倒する。片足を
男は
「……あなたは?」
「
どくどくと
「あの……そちらのご
強硬な反応を予想していたのか、男が拍子抜けした表情になる。横で室見がぽかんと口を開けていた。工兵は場の雰囲気が
「ただ、新規のエンジニアを連れてくるにしても、ある程度案件の状況を理解した上でないとまたご
男は
すかさず
「それでは、いくつか
「ああっ! もう頭来る! 本当ムカつく!」
室見の声が
室見は青筋を浮かび上がらせ水を
「ったく、なんなのよ、あの
「室見さん、室見さん、声が大きいです」
工兵は
「ほら、注文しないと。店の人、待ってますよ」
室見はひったくるようにメニューを受け取った。ギラギラと目を
「これ。和風ツナパスタと、あとツナサラダ。……ツナトーストって昼でも頼める? じゃあそれも」
「本当にツナ好きですね……」
「ツナはタンパク質と
「………」
すくすく元気に。
まじまじと室見の姿を見つめる。
これは突っ込むべきなのか? ていうか、そういう
反応に困り
「……ていうか、あんたさ」
室見は
「なんかやたらと客対応
「ああ。えっと、実は」
「うち実家がお店やってるんです。子供の
「お店?」
「お菓子屋さんです。うなぎのお菓子とか作ってて。僕、実家
「あの手のお客さんって自分の意見が通るまでずっと同じことを言い続けるじゃないですか。だから
「………」
室見は
「
僕はのび太ですか──
まぁ室見は間違いなくジャイアンだろうが。
室見はパンを水で流し込み工兵を
「あんたね、今回はたまたまうまくいったからいいけど、お客さんって言っても
「……はぁ」
別にいい気になってるつもりはないんだけどな。
「ああ、むかつく。本当むかつく」
運ばれてきた皿に手をつけながら室見がつぶやく。食べるペースは速い。見ているうちサラダの
「あ、あの、すみません! お水もらえますか!」
工兵は
「……まぁでもよかったじゃないですか。結果として予定通りヒアリングできたんですから」
「これであとは
「………、そんな
「? どういうことですか?」
予想外の回答に目をしばたたく。室見は
「
そういえばそんなことを言っていた。
「なんか……まずいんですか?」
「まずいっていうか……リスキーよね」
室見はつぶやくように言った。
「流用する機械に問題があっても事前に発見できない。当日設定中に何か起きても、それがコンフィグのせいか機器のせいか判断できない。せめて事前に機械を貸してもらえればテストとかできるけど、それも無理って言われちゃったしね」
切替え日ギリギリまで
「あと、作業時間も平日の昼休みって言ってたでしょ? つまりシステムの停止時間が最大で一時間しか取れないってことよ。
「ど、どうなっちゃうんですか。その……何か起きると」
「通信全断。
恐ろしい
「やばいじゃないですか」
「やばいわよ」
「な、なんで断らなかったんですか。そんな
「
「………」
思わぬところからの
凍りつく工兵に、だが室見は
「……まぁ、大丈夫よ。同一機種じゃないけど同じメーカーの機器が会社にあるから。そっちで検証すればコンフィグの整合性は
「切り戻し?」
「障害が発生した時、元の構成に戻すこと。──ちょっと、これあんたに一度教えなかったっけ?」
「でし……たっけ」
「質問。機器設置時に準備するドキュメントは? ラックマウント図とネットワーク図、あと何」
「……え、えっと」
工兵は
「
違うよね。やっぱり違いますよね。ごくりと
「人の教えたことを右から左にスルーとか、
言いながらフォークを取り上げる。いや、待った。それをどうする気だ。持ち上げて、真横に構えて、切っ先を
「ま、ま、
顔をのけぞらせながら工兵は叫んだ。目の前でフォークの先端が
「あんたみたいな鳥頭はこれくらいやらないと覚えないでしょ。いいから一回刺されときなさい。新しい世界が開けるかもしれないから」
「むしろ世界が終わります! ってか、
「そんな
なんか変な語尾ついたー!
………。
結局、ランチタイムはその後、室見の口頭試問会と化した。
胃の痛くなるような質問攻めにあいながら、工兵は二度と室見の食事にだけは付き合うまいと思っていた。
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