レイヤー1 【2/7】
採用担当の声に工兵は
(………?)
パーティションの切れ目に赤いボールのようなものが現れていた。磨き上げられた表面が照明を浴びつやつやと
なんだ? と思った
「おお! 生きが良さそうだな!」
ボールが
一目見てそう思った。
男は席に着くなり
「君、
がははははと
「社長、社長」
採用担当は工兵をうかがいながら声を
「よしてくださいよ、新人を
「……ん? ……ん、ああ、そうか。そうだったな」
「じゃあ改めて紹介します。こちら
「え? あ、ええ。はい」
「口コミを使った宣伝手法について研究していました。卒業研究では実際に学内で
「ふぅむ」
社長は採用担当から
「君──、結婚はしておらんだろうな」
「………? はい、まだ──ですけど」
結婚どころか付き合っている彼女さえいない。質問の意図が分からず
「当然、子供はいないな」
「……はい」
「実家か? それとも
「一人暮らしです」
「
「……いえ? そんな
「つまり家のことは気にせず、存分に仕事に打ち込めるというわけだな」
「───」
なんだろう、この妙な念押しは。まるで家族がいたら業務に差し支えるとでも言わんばかりだった。
その後も社長はおかしな質問を続けた。虫歯はあるか、持病はないか。酒は大丈夫か。視力はどうだ? 裸眼か、コンタクトか──
「おい、今度の子はなかなか
「でしょう」
採用担当は満面の
社長は
「いや、すまんすまん。ご
「いえ……そんな」
工兵は
なるほど。
……虫歯?
「──あらためて、スルガシステムの社長、
「あ、はい、よろしくお願いします」
「それで──? 彼はどこに配属されるんだ」
「
「おお、藤崎君のところか!」
社長はかっと目を見開き工兵に
「君は運がいいぞ。藤崎君はうちの会社でもとびきり
「本当ですか」
工兵は身を乗り出した。社長は自信満々にうなずいた。
「本当だとも。
「
採用担当の指摘に社長は「そうだ、そうだった」とうなずいた。
「それじゃあ桜山君、ついてきたまえ。ああ──君はもういい。あとは私の方で案内する」
「そうですか……ではお願いします」
採用担当は軽く一礼して
「じゃあ桜坂君、何かあったら総務まで来てもらえれば対応するんで。──
工兵は目をしばたたいた。
「ほら、桜本君。行くぞ!」
大声に振り向くと、社長が立ち上がり廊下に出かけていた。工兵は慌てて荷物をまとめ社長に続いた。
というかこの人、他人の名前を覚えるのが
白い殺風景な
社長はネックストラップのカードキーをリーダーにかざした。ピッと電子音が
工兵はごくりと
ここが自分の所属部署、……だとすれば
可能な限り第一印象を良いものに。
扉が開く。
工兵は息を吸い込んだ。呼吸を整え、はっきりした
「失礼しま──」
オフィスの
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます