レイヤー1 【1/7】
四月一日、
日差しが
いよいよだ。
工兵は背筋を伸ばす。
同期はどんな人達だろう。入社式は、研修では何をやるのか。配属はまだ先だろうけど
『
時刻表
よし、大丈夫覚えている。
満足げにうなずき工兵は自分の立ち姿をチェックした。
ネクタイ良し、髪型良し。
スルガシステムのビルはここから西に数分、
工兵は
Yさんの写真に向かって
───。
朝の駅前交差点は戦場のようだった。信号が青に変わった
地図を
ごくりと
エレベーターに乗り7のボタンを押した。
軽いGとともに階数表示が2から3、4へと変わっていく。
深呼吸を一回、気づけば背筋が伸びていた。表情を
5。
6。
7──
ポーンとチャイムの音が
「………」
奇妙な違和感を覚えながら工兵はホール向こうの受付に向かった。そろそろ始業時間だというのに、誰もいないのだろうか?
狭い待合いスペースには古びたソファーと
───。
なんとも言えない不安が心を満たす。人事からのメールでは四月一日本社に集合とだけ伝えられていた。てっきり受付で人事が
もしかしてメールを読み違えたのか? ──いや、そんなはずはない。一体何度読み返したと思っているのか。集合場所、時間、当日の持ち物。モニタに穴が開くほどメールの内容を確認した。
落ち着け、落ち着け、落ち着け。
混乱しかけた
「………」
無言で内線電話に近寄り受話器を取る。
番号案内の
祈るような気持ちで耳をそばだてる。くぐもった呼び出し音が受話器の奥で
一度、二度、三度。
──
続いて四度、五度、六度。コール音が十を超えた時点で
じわりと
恐ろしい想像が
仮に、仮にだ。最初のメールのあと、集合場所の変更連絡が来ていたら? それに気づかず古い方のメールのみ確認していたら? 普通で考えればそんなことはありえない。だが例えばの話、新しく届いたメールが
全身から
(ど、どうしよう……)
助けを求めるように工兵は周囲を見渡した。
───。
こうなったら
意を決し受話器をつかんだ時だった。
「──ああ、
背後でのんびりとした声が
振り向くとスーツ姿の男が立っていた。線の細い
「あ……」
工兵はぱちぱちと目をしばたたいた。全身の
男はちらと
「もうこんな時間か。ごめんね、ちょっと朝一で打ち合わせ入ってたんで。──結構前に着いてた?」
「いえ……」
何気ない
「あの……」
「
「他の人?」
「新入社員です」
採用担当は首を
「いないけど」
「いない?」
「
新入社員が……自分一人?
「いや……え、でも、あれ? 面接の時、他にも内定者がいるとか言ってませんでしたっけ?」
「ん……? 言ったっけか、そんなこと」
採用担当はもう一度、さっきと反対側に首を
「それはまぁほら、内々定出したからって全員入社するわけじゃないからさ。辞退する人もいるわけだし」
「で、でも──」
まさか全員辞退したわけではあるまい。面接の時、採用予定人数は三人から五人と聞かされていた。その
混乱する工兵の肩を、だが採用担当は気安い
「ま、ま、こんなところで立っていてもなんだからさ。そこの──
「社長?」
採用担当はうなずいた。
「新しく入った人とね、うちの社長、入社時に
社長と個別面談──、そう聞いて気分がわずかに上向く。会社のトップが自分一人のために時間を
「──ああ、社長ですか? はい……はい。例の新人です。今ミーティングスペースBにいるんで来てもらえますか。……ええ。──はい、分かりました。それでは待ってますんで。では」
パーティションの裏に机と
「あ、どうも」
紙コップを受け取り工兵は頭を下げた。口をつけてよいか迷った
「あの……社長ってどんな方ですか?」
「ん?」
採用担当は工兵を見た。
「どういう人? ……どういう人ねぇ」
つぶやきながら口元を
「まぁ大らかな人だよ。細かいことは気にしないし、基本現場に任せてくれるから仕事はやりやすいかな。僕に下りてくる指示も、いついつまでにこのニンクで何人
へぇ……と工兵は
「ただ大ざっぱすぎて困る時もあるけどね。こないだなんて大変でさ。コールセンターの要員って言うんで
………。
えーっと……。
いまいちイメージが
ところで
ドタドタと
「お、おいでなすった」
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