なれる!SE
夏海公司/電撃文庫・電撃の新文芸
序
──とあるプロジェクトマネージャーの言葉
平凡な人生を送るのは
そんな
分かってる。分かってるのだ。
ロックスターを目指さなくても、F1レーサーにならなくても、トップアスリートへの道を突き進まなくても。
普通の人生は非情なまでに
高校
大学受験は
学校の人間関係は複雑怪奇で、
運良く第一志望の大学に合格したあとも同じだ。東京で
コンビニのバイトで金銭の重さを知り、サークルの上下関係に社会の階層を
平凡な人生を送るのは難しい──
工兵はその事実を骨身に染みて理解している。
だが。
だがしかし。
平凡な就職をするのが、これほど難しいとは思ってもみなかった。
大学三年生の二月、初めての採用面接が不合格に終わった時、工兵の感想は「バイトの面接と
三月になり不合格の数が十を超えると、初めて「これは何か対策を立てた方がよいのかも」と思い始めた。
四月になり一次採用が
五月。
大手企業の採用が一段落した時。
工兵の内定数は相変わらずゼロのままだった。
不況、採用
大して
しかしそんな付け焼き刃の対応がうまくいくはずもなく、六月になっても工兵の内定はゼロのままだった。
サラリーマンになれないことがこれほど絶望的な気分だとは思ってもみなかった。まるで自分の人間性を否定されたような、自分という存在を丸ごと拒絶された気分だった。
大学の仲間は一足先に内定を
七月──
実家の両親から連絡があった。
就職が決まらないなら──東京で働き口がないのなら実家に戻ってこいと。
工兵の実家は
就職先を決めるか、実家に戻り家業を継ぐか。
そして、七月も終わりかけのある日。
彼はその求人を見つけた。
株式会社スルガシステム。
聞いたこともない企業だった。業種はシステム開発、情報処理。募集職種はシステムエンジニア。社員数は三十数名、創立まだ数年の小さな会社だった。
就職活動をはじめたての彼であれば、おそらくこんな求人に見向きもしなかっただろう。工兵はメールとインターネット、
だが募集要項の下に書かれた一文が工兵の目を引きつけた。
『まだ見ぬ君の可能性を求めて──』
自分の……可能性──
スルガシステムの求人広告は独特だった。
求める人材像やキャリアパスの説明はほとんどなく、Yさんという
Yさんは文系出身でコンピュータに関して
何度となく「もうやっていけないのでは」と思い、その
『ありがとうYさん、あなたのおかげで当社の新システムは無事
───。
最後まで読み終わった
逆風に
そうだ、どんなに苦しくったって、
気づけばスルガシステムの
返事はすぐに来た。
説明会の候補日と場所、採用プロセスの
そこから先は
説明会に書類選考、筆記
面接対策をたてるまでもなかった。
Yさんのようになりたい、そう思っただけでマニュアルと違う自分の言葉が出てきた。熱っぽく意気込みを語る工兵に面接官は力強くうなずいてくれた。
『
人事の担当者はニコニコしながら言った。
『
とんでもない! と工兵は首を振った。
自分は
『なるほど』
採用担当者は
であれば、
こうして──工兵の
彼は実家に連絡し、卒業後の進路が決まったと告げた。
両親は
サークルやゼミの知り合いも、工兵の内定を知るや祝福の言葉をかけてくれた。
当たり前の日常──
それからしばらくしてテレビで
『詐欺の手口で、よくあるのはですね』
消費者問題の専門家という男性が、のんびりした
『まず成功
なるほどー、と司会のアイドルが
男性はうなずきながら話を続ける。
『あなたは特別だ──とも言いますね。あなたのように特別な人だからこの話を教えたんだって。まぁよく考えれば
『あははー、
『まぁ詐欺師は
私は
はて……なんだか最近似たような話を聞いた気がするけど、なんだっけ?
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