レイヤー2 【5/10】
「ちょ、ちょっと待ってください。
「最初から全部分かったら勉強の意味ないでしょ。分からないところは調べながらやる。エンジニアの基本よ。あと何やったらいいかって、……私言ったでしょ? コンフィグを作れって」
だから──、そのコンフィグってなんだ。
「とにかく、四の五の言う前にまずは資料を読んで。話はそれから。ちなみに
工兵はPCを抱えたまま
悩んだ
───。
……分からない。
ざっと流し読んでみたが、さっぱり意味がつかめなかった。
『貴社
室見は「日本語くらい読めるでしょ」と言ったが、これを日本語と呼ぶのはどうかと思う。今まで普通に暮らしてきて、一度も耳にしたことのない単語ばかりだった。
三十分ほど
まず、ルータというのはインターネットの通信を
で、それが古くなってメーカーの保守も切れるので、新しいものに入れ替えましょうという話らしかった。だったら最初からそう書けよ──と言いたかったが、工兵はぐっと不満を飲み込んだ。
今回交換するルータはM情報のインターネット接続に使われていた。台数は一台。現在はAというメーカーの機械が使われているが、それをCisco社の機械に変更する。メーカーが変わるので機械の設定ファイルも作り直しになり、それがコンフィグを作るということらしかった。コンフィグ──Configuration、設定。なるほどそのまんまだった。
だが比較的
既存機器のコンフィグを見て工兵は
日本語じゃないじゃん……。
一体これをどうすればいいのか。日本語に訳して、……それから?
とりあえずいくつかの単語でググってみる。「ip cef」──『CEF
───。
───。
………。
二時間ほど
「……あの」
工兵は
「何、もうできたの?」
「……いえ、あの、まだなんですけど、ちょっとお昼ご飯買ってきてもいいですか」
「昼……?」
室見は
「もうこんな時間か。……午前中に一台設定終わらすつもりだったのに」
舌打ちしながら、またディスプレイを覗き込む。キータッチの音が速度を上げた。
「あ……あの、だからお昼ご飯は」
「適当に食べてきていいわよ。私はここですますから」
「ここで?」
いつの間に食料を
室見は
──まさか、これが昼飯?
「あげないわよ」
「………、いりませんよ」
──そんなに好きなのか。
刺すような
ビルの外に出た
陽光を浴び
「んー……」
大きく伸びをして首を回す。
まぁ幸いにも
……もっともそのあと、また
「………」
いかんいかん、また
とりあえず腹ごしらえだ。空腹さえ収まれば少しは気もまぎれるだろう。コンフィグの作成についても何かよいアイディアが出てくるかもしれない。
工兵は強引に気持ちを切替えた。
さて、何を食べよう。作業が
うん、とうなずいて歩きだす。
駅前まで徒歩二分、まだ昼休み前のためか人通りは多くない。横断歩道を渡り店にたどりつく。両開きの自動
会計をすまし外に出ようとした瞬間、雑誌売り場の一角に視線を引かれた。
うわ、やば、読みたくない。そう思いながらも工兵は雑誌を手に取っていた。
──なになに、『消える残業時間、百時間超えでも
………。
見るも恐ろしい見出しが並んでいる。……いやこれ、さすがにオーバーだろう。スポーツ新聞の
顔を引きつらせ読み進んでいくと指先が特集ページにたどりついた。タイトルは『あなたの会社は大丈夫?
……人材ブローカー?
なんだそれ。
──安値で
『採用時は、プロジェクトマネージャーやコンサルタントへのキャリアパスなど、景気のよい話で
ぱたん、と雑誌を閉じた。
回れ右して、ぎこちない足取りでコンビニを出る。なんだろう、聞き覚えのある単語をいくつか目にした気もするが、おそらく気のせいだ。
見てない、自分は何も見なかった、読まなかった。
必死で自分に言い聞かせてサンドイッチにかぶりつく。乾いたパン
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます