レイヤー2 【6/10】
冷や汗を
しばらく考えた
いかんいかんいかん。
頭を振り
『季節のツナ缶詰め合わせ。こだわりの味を食卓に直送』
……ぶっ!
顔を引きつらせる
工兵の
「遅い」
不機嫌な
室見は声を低くした。
「どこまで行ってたのよ。あんたまだやりかけの仕事あるんだから買い物くらいとっととすませてきなさいよね。……って、まさかとは思うけど、
「……そんなこと、してませんよ」
むっとなって答える。少し遅くなったとはいえまだ三十分も
───。
いや……いい。こういう言動をいちいち気にしてもしょうがない。早く仕事を終わらせればその分早く会社を
無言で
……といってもな。
結局、何も打開策を思いつかないまま戻ってきてしまった。だいたい自分のような
……待てよ。
ふっと
──ググる。……いいんじゃないのか、それ。
コンフィグ内のキーワードで検索してみたら何か引っかかるかもしれない。設定例のまとめサイトとか、メーカーのサポートページとか、あるいはそのまんまずばりコンフィグファイルとか。
案件資料を見る限りCiscoのルータはかなり一般的な
よし。
だめもとでブラウザを起動する。検索キーワードは……そうだな。『Cisco』と『設定』、いや『設定例』でどうだ。あとはコンフィグ内の単語を適当に入力していけば。
ビンゴだ。
下唇を
『インターネット接続(NAT構成)』
リンク先のページが開いた瞬間、工兵は
即座に全文をコピー、手元のエディタにペーストする。横に
横で室見が
(ここをこうして……、こうして
三十分後、それっぽいテキストができあがる。一度見直した後、簡単なタイプミスだけ修正しコンフィグを保存した。
工兵は席を立った。
「室見さん」
室見は
「今度は何、トイレ?」
「違います。できました」
「……できた?」
「コンフィグです」
「午前中いっぱいかかってもできなかったのに。……なんで食事から戻った
う──
なんと説明したものか、まさかネットの検索結果をそのままコピペしたとも言えない。
室見の表情が
「まさか、やっつけで作ったんじゃないでしょうね」
「……ち、違いますよ」
「でかける前にだいたいできあがっていたんです。戻ってから見直しして、それで完成させたんですよ」
「……だったら、終わらせてから行きなさいよね」
ぶつぶつ言いながら、それでも室見はノートPCを受け取った。液晶の角度を
──どうだ。
工兵は心持ち胸を反らした。細かなミスはあるだろうが、何せ答えを丸写ししたようなものだ。室見的には予想外の出来だろう。
さぁ、なんと言ってくる。
………。
ほ、
「やりなおし」
───。
……え?
いや。
え?
ちょっと、何それ。
「ま、待ってください」
工兵は
「ど、どういうことですか。全部間違ってるとでも言うんですか、これ」
「ううん」
「じゃあ、なんで!」
「あんた……それ、どっかから写したでしょ」
………!
「元コンフィグにsyslogサーバなんて指定されてた? SNMPコミュニティなんて設定してた? そんなズラズラと余計なACLかけてた?」
「………」
工兵は口ごもる。どこを消してよいか分からなかったので、意味のつかめない部分はサンプルコンフィグを流用していた。つまりはそれが余分な
室見は語気を強めた。
「私言ったわよね、一からコンフィグを作れって。
「で、でも……」
そんなことできるわけないじゃないか。室見の言っていることはつまりこうだ。新旧の設定規則を理解した上で過不足なく、必要最小限の設定を作り上げろと。どう考えても
「でもも何もない。ていうか、三時間かけてやったことがサンプルのコピペだけ? あんたやる気あるの? ないならもう帰っていいわよ。
「……っ!」
さすがにカチンときた。
一体全体、なぜここまで言われなければならないのか。自分が反抗的で物わかりが悪いなら話は別だ。だが実態として工兵は教育らしい教育を何一つ受けていない。ノートPCを渡されいきなり仕事を割り振られただけだ。
だいたい、コンフィグを作成するのに一から作るのとサンプルをコピーするのとで何か違いがあるのか? 余分な行があるならそこだけ削除させればいい。問答無用でやりなおしさせる道理はなかった。
「不満そうね」
室見は静かな
ぞくり。
冷たいものが背筋を走った。整った顔にいつもの子供っぽさはない。別人のような
「言いたいことがあるなら言ったら? なんで設定例があるのに、わざわざ一から作らなきゃいけないんだとか。余分な箇所があるなら、そこだけ削除させればいいだろうとか」
「………」
「
「? どういうことですか」
「仕様の伝達ミス、接続
「それは……」
そんなことまで考えてもみなかった。とりあえず納品さえすれば話は終わりと思っていた。
「サンプルをコピーしただけだから分かりません、とでもお客に言うつもり?」
「………!」
そんなことはないと否定しかけて言葉を
室見は工兵から
「もう一度言うわよ、一からコンフィグを作って。余分な行が一つでもあったらNG。分かったわね」
「……はい」
………。
無理だ、どう考えても。
絶望が
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