レイヤー3 【5/5】
カモメさんに連絡とってみたらどうですか?
そう藤崎に伝える。
……ああ、いえ。カモメさんに直接仕事をお
さっき
僕ですか?
ごめんなさい、ちょっと今から
………。
たったそれだけで
「あの……藤崎さん」
『──あの子、ほっとくと夜昼関係なしに働いちゃうから』
ふっとカモメとのやりとりが
『たまには外へ連れ出さないとね。買い物とか、映画とか、少しは女の子らしい遊びもさせないと』
───。
ああ、くそ。
工兵は頭を振った。ここで室見の居場所を話したら自分は間違いなく悪者じゃないか。
(こっちだって……今日は休みなのに)
泣きそうな気分で顔をしかめる。だがもう心は決まっていた。彼は大きく息を吸い込んだ。
「わかりました。手伝います……」
「本当かい!?」
藤崎の顔が
「よかった。本当助かるよ。今日の夜はご飯
「ああ……いえ、そんな」
仕事なのだ。藤崎個人に気を
「あ、ちなみにうちの会社
「
工兵は絶叫した。
こ、こ、こ、この会社は! この会社はもう!
「や、やっぱり帰ります! 急用を思い出したんで!」
「あはは、
「冗談じゃないです! ていうかなに道
こうして、──工兵の短い休日は終わりを告げた。
〓
「二十八、二十九、三十──、
ご利用ありがとうございまーす。
配達員の元気な声が廊下に
……なんとか……終わった。
よろよろと受付のソファに座り込む。疲労が
(……疲れた)
身体の力を抜きだらりと
結局、夜までかかってしまった。三十台の
……何やってんだろ、自分。
指先で前髪をつまみ伸ばしてみる。心なし
「ああ……」
空に向かって
「室見さん、
「
………。
「へ?」
「え、えええええ!?」
声を裏返す
「あんた、こんなところで何してるの? 会社のソファーをベッド代わりとか、ありえないんだけど」
「む、室見さんこそどうしたんですか?
室見は鼻の両
「さっきご飯を食べ終わって別れたのよ。まっすぐ家に帰れって言われたけど、メールだけ見ておこうと思って」
「………」
工兵は
カモメが気の毒だった。せっかく休養を取らせようとしても室見はすぐ仕事に戻ってきてしまう。まったくもって天性の
彼女はギロリと工兵を
「で、質問の答えは? なんであんた会社にいるのよ。まさか、本当に
「ち、違いますよ」
工兵は
最初は
問い詰められた挙げ句、
話を聞き終えた
やばい、怒られる。
工兵は肩を
………。
だが、いつまでたっても怒声はなかった。
「あんた、なんで私が近くにいること藤崎さんに言わなかったの?」
「………、なんでって……」
「
「それは」
──
カモメの
………。
だが、それをありのまま話すのは
考えあぐねた結果、
「特に予定もなかったですし……、残業代もらえるかと思ったんで」
「うちの会社、
「……さっき聞きました」
「救いようのない間抜けね。仕事を受ける前に
「………」
こ、この女……、人が下手に出てれば好き勝手言いやがって。
………。
むくれた表情でうつむいていると、不意に
「………? なんですか」
「携帯出して、私の番号教えるから」
「………?」
何言っているんだ、いきなり? きょとんとしていると室見は
「あんたの上司は私でしょ。相手が藤崎さんでも社長でも、私の許可なく仕事ふられたら困るのよ。次に同じことがあったらまず私に連絡して。仕事を受けるかどうか私が判断して上の人と
ぽかんと口を開け、室見を見つめる。
えっと? つまり、それって……?
社長の
予想外の発言だった。
気づけば携帯を取り出していた。
「……なによ」
ぶっきらぼうな
だが
……ああ。
工兵は
そういうことか、と思う。
この人は自分と違う場所にいる。違う次元に生きている。
──プロフェッショナル。
そんな単語が
彼女はプロだ。
「ちょっと、何笑ってるのよあんた!? 私、何かおかしなこと言った!?」
室見が
だけど。
───。
工兵は苦笑しながら
だけどだからこそ気づいてしまった。
彼女のようにならなければ仕事をこなしていけないのなら。
二週間後の判断を待つまでもない。
自分に──この世界は無理だ。
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