レイヤー1 【7/7】
工兵は目を
藤崎は小首を
「その条件なら──やってくれるの?」
「トラフィックジェネレーターの件も忘れずに」
「もちろん」
「可動式のハーフラックも」
「検討しよう」
「ケーブルテスタは?」
「値段次第で応
「じゃあ、それで」
「というわけで
「いや、いやいやいや! 何一件落着みたいな顔してるんですか。ちょっと待ってください、なんですか首って、困りますよそんなの!」
「いやだな、そんなのは
「私、本気ですから」
「ははは、そうだね、それくらいの意気込みで桜坂君も
明るく笑う藤崎を前に、だが工兵は青くなっていた。
室見の目は殺気に近いものを
もちろん、彼女のような一社員に首切りの権限があるはずない。だが人を辞めさせる方法はいくらでもある。いざとなればあらゆる
「藤崎さーん、O情報の
カモメが受話器を持ったままパーティションから身を乗り出していた。藤崎は「ああ、うん。今行く」と返事して工兵達に向き直った。
「じゃあ僕は仕事に戻るんで。あとは室見さんよろしく、桜坂君も頑張ってね」
そう言って席を立つ。工兵は
「ちょ、ちょっと待ってください! 藤崎さん」
ミーティングスペースから
「む、
藤崎は苦笑した。
「大丈夫だよ、彼女、少し
「ぶ、不器用……?」
いくらなんでもそれは好意的すぎる見方じゃないだろうか。彼女の言動からは工兵に対する善意など
「
「そんなことは……」
あるけれど。ていうかそれ以外にどう解釈しろというんだ。
藤崎は
「ごめんごめん。まぁあれは半分
言葉が途切れる。
ちょっと待った。……再来週?
工兵は恐る恐る
「えっと、今月の予算会議っていつなんですか」
藤崎は
「四月十四日の
「OJTの期限っていつでしたっけ」
「今から二週間後だと……十五日の水曜日かな」
ああ、なるほど。予算
って、そのまんまじゃねぇか!
明らかに予算さえ
お
「まぁそれはともかく」
「まとめないでください! 今、藤崎さんもおかしいと思ったでしょ? 変ですよね? 明らかにおかしなスケジュールですよね!?」
「そうかなぁ」
しらばっくれやがった!
「
藤崎は「それに」と言葉を続けた。
「僕もそうだけど、今うちのチームほとんど出払っていてね。比較的社内にいるのは
「そ、そう思うなら、もうちょっと何か考えてくださいよ。……あ、そうだ。カモメさんは? 事務の仕事をしているなら基本社内にいるんですよね?」
「桜坂君はエンジニアだから、事務を教わってもしょうがないでしょ。だいいち彼女はパートだし。正社員のOJTとかは無理だよ」
「じゃ、じゃあ」
「Yさんはどうなんですか? あの人も確か、ここの部署ですよね?」
そうだ。彼がトレーナーなら多少
だが
「Yさん……?」
「
藤崎は「んー?」と
「そんな人、いないけど?」
「いない?」
「うん」
工兵は混乱した。
「そ、そんなはずないですよ。……え? まさかさっき言ってた辞めた人って……Yさんのことですか?」
「いや、……いやいや辞めたとかそういうことじゃなくって」
藤崎は
「Y……イニシャルがYってことだよね? そんな名前のエンジニア、昔からこの会社にいないよ?」
「………?」
工兵は
一体どういうことだ? わけが分からない。Yさんが……いない?
藤崎は
残された工兵は
はっと
「あれ……? それ、やまと屋さんじゃない」
いつの間に近づいてきたのか、カモメが
「やまと屋?」
「近くの定食屋さんよ、たまに出前でオフィスに来てくれるの。あそこの
なにやら首を
……えーっと。
「……そのやまとなんとかの人が、なんでこの会社の人間として紹介されてるんでしょう」
「うちの社員に
「いつまで遊んでんのよ。ほら、行くわよ。あんたがどんな
ぐいと二の腕をつかまれた。そのまま力任せに引きずっていかれる。
工兵はコピー紙を握りしめたまま
室見の言葉が
うちの社員に本音で喋らせたら誰も応募してこなくなる──?
だから適当な写真と文章を組み合わせて、それっぽい記事をでっち上げた?
誰が?
……考えるまでもない、あの採用担当だ。
つまりこういうことか? 劣悪な労働
『実を言うと
………。
『
(………!)
ひょ、ひょっとして……だまされた?
絶望的な事実が
だが
気のせいか、耳元でドナドナが聞こえたように思えた。
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