レイヤー2 【1/10】
ぼんと、ラボルームの机に大量の書類が置かれた。
百科事典を二冊
「とりあえず、これ」
「コピー
同じ言葉が脳内を
だいたい、おかしいじゃないか。
今まで見たこともない求人が通常の就活時期を過ぎた
「
一体どうしてやろうか。人事にどなりこんで説明を求める? いや、いっそ大学の就職
「おいこら」
室見はドライバーを取り上げると
「痛い! 何するんですか!?」
「何するんですかじゃないわよ! 人が説明しているのに何ぼんやりしているのよ。ちゃんと聞いてる?」
工兵は目をしばたたいて室見を見た。彼女の小さな手が机上の書類を押えている。えっと……ああそうか、コピーするんだっけ。
「客向けの書類だから
「……はぁ」
「返事ははっきりと!」
「はいっ!」
なんというか、いちいちドライバを振りかざすのはやめてほしい。書類を取り上げ追い立てられるようにしてラボを出た。ずっしりと紙の重みが両腕にのしかかってくる。……これ全部コピーするのか。
オフィスに戻り
よっこら……せっと。
サイドテーブルに資料を置きコピー機と向き合う。これだけの枚数だ。一枚ずつコピーしていたら日が暮れてしまう。何か効率良くやる方法はないか。頭を
よし。
小さくうなずいて
排出されたコピー紙をモノクロプリンタに供給しタッチパネルを
雑然とした室内に人の姿はない。デスクがパーティションで区切られているせいもあるのだろう。妙に
なんか、……イメージと違うな。
工兵は鼻の頭を掻いた。
システム会社ってもっと
肩越しに振り返り
──枚数が多すぎるのだ。
補充用の紙は一パッケージ五百枚。だが自分の持ってきた書類はその倍近くある。単純に十部刷ろうと思ったら二十回は給紙しないとならない。
つぅっと
……足りるのか?
補充用紙は箱に詰められてコピー
そう思い
『あぁ? あんた、コピーくらい
うわぁ。
頭を抱えてコピー機に向き直る。
瞬間、カラープリンタが
「トナー切れ!?」
続けてモノクロプリンタが悲鳴。
「今度は用紙詰まり!?」
バサバサと紙の落ちる音。
「うわ! フィーダーから原稿がこぼれた!?」
補充用紙の包みを抱えおろおろしていると
「何やってるのよ、あんた!」
振り向くと、すぐ後ろに室見が立っていた。細い肩を怒らせ
「なんかやたらピーピー音がすると思って見に来たら……あ、ちょっと何してるのよ! 等倍なんかでコピーして。4アップ両面って言ったでしょ!?」
「ふぉー……あっぷ?」
間抜け面で首を
「ほら、こういう
見ると片面に元原稿の四ページが縮小され並べられている。裏側も同様。なるほどこれなら八ページを一枚に集約できる。
「ああ……ったくどうするのよ、こんなに出しちゃって。社長が見たら
「あ……あの、僕」
「こっちはいいから。カラーの方なんとかして。トナーの換え方、横のマニュアルにのってるから」
「は、はい」
「ちょっと
カモメがパーティションから身を乗り出している。別の電話に出ていたのか、片手に受話器を持ちもう片方の手で送話口を押えている。工兵はどちらを
『お世話になっております、私、O情報の
「え……あ、はい。えーと」
考えてみれば企業の電話応対など
「しょ、少々お待ちください」
どもりながら告げて受話器の口を押える。パーティションにのしかかるような姿勢で藤崎を見下ろした。一体どんな電話を受けていたのか、藤崎は
「ふ、藤崎さん。お電話ですけど」
工兵の呼びかけに藤崎が顔を向ける。
「……
やばい、忘れた。
言葉に詰まっていると、藤崎はのそのそと内線電話に手を伸ばした。
「いいよ、こっちで受ける。転送して」
「転送?」
「転送ボタンを押して、僕の内線番号──3692をダイヤル。
「は、はい!」
頭の中で藤崎の指示を反復、必死に指を動かす。……ええっと、なんだっけ。
ツー──ツー。
しまったああああ!
ダイヤルする前に受話器を置いちゃ
ぶつ切りだった。お客さんからの電話をぶつ切りしてしまった。
「はい、システムエンジニアリング部」
「はい、宅配便。……受け取りですね。今うかがいま──」
その時、再度外線のコール音。
『
なんてこった。
「ちょっと
「受付の宅配便って
───。
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