レイヤー1 【6/7】
「あ、
オフィスに戻るなり
藤崎が
工兵の格好は
もちろん少女の方も無事ではない。腹をおさえ
「ど、どうしたの
藤崎が動転した
少女は工兵を
「こいつがいきなり私の腹を
「蹴り……!?」
藤崎が目を
「え……ちょ、ちょっと待ってください、違うでしょ! やめてくださいよ、そんな言い方するの!」
「子供を産めない
「言ってませんよ! 何言い出してるんですか!」
「
「いや、ちょっと! そんなこと言うわけないでしょ。
キャスターの転がる
「踏んじゃったんだ」
「………、はい」
もっとも、気をつけたところで結果は同じかもしれない。何せ少女は本当に小さかった。立って並ぶと工兵の胸くらいしかない。身体を丸め段ボールの山に埋まったら
中学生……だよな?
だが、眼光だけはやたらに
藤崎は彼女のことをそう呼んだ。それではやはり彼女はここの社員なのか。いや、だが──
「なに見てんのよ」
前言
こんなおっかない目の子供はいない。完全にヤクザ者の目つきだった。
「ちょっと
見かねた様子でカモメが声を上げた。彼女は鼻の両
「どうせまた
「……カモメはちゃんと見つけてくれるでしょ」
少女は唇を
「カモメが起こしにきてくれればよかったのに」
「
「──新人?」
カモメはこくりとうなずき
「新入社員の
少女は
「けっ」
「……けっ!?」
「間違えた。
「どんな間違え方ですか!? 一文字も
しかも
「あー……えー。というわけで桜坂君、こちらが室見
「エンジニア……」
工兵はまじまじと少女を見つめた。ということは、もはや疑う余地もない。あのラボルームで大量の
彼女は
「……もういいですか? 顔合わせだけなら検証に戻りたいんですけど」
「……ん? ああ、いや。ちょっと待って」
藤崎が室見を呼び止める。
「室見さん、
手招きしながらミーティングスペースに歩いていく。
自分も──?
丸テーブルの手前に着席する。横に
「なんですか?」
室見が
「桜坂くんのOJT担当だけどね、室見さんにお
───。
「……は?」
室見が小首を
「私が、──このド新人の?」
「うん」
「OJT担当?」
なんだ、一体なんの話をしているんだ。
「あの……OJTってなんですか?」
藤崎は「ん?」と工兵を見た。説明不足に気づいたのか「ああ、ごめん」と頭を
「OJTってのはね、オン・ザ・ジョブ・トレーニング──つまり、
なるほど──とうなずきかけて凍りつく。……ちょっと待った。研修がない?
「え、あの。研修……ないんですか?」
「ないよ。中途も新卒も、みんなまとめて即戦力扱い」
「い、いや、でもそんな」
え、まさか体系だった研修って……このOJT?
「で、どうかな室見さん」
───。
いやいやいや!
彼は内心でかぶりを振った。
無理、絶対無理!
ラボルームの悪夢が
ケーブルを彼の首に巻きつけ、
なんとか
だが
「無理です」
彼女は
「藤崎さん、私がどんだけ仕事抱えてるか知ってるじゃないですか。
「別に手取り足取り教える必要はないんだよ。
「ぶんたん……?」
室見は疑わしげに工兵を
「OJTの意味も知らないド新人ですよ? 何が任せられるんですか。──ねぇ、あんた、サブネットマスクの計算って分かる? ツイストペアケーブルの
「………」
工兵は目を白黒させ首を振った。室見は「ほれみろ」と言わんばかりに鼻を鳴らした。
「渡せる仕事なんかありません。テプラ
「そこをまぁ、なんとか」
「なりません」
「頼むよ」
「頼まれても無理なものは無理です」
断ち切るように言って室見は顔を
「だいたいそんなに言うなら藤崎さんの仕事を手伝わせればいいじゃないですか。どうせ社長の
「うん……まぁ、それはそうなんだけどね」
藤崎はもごもごと口ごもった。なんだろう、微妙に言いづらいことでもあるのか。鼻の頭を
「ただまぁさ、室見さんもそろそろ
「……ん」
「今のままだと室見さんしか使う人いないから。社長のOK取りづらいんだよ。検証メンバーが増えればそれに応じて
「………」
「そう言えば、今月の予算
「………!?」
室見が猛烈な勢いで振り向く。大きな目がいっぱいに見開かれていた。
藤崎は心底無念そうに首を振った。
「あーあ、社長の説得、もう少しでうまくいくんだけどなぁ」
「……う……ぐっ」
苦しげな
なんというか、そんなに
………。
たっぷり十数秒は
「──私のやり方でいいんですか?」
ぞくりと
室見は暗い視線を正面に
「とりあえず二週間──
「二週間……?」
「だらだらOJTやっても時間の
なるほど、まぁそれは
「確か二週間以内なら、試用期間中でも首にできるんですよね?」
首……!?
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