レイヤー4 【4/7】
──三日後。
工兵は
……疲れた。
白っぽい太陽を
室見はすっかりへそを曲げていたので客先での一件を説明したのは
「
先を行く室見が
室見はボーダーシャツにジーンズ、スポーツバッグというラフな
──こっちはこっちで大変だった。
カモメに協力を
まったく……なんで自分がここまでやらなきゃいけないんだ。
しみじみとそう思う。
自分はもう辞めるつもりでいるのに。というか、この仕事が一段落したら今度こそ
本当に知らないぞ。自分が辞めたあと、彼女が外で客を殴ったりパンツを見せたりしていても。ていうか
工兵は
「そんなに急がなくても時間はありますよ。集合は十一時五十分ですよね?」
現在の時刻は十一時二十分。ゆっくり歩いても三十分には到着する。だが室見はかぶりを振った。
「一秒でも早くついて準備しておきたいのよ。特に今回はラック周りの状況も分からないわけだし。聞いてた情報と違うところがあれば早めに手順を修正しないと」
「……それはまぁ、そうかもですけど」
そこまで
だが室見は工兵の
──まぁ、
工兵は鼻の頭を
「──
物思いにふけっていると室見が声をかけてきた。顔を正面に向けたままつぶやく。
「
「土曜日?」
「藤崎さんに言われて休日出勤した件」
「……ああ」
「カモメに言われたんだけどさ。あんたが
口をつぐむ。なんだ……? 続く言葉を待っていると室見は首を振った。
「……なんでもない。まさかね、あんたがそんな……気利かせるわけないし」
「なんのことですか?」
「なんでもないって言ってるでしょ。ほら、急ぐわよ」
わけが分からない。
しばらく歩いていくと集合住宅の向こうに巨大な建物が見えてきた。七階建ての横長なビル。
「あ、あれですかね」
「なんか……意外に普通のオフィスビルみたいですね」
拍子抜けした気分だった。
データセンター──強力な電源設備と
「まぁ都心型のDCならこんなものよ。郊外型だと研究所みたいな施設もあるけど。そういうところはアクセスが悪いから」
メンテナンスの多いユーザーには嫌われるということか。
───。
データセンターのロビーは
受付で身分確認をすませ
殺風景な廊下を進み、いくつものゲートを抜ける。奥へ進むにつれ照明が弱くなり空気が冷え込んできた。エレベーターを降りるとすぐ正面に金属製の引き戸があった。
「あ、そう言えば伝え忘れたてたかも知れないけど
「? なんですか」
「この中、超寒いから」
「……は?」
ごう、と音をたて引き戸が開く。
「だから、防寒具は必ず持参すること」
「遅いよ! 本当!」
凍死させる気か! ていうか、何これ。マジで寒い! やばい、やばいから!
「処理能力の高い
「いや、冷静な解説とかいいですから! どうするんですか、これ。
「大げさねぇ、そこまで言うほど寒くないでしょ」
室見は
「はい、これ」
……え?
「会社で作業用に買った
「……わざわざ、持ってきてくれたんですか?」
どういう心境の変化だろう。裏に
………。
殴られた。
「ちょっと! あんた何してるのよ!? 変態!?」
「い、いや違います。室見さんが僕のために何かしてくれるなんて意外だったんで。なんかわけありの品なんじゃないかと思って」
室見は
「出がけに気づいて取ってきただけよ。大事な作業だから、途中で気分悪くなられても困るし」
室内は広々としていた。殺風景な空間に金属製の箱がびっしり並んでいる。白、黒、灰色、クリーム色。色合いこそバラバラだが形状はほとんど同じだ。高さ二メートル、
入って左手、
「さて──と」
気を取り直した
「
「はい」
ラック
「ありました。ホスト名、D17−RT01。繋がっているポートも情報通りです」
「LEDは? きちんと点灯している?」
「……
「OK、じゃあコンソールとるわよ」
室見からコンソールケーブルを受け取りルータに接続した。事前に
時刻を確認する。現在の時間は十一時三十五分。
十一時五十分になれば
「あれ? もう着いてたんですか」
…………、二つ?
一つは代替機だろう。だが、もう一つはなんだ?
「早く着いてたなら
担当者の言葉に工兵は目を丸くした。
「どういうことですか?」
室見の声は
「作業は十二時からですよね。それに向けて今、
「ちょっとね、事情が変わったんですよ」
「この
「な──」
「何考えてるんですか! 新機器の
「問題って、ただコンフィグを入れ替えるだけでしょう。しかも同じコンフィグを同一メーカーの機械に。トラブルなんて起こるわけないじゃないですか」
「何が起こるか分からないのが現場なんです! 理屈通りに話が動くなら私達エンジニアなんていりません!」
担当者は
「あー、はいはい。あなた方お得意のリスクとかバッファって
ほら、
担当者の指示で若い作業員がラックに取りつく。止める間もなかった。現行ルータはバックアップを取る間もなくコンソールケーブルを抜かれ取り外されてしまった。
台車から段ボール箱が降ろされ大きな方の包みに現行ルータが入れられる。かわりに小振りな箱から
「じゃあ、あとはスルガシステムさん、頼みますよ」
気の抜けた様子で
「室見さん……」
室見は
「……
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