八話
『コンコン!!』
迫りくる狂刃。俺に一般的な物理攻撃は通用しない。しかし、神定王の持つ能力で作られた神器たちであれば話は別だ。俺は急遽精霊契約をまとめる。
「ぎゃっ」
俺と彩花の周りに漂っていた担当神の神力は俺の神力と調和され精霊契約となる。その反動が俺と彩花に降り注ぐ。俺には問題ないが彩花には痛烈なものだったようだ。宙に浮いて遊んでいた彩花は石畳に打ち付けられる。さっきの声は彼女が落ちたときに上げたかわいい悲鳴だ。か、かわいい悲鳴だ。
さっきまでは彼女への反動をどうにかしたかったが今の俺にはそんな彼女に目を向ける暇もない。
『なぜだ!!』
俺は大人狐の状態だ。俺の持つ神力をフルに使って飛び掛かってくる神器を消していく。
「ぐるぁぁあああ!!」
俺は自分自身を奮い立たせるのように吠えて神定王を迎え撃つ。俺の体すべてを神の雷に置き換えた。これなら神定王の神力に撃ち負けない。
二つの力の衝突は余波を部屋中に巻き散らせる。神定王の持つ黒い剣がどういう能力を持つかわからない。俺は自身の前方に雷を多く纏っていた。彼の剣と俺の雷が打ち合わされ相殺される。鍔迫り合いのような状態だ。
これでは埒が明かない。俺は雷で檻を幾重も神定王の周りに作り出す。そして、メリチェイイの名を叫んだ。
『メリチェイイ! 俺たちを飛ばせ!』
メリチェイイは鎮守の森を守るための力を持っている。そのうちの一つが転移。クライン家の領地にいる者を遥か彼方に転移させることができる。
メリチェイイは俺の言葉の意味を即座に理解し行動に移す。神定王も俺たちが何かをしようとしているのを察して行動をとろうとするが俺が作った雷の檻が邪魔をする。一重であればすぐに壊されていたかもしれないが俺は何重もの檻を作っておいた。だから間に合わない。
「古の盟約により力を行使する」
メリチェイイの力が俺と神定王を包み込んだ。
-------
一瞬の視界の暗転の末、俺の目の前には雷の檻をすべて壊し後方へと跳び下がる神定王とその周囲にある埋め尽くす木々だった。
どうやらどこかの森に出たようだ。
目の前には相も変わらず漆黒の剣を降り下ろそうとしている神定王。俺はそんな神定王を眺めながら光速移動で後退する。あの石室の中では十分な空間を確保できていなかったために動き回れなかったがここは外だ。ここなら十分に移動できる。
「お前は……誰だ?」
気づけば俺は普通に声に出して誰何していた。ついさっきまで善の色だった魂が濁って見える。完全な悪ではないのが不思議だ。
「よ、余はししし神定おうう。すすsべっておをすべるおおう。そのしんかかかかかよこここええええ」
何やら完全におかしくなっている。壊れたおもちゃどころではない。何か悪霊が取りついた人形のようだ。神定王がこの状態ってことは担当神に操られているってことか? 俺の予想がこんなにも早く的中するなんて妙なフラグを立てた感じで嫌だな。この妙な口調は完全に神定王を操作できていないってことか。それとも、これが限界なのか。どちらにしてもここでこいつを消したほうが今後のためになりそうだ。
俺は自分の周りにより一層雷を貯める。神力で作られた俺の雷はまさに神の雷。今度からは神雷とでも呼ぼうか。あと大人狐の状態は神獣モードとかどうだろうか。
神定王と十分な間合いを確保できるようになったからか俺の思考は楽観に傾いていた。最悪ここら一帯を吹き飛ばすつもりで力を開放すればいい。
俺は先制攻撃を仕掛ける。光速移動で神定王から距離を取るように円を書きながら上空に移動して神定王の周囲十数メートルを神雷で吹き飛ばした。空気を伝った静電気が一瞬で放電し周囲に雷鳴を轟かせた。
土煙が立ち上がり辺りを埋め尽くす。視覚に頼った人間ならば動きを止めて周囲の確認をする状態。しかし、俺は精霊だ。周囲の把握なんて視覚に頼らずに感じられる。
放電の中心地に立っていた神定王は未だにそこに立っている。これぐらいで倒れないだろうとは頭の片隅にあった。外れてほしい予想だったが外れなかったようだ。俺の雷の出力は中級になって遥かに上昇している。しかし、俺自身が今どれほどの出力を出せるかわからない。先の攻撃は下級の時の最大出力は上回っているが全力でもない。加減が分からないからなんとなくで抑えて力を使ったのだ。
神雷の本質は万物の消滅だ。神ですら裁く神の雷の扱いを間違えれば世界にダメージを与えかねない。それは精霊として許容できないのだ。
突っ立ていた神定王が動く。のそりと動いているように感じる。辺りの粉塵が最初ほどではないが未だに視界を潰している。俺は精霊としての世界を捉える感覚で神定王の行動を見極めなければならない。のそりと動いては動きを止める神定王。これは先制攻撃が有効打になったってことでいいのかな。俺としては神定王を消すのもやむを得ないと思っているからこのまま追い打ちをかけようと思う。
追い打ちを掛けようと俺が雷を神定王に発するとそれを遮るように濁った精霊力が神定王を覆った。俺の雷とその精霊力が相殺される。神定王を覆っていた濁った精霊力が消滅した。最後痛みに身をひねるような動きをしながら深いな音を出していたけど気にしなくていいな。もしかしたら、分体のようなものを悪魔精霊が使って操っていたのかもしれない。悪魔精霊だけで担当神に力を与えられている神定王を操ることはできないと思うから悪魔精霊と担当神につながりがあるのは確定でいいな。
「おお。神獣よ。すまぬの」
周囲を隠していた粉塵は先の相殺で神定王を中心に吹き飛んでいた。神定王は土に膝をつけどうにか立ち上がろうとしているができないでいるようだ。
「余はどうやら操られていたようだ」
変わらない調子で神定王が言う。たしかに魂の濁ってた色は先の俺の雷が濁った黒い精霊力と相殺したと同時に消えている。しかし、今も神定王が操られていないとは言えない。クライン家に神定王が現れたときも魂の色は善色だったから。
「そうだな」
「すまぬな。余では抗うだけで精いっぱいだった」
よくも操られやがってと思わなくもないが、そもそも俺とリーゼを逃がすためにあの時神定王が助けてくれたから今の状況があるとも言える。俺は彼の頑張りを理解した。あののそのそした動きももしかしたら神定王の抵抗のおかげだったかもしれない。
「いや、構わないよ」
「そうか」
神定王は俺の返答を聞いて何か思ったのか微笑みながらようやく立ち上がった。
「ふう。この年でこれはつらい」
何とか立ち上がれた神定王だがそのまま歩くという行動ができるような状態ではない。地に足を付け踏ん張っていますというのが傍目でも一目瞭然だからだ。あの雷を食らって姿を保っているどころか立ち上がっているということ自体が世界内生命体としては異常なのだがな。
「神獣よ。余を殺してほしい」
神定王が俺の目を見てそう言った。俺としてはデメリットはない。リーゼの叔父である神定王がこの世界から消えようともリーゼを守れればどうでもよい。現状強敵になる確率の高い神定王はこの場で殺したほうがいい。まあ、俺も精霊だってことだな。
「分かった」
俺は神定王の頼みを承諾した。
「余を操っていたあの精霊はもともとリーゼロッテの体を欲していた。しかし、おぬしを見た途端狂ったようにおぬしを襲い掛かった。理由はわからぬが心せよ」
俺は神雷の準備と言わんばかりに周囲にプラズマを発する。
「ぬっ! またも余を操ろうとするか! 悪魔メぇ、いや、それモ先より強イ力を感ジル。神獣ヨ、ハヤクセヨ!!」
神定王は最後片言になりながらも俺に介錯を求める。
プローミュデック神定国の首都から遥か遠くの大森林。
その森林地帯に一筋の雷公が姿を現しては姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます