第7話
俺の密かな報告によって、クルトの企みは半分阻止された。
念話を使ってソフィにクルトたちの単独街遊び計画は街遊び計画(護衛付き)に変わって実行されることとなった。
そして、俺の懸念は全くの取り越し苦労であり、クルトの友人と遊ぶというイベントは何事もなく終わったのだった。
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リーゼの街遊びが順調に終わってから数か月。
七歳になる数か月前。
リーゼが学園に入学する時が来た。季節は春。
少し暖かくなってきた今日、リーゼはクルトとアンナの通う学園に同じように入学することとなった。
クライン家の屋敷、玄関。
「では、いってきます」
「はい。頑張ってくるのよ」
「いつでも戻ってきていいのだからな」
リーゼの別れのあいさつにリーゼ父、母が答えた。
二人とも正装をしている。それもそのはずリーゼが出発した後二人も学園に向けて移動するからだ。タキシードに蝶ネクタイをしたアンゼルム。オティーリエの蒼いドレスには胸元まで生地があって首元には小さな青色のリボンが付いていた。体の全体を隠しているにもかかわらず色気がにじみ出ているように感じるから不思議だ。だがそんなオティーリエもしっかりと決めていてまさに紳士といったアンゼルムの隣に立っているとまるで一枚の絵画のように見える。
この世界に来て何度も同じような光景を見ているがいまだに慣れないものだ。
学園の入学式は晩餐会のような形式で行われる。
今はちょうど陽が真上に来たぐらいだろうか。リーゼは今から荷物を持って寮へと向かい自室の準備をする。それを手伝うためにソフィも一緒に付いて行くことになっていた。
「ダメですよ。学園は全寮制なので決まった時以外は戻ってきてはいけません。貴方も甘やかさないでください」
「甘やかしてなんかはないぞ?」
「いえ、甘やかしています」
なにかと子供に甘いアンゼルムにオティーリエがそんなことを言っているがこれはこれまで何度も行われてきたことだ。
正確にはクルトとアンナが帰省し再び学園に向かうときには毎回同じようなやり取りをしている。
そんな二人を見てリーゼはクスリと笑う。
「ほら、早く行きなさい。遅れてしまいますよ」
二人を見ていたリーゼにオティーリエがそう言うとリーゼの横で荷物の入ったトランクを持っていたソフィがリーゼを急かした。
「では、お嬢様。参りましょう」
「ええ」
ここ最近のリーゼ、正確には街遊び計画(護衛付き)に行ってからのリーゼは未知に対しての好奇心がより一層強まったようで今まで以上に知識を蓄え得ていた。暇なときは本を読み教えに来ていた家庭教師にはとにかく質問する。そんなリーゼは前まで見せていた幼さが少しだけ顔を隠していた。言葉遣いも本を読んでいた影響かお嬢様らしくなってきた。いや、ずっとお嬢様で張ったのだが。
実は精霊術師としての訓練も少しは行っている。精霊術師は精霊に的確な指示を出す必要があるので、主にその訓練だが俺としてはようやく精霊として力を使うことが増えてきた。
ソフィと一緒に馬車に乗る二人。この馬車もやはり馬の形をした乗り物だ。
街遊び計画(護衛付き)の時に初めて乗ったこの馬車だが、以外にも振動は少なく中はとても快適だ。
正方形に近い長方形の車内は一種の部屋のようになっている。ソファなんかも置かれていてとても寛げる空間になっていた。
速さも実際の馬と同じ程度は出ると聞いているが街の中ではゆっくりだ。とてもゆっくりだ。
クライン家の広い広い敷地を出ると石畳の大きな道に出た。
街は全体的に石造りになっている。道路は石張り。家は煉瓦製。ガラス張りの窓もある。他もぱっと見は俺の知る中世、近代ヨーロッパのような外観だ。いや、現代ヨーロッパに通じる部分もあるかもしれない。だが、それが外見だけで機能自体が同じではないと俺は知っている。
当然地震なんてものが来ても滅多なことがない限り倒れない。
いざというときに城を壁として使えるようにと魔法が幾重にもかけられているのだ。城壁並みに掛けられた魔法があるために家ごと暗殺するなんてことは不可能なレベルだ。
石畳でできている道は俺の知る馬車であればガタガタと車体が跳ねてお尻が痛いなんて光景が待っていただろうが生憎馬車は馬車もものが全く違う。
この馬型馬車は馬と同じように道を踏みしめるので全然気にならない。こういったことも元の世界の中世や近代といったヨーロッパをほうふつとさせる一因なのだと思う。
そんなことを考えている間にも馬車は進む。
リーゼはソフィに友達できるかななんて不安を漏らしている。俺としてはクライン家のご令嬢に近づきたくない人はいないと思ってるので、何かと周りがうるさくなるんだろうなと軽く覚悟している。
一時間ほど走り大きな門が見えてきた。学園の門だ。
プロミューデック神定国の首都にある学園。これも首都と同様に学園としか呼ばれていない。
この学園は全寮制になっている。そのため、遠くに領地を持つ貴族もほとんどがこの学園へと進学させる。
唯一の首都にある学園は当然のようにこの国の最先端を研究している場所だ。そのため、貴族でなくても大陸中から人がこの学園を目指してくる。
リーゼが通うのは七歳から十二歳までの普通学園と十二歳から十五歳までの貴族学園だ。
貴族学園といっては言えるが平民も通うことはできる。呼び方はに昔の名残だ。今では普通、貴族共に学園とひとくくりに読んでいる人も多く、その場合は普通院、貴族院と言い分けているようだ。
今、この国にいる多くの研究者は地元の学園や教育施設を卒業した後にこその貴族学園に入学している。そこで、さらに詳しい研究に触れ、自身の研究対象を定めるのだ。
普通学園と貴族学園。共に午前に必須科目の授業が行われ午後は自由となっている。午後にはより専門的な内容が授業が多く、自分の受けたい授業を受けていく形式だ。
クルトやアンナの情報によると、そんな午後の時間をお茶会や親睦会などという交流会をする時間として費やしている者も少なからずいるとのことだ。
リーゼの四歳上のクルトは今年十一歳。今年から貴族院に進学することになっている。同じように貴族院からは研究者を目指す人たちが入ってくるから大変だと愚痴を溢しているのをリーゼの頭の上から聞いていた。
ここが今日からリーゼの生活の中心になる。
これからはリーゼの精霊として力をふるうことも多くなるだろう。実はすでに中級精霊に昇格するために必要な神力も順調に集まっている。リーゼとの契約が終わるころには間違いなく中級に昇格できていると予想している。これはリーゼと精霊術の訓練をし始めてから確信したことだ。これからはいままで以上に魔力を得ることができる。なんせ精霊術を使うためには精霊に魔力をささげないといけないのだ。
俺の胸は必然と高鳴っていた。
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