四話
冒険者機構の建物は入れば正面に受付があって入り口すぐの左右から階段を登って二階にある食事処に移動することができる。三階以降には職員の仕事スペースだけでなく冒険者が使える会議室や貸金庫なんかもある。地下には訓練用のスペースもある。
受付には役割があってそれに従って冒険者は列を作る。俺たちはどれだろう。呼び出された訳だが。
「あそこで聞くか」
メリチェイイが誰も列を作っていない受付に向かって歩き出す。その受付は素材買取と書かれているが誰も並んでいない。
受付には受付嬢が座っている。受付の人ははみんな容姿が整っている。種族はバラバラで角が生えている人もいれば耳が生えている人もいる。彼女は何やら書類仕事をしていた様子だが向かってくるメリチェイイの存在を見つけると笑顔で俺たちの方を向いた。
「おはようございます。買取でよろしいですか?」
「いや、買取ではない」
買取ではないのに買取の受付に来たメリチェイイたちに受付嬢は少し警戒するが話を聞かなければならないと用件を聞き出そうとする。
「では、ご用件はなんでしょうか?」
「ギルドに呼ばれていると宿で聞いてな。確認してもらえるか?」
正確には冒険者機構だが未だにギルドと呼ぶ人は多い。大きな街に済まない種族ほど多いなんて言われているみたいだ。それに長命種には実際に冒険者ギルドだった頃に生きていた人もいるためギルドと呼ばれても受付嬢は訂正はしなかった。
「わかりました。今確認します。冒険者証の提示をお願いします」
メリチェイイは腰のウエストポーチから冒険者証を取り出して彩花を見る。キョロキョロと周囲を落ち着きなく見渡している。ここにくるのもすでに慣れたもののはずだが仕方ないとも言える。キョロキョロ見渡しているように見えるが彩花は壁に貼られた依頼を確認していたのだ。正確には依頼を選んでいる冒険者たちの様子もだ。
冒険者機構の一階は正面に受付でその左右の壁に依頼がランク毎に張り出されている。戦闘ランク毎に分けられていて、高い実務ランクが必要な依頼を除いて実務ランクは関係なく並べられている。それを選んでいる冒険者を観察すればこのエスポラ本部を使っている冒険者の質が簡単にだけど分かるのだ。メリチェイイ流サバイバル術も習っている彩花は常に周囲を確認する癖を手に入れたが、まだ情報収集の速さが遅いため何度も何度も確認する。そのためか側から見ればキョロキョロと落ち着きなく周囲を見渡す不審な女の子になってしまった。俺は左右に振られるリーゼの頭の上でも余裕で寝られるから今は身を丸めて目をつむっている。
精霊の感覚は視覚に頼ることなく周囲を確認できるから目をつむっていても支障はない。あ、今、彩花がメリチェイイに肩を叩かれた。
「サイカ、冒険者証を出せ」
「あ、はい!」
周囲の確認に集中していた彩花は受付でのやり取りは聞き逃していたみたいだ。左腕に着けている冒険者証を受付嬢に向けて差し出す。それを受付にある四角い箱に通した。各受付に置かれている箱には中心を腕が貫通できる程度の穴が空いている。ここに腕ごと通すことで冒険者証を読み込むことができる。この魔道具は冒険者証の読み取りができるモデルだが、金銭の授受のためだけの魔道具はまた別の形で存在する。
ちなみに、腕が異様に太くて穴に通せない場合はメリチェイイのように冒険者証を外して魔道具に通せばいい。
腕を通した魔道具の縁が青く点滅したところでもう抜いていいと言われる。
冒険者証は腕輪型の魔道具で身分証の代わりになる。冒険者証には、その冒険者の基本情報とこれまでの活動が保存されている。これを持っていればたとえ大陸の端から端まで移動したとしても冒険者機構の中では同じ待遇を受けることができる。
また冒険者証を含む身分証では金銭のやり取りができる。この世界では身分証がデビットカードのような扱いだ。一応お金が預けられている訳だが、このシステムが普及してすでに二百年弱経っている今、現金での支払いはほとんど行われない。このシステムは戸籍と紐っけられていて、誕生と同時に使えるようになっているから口座開設の手間もかからない。
この街に来た時の俺たちのような身分証を持たない人や身分証を用いた金銭の受け渡しをしたくない人たちの間にはまだ現金を使う人も多い。戸籍と連動しているから戸籍謄本を見れば金の流れがすべて分かる仕組みになっているからだ。
メリチェイイもクライン家で預けられた現金を冒険者機構に登録して冒険者証を渡された時に半分ほど預金とした。残った半分はいつか使えるかもしれないから。この世界でアイテムボックスのような個人の魔法による次元収納はすでに廃れていて過去の存在となっているがメリチェイイはそれを使える。メリチェイイには現金を重量を気にせずに持っておくことができる訳だ。
冒険者証の情報を確認して受付にある魔道具でデータを確認している受付嬢。この光景を見たときは俺も驚いた。パソコンのような魔道具はこの世界に存在しないが、魔道具で確認した情報を可視化する魔道具は存在する。魔道具から魔道具へのデータのやり取りはすでにできるという訳だ。
学園でも戦闘系の授業の時や試験の時に会場の映像を待機中の生徒にも見えるように上空に拡大して投射していたことをすっかり忘れていた。この技術を使えば情報の可視化はそう難しくないのかもしれないな。
情報が確認できたのか受付嬢はメリチェイイに冒険者証を返す。
「確認が取れました。所長がお呼びのようですね。こちらへどうぞ」
受付嬢は受付の台を一部上げて中へと二人を促す。
その光景に周囲の冒険者たちが俺たちに注目する。
俺が冒険者機構で情報収集をしていたときにこの冒険者機構エスポラ本部は何度か探索した。造りとして、一般に冒険者が使えるスペースは一階入り口付近にある階段から二階の食事処へ行き、そこから上階に登ってえけるようになっている。地下への階段は食事処へ登る階段の下にある。たから、受付の奥に通されることは滅多にない。なぜなら受付の奥から登ることのできるスペースはすべて職員の仕事場だからだ。
では、滅多にないことが起こるとき。その一つが冒険者機構の所長に呼ばれたとき。所長の部屋に呼ばれたときは受付の奥こら上階へと向かう。
それを知っているからこそメリチェイイと彩花に視線が集まった。あいつらは所長に呼ばれるほどの冒険者なのかと。
俺たちの話は冒険者たちの間では噂になっていた。なにせ初心者支援を断った上で査定されて戦闘ランクCを獲得した冒険者だ。俺たちの力は伝わってないようだけど即戦力であることに違いはない。さらに二人とも美人だ。噂にならないわけがない。俺たちに声を掛けようとする冒険者も多い。大抵はメリチェイイのひと睨みで退散するけどな。
「どうぞこちらに」
受付嬢の案内で俺たちは受付奥へと進んだ。
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