三話


 そのあくる日。

 冒険者機構でエスポラ周辺の探索および見回りの依頼を受けた俺たちは冒険者機構の人間を引き連れて森の中を歩いた。初心者支援を断ったことで付けられた監視係の人間だ。それなりに力はあるということで気にせず行動してくれと言っていた。もっともメリチェイイとの話し合いでついてきた人の力量関係なく動くつもりだった。監視役は人族の眼鏡をかけた人間だ。ある程度力があるって言うから元冒険者とかなのだろうか。


 昼時に偶然見つけた大きな鳥の魔物をメリチェイイの精霊術で仕留めて昼食にした。道中に生えていた草木の中から使えるものを彩花に教えながら集めていたためいい感じに味付けが出来たらしい。俺は食べてないけど彩花がおいしそうに食べていた。

 その後はメリチェイイが探索で見つけたゴブリンを彩花の指示で俺が殺した。もっとも彩花がそれっぽく「心臓と脳を破壊して」って言ったのを俺が調節して発動しただけだ。魔力はもちろん後払い。良心的な対価で請け負った。

 俺に指示を出す彩花は昨日よりも顔色が良かったが心ここに在らずという印象も少し持った。しかし、真剣にやっていないわけではなかったので、それが冒険者機構の人間に伝わることはなく無事に依頼を終えたのだった。


 その日の依頼の報告を受けた冒険者機構はメリチェイイと彩花に戦闘ランクCを渡したのだった。

 メリチェイイはもちろん俺が俺の意志で使った精霊術はそんじょそこらの精霊術師が扱えるレベルをはるかに上回っていたからな。当然って言えば当然だ。メリチェイイも墓守としての力ともともと兼ね備えていた自身の力を考えれば簡単な精霊術は呼吸をするのと同じ程度こと。熟練度というステータスがあるならば間違いなくカンストしているはずだ。




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 冒険者機構で依頼を受けてそれをこなしながら彩花の訓練をする日々が続くこと二週間ほど。現状、俺たちは焦る必要が無いと考えていた。

 理由は簡単だ。まずリーゼロッテを探す動きが見られないこと。そして、俺たちからリーゼを奪う方法も悪魔精霊自身が手を下す必要があること。たから、俺たちはその二つを踏まえて今は彩花の力を磨くことを続けていた。

 俺とメリチェイイが本気で守れば神定王レベルを持ち出してこない限り彩花を奪うことはできないはずだ。入念に罠を張るにしてもまだ準備が整うほど時は経っていない。


 そんな俺たちは冒険者機構の本部から呼び出しを受けていた。この場合の本部は首都にある冒険者機構の本部ではなく、エスポラに存在するいくつかの冒険者機構支部のうちのエスポラでの本部を指している。冒険者機構エスポラ本部ってわけだ。


 朝早くに宿泊している宿まで冒険者機構の人間がやってきて言付けをしていったみたいだ。朝起きて朝食を食べるために下に降りたときに宿のおかみさんから伝えられた。呼ばれた俺たちは急ぐこともなく食堂で朝食を食べて冒険者機構エスポラ本部への道を歩いていた。


「ねえ、師匠。こんなにゆっくりでいいの?」


 彩花はエスポラに着いてからメリチェイイのことを師匠と呼んでいた。そもそも設定上メリチェイイの弟子な訳だからおかしなことでは無い。実際にもメリチェイイからサバイバル方法に槍術と精霊術と色々なことを学んでいるから間違いではない。

 宿から冒険者機構の本部まではそこそこ長さがある。冒険者都市エスポラはまがいなりにも国の王都だった都市だ。神定国にはそういう都市が複数ある。侯爵領はすべてがそれで、侯爵領はであるエスポラも当てはまるわけだ。侯爵領はそのすべてにおいて他領主とは比べられないレベルで自治権が認められている。だから侯爵領は他の都市と比べると異色な都市が多い。クライン家も侯爵であり、その領土であるクライン邸と生魂の森樹がある鎮守の森は治外法権。勝手に立ち入っただけで処刑にすることが出来るとされている。実際に過去にクライン侯爵領に入ったからと処されたことがある。


 冒険者機構エスポラ本部は都市の中央にある大きな城の隣に大きくそびえ立っている。何階建てだろう。あの城はおそらくエスポラが王都だった頃から存在するものだろう。当時はさぞ大きな城であってその威厳を街中に振りまいていただろう。しかし、技術の進歩と共に建物の高層化が進んで今ではそこまで大きな構造物ではなくなってしまった。魔術を根幹にして進歩を続けたこの世界でももとの世界と同じような技術の進歩が見られるのは面白いことだ。魔術という人由来の技術自体が昔から存在したために基本となる生活レベルは変わっていない部分もあるけど俺が居た頃の日本よりも優れている部分も多くある。


 まだ朝である街中は朝食目当ての客を呼び込む声がいたるところで溢れている。

 屋台で美味しそうな匂いを漂わせているおっちゃんに少しふくよかなおばちゃんと可愛らしい娘が自分たちの食堂にやってきた常連に元気よく挨拶をしている。活気が溢れる街並みだ。中世の街並みのような感じを受けなくも無い街並みだが地面には規則正しく石畳が引かれていてゴミもない。エスポラ滞在中に何度もゴミ拾いのゴーレムを見かけた。その様はもはや近未来的清掃ロボットと言っても過言ではなく、それを初めて見た彩花も少しテンションを上げて俺にあれはなにかと聞いてきていた。とりあえず俺ば『ルンパだよ』と答えたけどあまり笑ってはくれなかった。

 この世界の馬車やクライン邸の衣裳部屋に居たような魔術や魔道具を使って造られたロボットは多く存在している。この世界では自動人形│《オートマタ》と呼ばれている。馬車単体でいえばゴーレムだな。あの運転用の上半身だけのロボットは自動人形│《オートマタ》だ。


「別に構わない。急ぎならそう伝えてくるはずだ」


 彩花の問いにメリチェイイは淡々と答える。メリチェイイも一般人とは言えないためにそれが正しいとは言えないが急ぐ必要も無いから急かすことはしない。情緒溢れる街を楽しみながら進んで行く。俺の下では彩花が少し納得できていなさそうだったけどね。俺としては満足だよ。無事に上司神の試練を完遂した後はリーゼと一緒に世界を回ってみるのもいいかもしれないな。そのためにも今は頑張るしかないな。


 俺は体の中に保管しているリーゼの魂の存在を確認しながらそんなことを思っていた。

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