九話


「待て!」


 受付の人っぽい人、サリアが投影される内容を替えて、説明を開始しようとするとそれを止めるものが現れる。


「なんでしょうか? 今の時点で既に質問でもありますか?」

「ああ! なんでそこの女らがその席に座ってるんだ? そこはこの討伐隊の代表となるパーティーが座る場所のはずだ!」


 武装ゴーレム使いの男が一人立ち上がって俺たちを指差す。


「さあ。別に席のことなどどうでもいいです。続けます」


 男の抗議を往なして先を進めようとする。しかし、それでは納得がいかない男たち。


「おい! どう言うことだ! 俺たちが!」


 男たちが尚もがなりたてる。聞けば、今俺たちが座っている席は討伐作戦のリーダーが座る席らしい。この一番前の席がいわば『上座』って考えればいいか。いや、違うか。

この席に座った時に驚いていた人がいたのを思い出すが、誰も注意することはなかった。前に立つ冒険者機構の二人が着席を促した時も各々が席に着いていたけど座席が決められていたようには見えなかった。先に座った人からいくつか席を空けて座る。そんな様子があった。


「この席にそんな意味があるのか。変わった方がいいか?」


メリチェイイがサリアに聞く。聞かれたサリアは首を左右に振って答える。


「その必要はありません。座る席にこれといった意味はありませんので」


 意味ないんかい。

 そう思ってサリアの方を見れば、となりにいるベテラン冒険者風職員の顔が目に入る。彼の格好から察するに彼は元冒険者だろう。元ベテラン冒険者風職員は苦笑いを浮かべている。俺も昔はそう思ってたんだよな的な苦笑いだろうか。それとも、冒険者の中では決められた暗黙の了解があるんだけどな的な苦笑いだろうか。


 冒険者機構の人間であるサリアが席を移らなくていいと言うのだから移る必要はないな。メリチェイイも返答を聞いて、抗議をしている男に目を向けた。


「そう言うことだ。別に代表なんてものに興味はない。席で決めるわけではないならばこの話はこれで終わりだ」


 一方的な言い方メリチェイイの年齢や力を考えれば当たり前なのだが、男は軽くあしらわれたと思ったのか、さらに、声を荒げた。


「そもそもそいつらは最近冒険者になった奴らだろう! お荷物はごめんだ!」

「問題ありません。ここにいるのは我々が選んだ冒険者のみです。お荷物になることはないでしょう。これは冒険者機構の選択です」


 サリアにそこまで言われると男も返す言葉がなかったようだ。俺たちの実力を知らないで外見から適当を言っている自覚はあるのだろう。俺たちのことが他の冒険者の噂になるようなことはこれまで一度もなかった。いや、メリチェイイと彩花の容姿が噂になったことはあったかも知れない。しかし、その実力が噂になったことはなかった。別におれつえーとかしてないからね。

 男は荒れた様子でドサリと乱暴に椅子に座って腕を組んだ。


「では、説明を始めます」


 出発は今日の正午に移動を始めて、アーマードキングベアーの生息域に接近。生息域から気づかれない程度に離れた場所で一夜待機して翌日の朝には戦い始める。

 アーマードキングベアーがいるのはエスポラを出てすぐの森。俺たちもここ数日で何度も通った森の奥。冒険者の足であれば五、六時間も歩けば野営地点にへ着く計算だ。

 アーマードキングベアー戦は基本パーティー毎に前衛と後衛を分けて数で押す作戦だ。後衛のパーティーが俺たちしかいないみたいだけど。他のパーティーで後衛を専門としている人も加えるようだ。


 報告によると、今回のアーマードキングベアーは既に胸と右腕にアーマーが見受けられたそうだ。胸と両腕はアーマーがあるものとして戦闘するようにと説明された。右腕が既にアーマー化されているならば、次は左腕だろうと予測したみたいだ。


 アーマードキングベアーに限らず、魔物が進化によって武装化することはある。しかし、その過程はさまざまで同じとされている魔物でも過程が異なると調べられている。

 どこを武装化するは、その個体の判断で行うからだそうだ。本能と言い換えてもいい。


 今回のアーマードキングベアーは胸、すなわち、心臓を守り、次に攻撃に使う腕を強化していると予想したようだ。まだ右腕だけなのはアーマー化している最中だと考えての作戦だ。

 アーマードキングベアーはアーマーが着いていても、元はキングベアーの延長。進化によって個体の身体能力も上がってはいるが劇的な変化が起こるものではない。今回の作戦はこれらを踏まえた上で、とりあえず首を落とせばいいんじゃねという結論に至ったみたい。

 心臓がアーマーで守られていて狙えないから空いている首を狙うと言うがそこまで簡単に行くのだろうか。説明を聞く限りでは少し不安だが、首が落とせなくても勝機はある。アーマーの無い部分を攻撃すれば体内を傷つけられるから負けることはないだろう。全身にアーマーが着いていたら他の手を考えないといけないけど、今回は必要ない。

 一応と初めに言いつつ、左腕以外にアーマー化している前提の作戦も建てられていた。作戦と言っても、左腕の時とほとんど変わらない。

 今回の討伐作戦は、アーマードキングベアーの討伐が第一目標。いるかもしれない取り巻き、キングベアーやベアーの群れの殲滅が第二目標だ。しかし、戦闘中に限り優先順位は逆になる。弱い取り巻きから倒してアーマードキングベアーと一対他の状態を作り出すことが第一段階。そこからアーマードキングベアーを包囲して抑え込むのが第二段階だ。ここまでは変わらない。

 仮に胸と腕以外の部位がアーマー化していた時はとどめの入れ方を変えると説明されたが、詳しい内容は離さず臨機応変に挑むとなった。元ベテラン冒険者風職員改め、ペサールがその辺の指揮を執ることになった。作戦全体の士気もペサールが取るそうだ。


 アーマードキングベアーはより長く生きた個体ほどアーマー化が進む。同じ部位でも出来たばかりのアーマーよりも老成したアーマードキングベアーの方がより強固でより破壊力のあるアーマーになるのだそうだ。調べた資料に書いてあった。


 作戦に使われる物資のうち、食料や野営に必要なものは冒険者機構が揃えてくれるそうだ。俺たちと一緒に運ぶ。サリアと一緒に入ってきたペサールが運ぶと言うけど結構な荷物になると思うのだから。アイテムボックスでもあるのだろうか。それとも、冒険者機構の職員が何人か随行するのだろうか。


 メリチェイイの使える個人の魔法ではなく、魔道具としてのアイテムボックスは今も広く存在する。収納量が多いものほど希少であるが、収納量がそこそこのものはそれなりの価格で流通している。今回の物資も三日分ほどの食事と野営の道具とすればそこまで大きいアイテムボックスはいらない。比較的安いもので十分だ。比較的安いと言ってもそこらへんの一般人から見れば大金だが。冒険者機構という組織からすれば複数所持していてもなんら不自然はない。


 食料も野営道具も簡単な物しか用意しないと説明された。そのうえで必要ないパーティーは事前に知らせて置くようにとも言われた。浮いた分の経費はすこしその冒険者の報酬に上乗せされるそうだ。

 俺たちは必要ないけど断ることはない。メリチェイイの次元収納を周囲にさらす必要がないからだ。メリチェイイのウエストポーチをアイテムボックスだと言い張ってもいいが、それも目立ちそうだ。アイテムボックスはただの冒険者が持つにはいささか高価な代物だからな。


 説明がすべて終わると出発まで数時間の空きが出来た。一度解散してその時間の間に各自必要な物を調達するようにと最後に言って解散になった。集合場所はこの建物の一階。この冒険者機構の建物から街をゆっくりと歩きながら町を出るというそうだ。なんか意味があるのだろう。

 各々が部屋を出ていく中、どこからか睨むような視線を感じたが俺は無視。メリチェイイも無視。彩花は気づかず。堂々と部屋を出た。











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何れ神成る雷な神稲荷(カミナリの精霊 連載版) 星井扇子 @sensehoshii

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