3-3rd. ED 滅炎の墓標
Dual wield(デュアル・ウィールド)。両手に刀剣を持った二刀流や二刀剣法、もしくは銃を持った二丁拳銃とも呼ばれ、漫画やアニメ、小説、映画、ゲームなどでよく見られる戦闘スタイルだ。
豪快に、または華麗に、攻撃は最大の防御ともいうべき、その戦いに一度は憧れた者も多いが、実際は " ほぼ不可能 " という現実に尽きる。
剣にせよ銃にせよ、威力や命中精度は粗雑となることは間違いない。技術として確立するには、相当な鍛練と臨機応変さが求められるものだ。人間、二つの物を同時に扱うというのは並大抵の技術ではない。
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1【ARIMI – UTANI】
字数:28,063 整合率:99% (R)ize Novel release
2【MASATOSHI – NOGANE】
字数:14,410 整合率:96% (R)ize Novel release
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何事もなく順調に思えた、詩仁とのノベライズ、1St.ED。
アナライズを前に映し出された結果にトシと天馬は固唾と息を飲む。
「に、二万八千文字だって……!」
ほぼ完璧な整合率をもってトシの倍の文字数をたたき出した詩仁のライズ・ノベルにトシは読む前からプレッシャーを覚える。
『で、出ました。詩仁選手の得意とする執筆、デュアル・ライズです! 僅か1EDで正確かつ充実した中編を仕上げるこの速筆でノベライザーを圧倒しております!』
【
「まさか、辞書機能やコピペを……でもそれは反則だし」
「いや、あれはホログラム・マイクだ」
天馬の言葉にトシは椅子に鎮座する詩仁を注視する。水平に配置されているため分かりづらいが、名刺サイズのホログラムが口許に浮いているのが確認できた。
─
二種類の入力デバイスを用いて正確に文章を構成する高等技術である。
「あれで音声入力もしていたのか。確かにそれなら倍以上も……」
「単純に攻撃力2倍というわけにはいかんぞ。使いこなすとなると相当な訓練と発声技術が必要だ」
天馬も過去にホログラム・マイクを試したことがあるが、格闘シーンの描写で『まわしげり』と音声入力した際に『まわし下痢』と変換された痛い経験がある。
『1st.ED:ジャッジ・ライズ……先攻、
『ライズ・ノベル【ゆるデス】』
STIに変換された詩仁のライズ・ノベルがトシに転送されるが異変は特に起きない。トシと天馬は
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【ゆるデス】 ジャンル:アイドル・アポカリプス
わたし、
そんな私たちが連れて来られたのは、もうすぐ開園されるスペクタルランド『ラッキーヘブン・ワールド』え。今からここで卒業オーディション!? ゲームやアトラクションの結果でみんなの進路がきまっちゃう? そんなの聞いてないよ~! 親友の小鳥ちゃんと
【BM:ブックマーク 1ポイント】
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結果は、評価ポイントの中で一番低い、BM:ブックマークだった。
「な、なんだ歌仁のやつ、日常萌えラノべ……?」
意外なジャンルに天馬は戸惑う。トシも同様の感想を抱いていたのが、冷たい空気が肺へと入り込み、それが心臓に絡みつくような悪寒が走った。
『1st.ED:ジャッジ・ライズ……後攻、野鐘 昇利』
『ライズ・ノベル【
なんだ、この違和感。女の子たちがそれぞれの想いを胸に学園生活を振り返りながら、時に笑い、時に色気演出を交えてアトラクションに興じているだけなのに……。
トシは自分のジャッジ・ライズの間も、詩仁のライズ・ノベルが頭から離れなかった。無感情どころか生気に満ちた物語だけにその疑念が消化されない。
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【戦業主斧の異世界日帰りジャーニー】 ジャンル:異世界ファンタジー
「早くしないと特売が終わっちゃうじゃない!」 巨大な鳥神獣の亡骸を頂きに今日も彼女の叫びが天蓋に響き渡る。新婚ほやほやの専業主婦、
異世界トクバイでは最強ステータスで無双となるも、楽しみな現世での特売時間は刻一刻と過ぎていく。伝説の戦斧を両手に、エコバックを肩に、そしてトクバイの運命の三つを背負い、今日も彼女は戦業主斧としてフルスイングで駆け抜ける!
【NR:ノーリアクション 0ポイント】
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トシが生み出した、日常と異世界を繋ぐドタバタファンタジーは、無情にも何の反応もなかったことを示す無得点となる。
『野鐘選手、得点ならず!対して詩仁選手はこれで4試合、14ED連続で無失点です!スーパールーキーのフレッシュな発想と物語をもってしもダメなのでしょうか!?』
「詩仁さん……あの子には本当に感情がないのか?」
トシは彼女の噂どおりの反応に今度は肌で冷たいものを感じる。
誰にでも趣向、知識、少なからず偏見はある。全員が楽しめる作品などはこの世に存在しない。だが、どんな物語にも無関心な者、特にそれを生み出すノベライザーでそのような者が存在することがトシには信じられなかった。
「三回戦ではエクセレントだった、日帰りジャーニーが無反応とはな」
天馬はトシの前戦、そして練習ノベライズでこのライズ・ノベルを読んでいた。ジャンルはともかく、文体のテンポの良さと万人受けする比喩表現は、小さな感心くらいは持てる巧さはあったはずだ。
1st.ED
【NOGANE:0― 1:UTANI】
『それでは、2nd.EDに入ります!両選手とも続筆の意思表示をお願いします』
ノベライズシップには反するが、僅かながら期待していた、これまで詩仁が戦ってきたノベライザー全員が素人以下だったという可能性は塵一つなく消えた。
「ネクスト・ライズ!」
「ネクスト……ライズ」
トシと詩仁は正反対のトーンで続筆を宣言する。
「だけど安心した。詩仁さんも人間なんだって」
「どうしてそう思った?」
「整合率が99%だったから」
「……その1%に付け入る策はあるのか?」
「それは、これから探す」
カウントダウンが進むなか、トシは1st.EDでの唯一の
『ゴォオオオオ・ライズ!!』
2nd.EDの合図がカタパルトとなったトシの高速タイピング。力強くも深すぎないキーボードのストローク音はトシの状態がグリーンであることを表す。再起動したジークが前衛に立ち大剣を構える。
目覚めた詩仁は、浮き世離れした色を失いし世界の中で虚ろな瞳をまっすぐ文書画面に向けて、指と唇の踊りを見せる。
「行け、ジーク!」
トシが先手に打って出た。風貌に反してこれまで防御主体だったソウル・ライドがライジング・ノベライズ初の攻めを見せる。本来、火の粉が降りかからない限り、自ら相手の執筆を妨害することを好まないトシだったが、詩仁の筆量を少しでも摘む作戦に出た。
ジークは片手で持った大剣を振りかざしながら疾走、そして跳躍する。
詩仁のライズ・フィールドを目掛けて一刀両断となる一撃が当たる寸前、ジークは横殴りの衝撃を受けてのL字の軌道を見せて描き飛ばされる。
何が起きた……!?
反射的に倒れたジークに目がいき、トシのタイピングが一瞬止まる。
「くっ……やはり、ただの飾りじゃなかったようだな……!」
太くも鋭利に拡散、枝分かれした木の根を見た天馬が声をあげる。
「邪魔しないで……」
詩仁が珍しく自ら口を開く。静かに冷淡に自分の世界を侵触する者を排除する合図となる。薄墨色の天を砕き、鋼色の土を割り、灰色の空間を裂いて、あらゆる方向から意思と個性を持つ樹根が分隊となりジークを襲い絡めとる。
ガァアアアアアアアアア!
神教を汚す罪部深き悪魔か、生け贄か、場面中央まで引きずられたジークはノベライズの見世物として無様に晒される。
「う、うわっ!」
無念だがジークはひとまず放置して執筆に集中しようとしたトシだったが、自分の両腕、両足に無数の枝が蛇の如く巻き付いていることに気付き思わず不快な声を漏らす。
これが、─
ソウル・ライドは相手の視界、文書画面、ホログラム・キーボードを直接塞ぐことは禁じられているが、この攻撃はレギュレーション上に問題はない。
トシはうごめく枝を払いのける。当然質量を持たないホログラムなので容易にすり抜けるが、手の位置を戻すとまたそれが当て嵌まり脈動する。不気味極まりない。
「こうなったら仕方がない……!」
「あれは……またあれをやるのか、トシ!」
─
目を閉じて視覚情報のすべてを遮断して、相手のソウル・ライドを無効化するトシの筆刷技である。
打ち間違えたか分からなくなるリスクを背負うが、これならば詩仁がいくらソウル・ライドで攻撃を仕掛けようと……
〽 Lalalala - Ru - rururu-la …… Rara - ru - ruru - la ……
La - la - Ruru - ru - la …… Ra - ra - rurururu - la ……
聞き慣れた歌声に条件反射で動きが止まる。
口許で印を結ぶようにホログラム・マイクを閉じた詩仁は、優しくも悲愴が香る独唱を始めた。ジークを見つめながら口ずさむその歌は鎮魂歌かそれとも葬送曲か。トシは歌声で執筆に集中できない。
胸の奥から昇る苦い熱を帯びた感情がトシの執筆をますます鈍らせる。それから僅かな間を置いて……大樹に身を縛られた灼熱の豪剣士は消滅した。それはつまり、トシのノベライズ・ハイから抜け落ちたことを意味していた。
「トシのタイピングが弱々しくなった。このまま一気に畳み掛けられたらマズイぞ……」
まだ開始から数分足らずの2nd.ED。天馬の脳内に剛池戦での字数足らずによるアンフォームド(UF)、作品未成立がよぎる。
ノベライズ・ハイの形成要素のひとつである執筆意欲(モチベーション)。これが増幅されれば筆は一気に進むが、一度失われてしまうと通常の状態時よりも勢いは衰え気怠さに見舞われる。
「もう、私たちの邪魔しないで……」
詩仁はそう言うと、張り巡らせた根や枝はすべて、巣へと辿るように遅速で吸いまれた。そして再び、自らのさえずりとホログラム・キーボードによる
どうして? トシは完膚なきまで仕留められるチャンスを放棄した詩仁に、感謝とも屈辱とも言えない複雑な想いが巡るが、自分の千載一遇のチャンスと捉えてノベライズに身を投じた。
ガァアアアアアアアアア!!
ジークの雄叫びと姿がノベライズに舞い戻ったのは十数分後、2nd.ED終了間際だった。一時期はペースを落としたが、詩仁のヒュグ・ドラッサムが何も仕掛けてこなかったこと、窮地からの予想外の解放にモチベーションと集中力が切り替えられたこと、そして詩仁が5分を残してエンド・ライズを宣言したのがトシの筆を進ませた。
『アウト・ライズ!』
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1【ARIMI – UTANI】
字数:22,731 整合率:99% Chein (R)ize Novel release
2【MASATOSHI – NOGANE】
字数:12,148 整合率:95% Turning(R)ize Novel release
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2nd.EDの終わりは、創誓の炎と燈った希望で迎えられた。それが、このノベライズでの最後の余裕になるとも知らず……。
『2nd.ED:ジャッジ・ライズ……先攻、詩仁 可美』
『チェイン・ライズ・ノベル【ゆるデス】②』
命拾いの判定も束の間。STIを前にトシは気を引締めるが、表情は不安よりも怯えに近かった。結果は【RP:リスペクト 2ポイント】と、先のEDより高い評価へと繋がる。
アトラクションが進むにつれて脱落する級友たち。主人公、瑠璃の親友である小鳥は第2ゲームでゴム風船の大玉の下敷きとなり、
たとえ現役女子高生から「そんな友情は幻想だよ」と言われようとも、トシは彼女たちの友情に熱いものが込みあげてくる。だが、同時に喉の奥に血糊がこびりついたような違和感にむせそうだった。
『2nd.ED:ジャッジ・ライズ……後攻、野鐘 昇利』
『ターニング・ライズ・ノベル【きみいろコロシアム】』
同じ作品で続けてNR:ノーリアクションとなると、CO:センサードアウト(打ち切り)で相手に3ポイント入ってしまうので、トシは新たなライズ・ノベルで勝負に出る。
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【きみいろコロシアム】 ジャンル:歴史ロマンス
栖歴175年。皇帝コモンドが統治するロウマ帝国の拳闘士養成所で女指導者として腕を奮っていたアムラは、大臣からの求婚を断ったその腹いせに奴隷闘士チーム“オブリガジニィ・スクトゥム(希望の盾)”の育成所に左遷される。見世物として傷付きながら戦う奴隷少年たちの中で、素晴らしい素質を持ちながらも気弱な性格が災いして一勝もしたことのない少年クオルと出会う。
みんな、自分の境遇と運命に苦しむが夢だけは忘れない。コモンドリーグの中で万年最下位チームとアラサ―指導者が織り成す逆転劇とロマンスの結末は!?
【NR:ノーリアクション 0ポイント】
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2ED連続無得点と、外部からの情報を完全遮断した詩仁の無反応にトシは思わず目を背ける。
2nd.ED
【NOGANE:0― 3:UTANI】
傍から見れば逆転のチャンスは充分ある状況だが、失意に至る棘は着実にトシを侵食していた。
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