Episode.4【Missing - Nove(R)ize】
4-1st. ED 穴暗夢
かつて、文学が芸術競技として、オリンピックの正式種目とされていた時代があった。スポーツを題材にした作品を制作、採点して順位を競うもので、1912年~1948年までに計7回の大会で採用されたという記録がある。
だが、芸術作品は客観的かつ数値をもって採点することが極めて困難であり、恣意的な評価や主観的な判定があるという批判も度々生じたことが徐々に競技から外された理由とされる。現代では、文化プログラムの一環として芸術展示が行われるようになり、筆を競う場は、様々な文学賞に集約された。
『──しかし、今からおよそ70年前にWeb小説という新たな才能を発掘する文化が誕生し、そして20年前に【
─ そして今ここに集う。総勢128名、8つのブロック予選を勝ち抜いてきた、八人の文豪が ─
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Aブロック:
いきなり登場するのは、優勝候補の筆頭にして筆聖の女流プロ・ノベライザー! 説明不要の筆力と実績を持つ彼女に太刀打ちできるノベライザーはこの中にいるのでしょうか!?ソウル・ライドはご存知、彼女の呼び名でもある、
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Bブロック:
何とここまで飯モノ小説だけで勝ち上がってきた巨漢の豊食ノベライザー。その美味と香りすら漂う巧みな文章とシチュエーションで相手を空腹へと誘います!ソウル・ライドは、
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Cブロック:
『見た目が子供』は褒め言葉。これでも合法JK18歳! 甘酸っぱい恋愛コメディと青春バラエティは、私のためにあると豪語する自称カリスマ・キューピット!破壊力あるポエムで読者のハートを木っ端みじんにします!ソウル・ライドは、
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Dブロック:
そのミステリアスな甘い笑顔から生み出される、本格ミステリーとサスペンスをマッチさせた文芸で、女性ファン急増中のイケメン・ノベライザー!ノベライズ歴不明にして初出場となる彼は、この決勝トーナメントでどのようなトリックを見せてくれるのでしょうか!ソウル・ライドは、
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Eブロック:紋豪学園 三年
昨年、第14回ライジング・ノベライズの当エリア代表として全国へと進んだ硬派にして実力派ノベライザー!相手の流派に合わせて筆法を変化させる、彼の剣豪小説に斬れない物はありません!皇義との同校対決が見られるかも注目です!ソウル・ライドは、
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Fブロック:ロイヤル・アカデミア 一年
大道芸人の養成学校でサーカス道に励む双子のハーフ兄弟。ノベライズ・パフォーマーを自称しながらも、喜劇を中心としたセンチメンタルな物語は珠玉のものばかり!執筆は兄のパルロ、ネタ作りやサポートを務める担当者は弟のカルロです。ソウル・ライドは、
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Gブロック:
休みという休みを利用して旅した諸国は十数ヵ国という、パワフルガールな人気ブロガーの登場です!言葉は通じなくとも度胸と行動力で乗り越えた体験を基にした自伝&エッセイは、他のノベライザーにはない臨場感があります!ソウル・ライドは、
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Hブロック:
最後に紹介するのは、技術の進化とともに役目が失われた入力機器、キーボードを手に現代に蘇った、《《アナログ》》・ノベライザー! ノベライズ歴はまだ半年ながら、名勝負を巻き起こす注目のルーキーです!担当者にして親友の
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──『以上、八名による決勝トーナメントの組み合わせ抽選を行います!』
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「す、凄いな。こんな個性的なノベライザーたちと戦うなんて……」
「いや、キーボードを使ってるお前も十分に個性的だろ」
隣の何かは何色かにでも見えるのか、自分を差し置いて他の七人のノベライザーに気押されるトシに天馬は呆れ顔を見せる。
4回戦が終了してから三日が経った今日、全国各地でライジング・ノベライズのエリアベスト8の紹介映像がライブ配信されていた。それを共有ホログラムに拡張して視聴するトシ、天馬、姫奈、そして他のノベライズ仲間たち。飛陽高校の二年の教室では、賑わいと緊張が入り混じった昼休みを迎えていた。
「それよりも、あのトシの紹介はなんだ。いつから俺達のノベライズはあんなアオ臭いテーマになったんだ」
「うん。ライジング・ノベライズの運営から何か一言、紹介文の資料をくれって言われたから……」
「って、あんたが書いた文章かい!」
天馬のフリ、トシのボケ、姫奈のツッコミ。息の合った天然の三重奏に周囲から笑い声があがる。
「す、すげえな。トシ、本当にここまできたんだな」
「去年は天馬さんが、あの舞台に立ってたんだよな」
「ば、馬鹿っ!」
かつてはトシを侮蔑していた、姫奈曰く天馬付きの三馬鹿連中のやり取りに一人が口を押える。
「まったくだ。本当は俺があそこに立つ予定だったのに。まあ、今年は花道のチャンスをトシに譲ったにすぎん。来年は俺が校内選抜を制してトシを担当者にして跪かせてやるさ」
天馬は気にする様子もなく、眼鏡を直しながら微笑を見せる。
悔しい気持ちがないと言えば嘘になる。トシの目まぐるしい成長とライズ・ノベルは天馬にとって大きな壁となることは間違いなかったが、その軌跡を幾多のライバル達とのノベライズを交えて身近で研究できる担当という立場は決して悪くはなかった。
「まあ、せいぜい俺のために弱点と作品を多く曝け出してくれ。大いに利用させてもらうぞ。全国までとことん付き合ってやるよ」
「て、天馬ったら、またそれだよ……」
包み隠さずに嫌味と野望と露わにする天馬にトシは苦笑いを見せるが、その表情はどこか嬉しそうだ。彼を信頼している証なのだろう。
「あ。いよいよ予選決勝トーナメントの組み合わせが発表されるよ」
姫奈の声に全員が一斉に静かになり画面に注目する。
ベスト8の顔写真パネルが頂点先を下に向けた円錐のスパイラルを描きながら吸い込まれる。
「問題は、皇義 莱斗とどこで当たるかだな」
「そう言えば、今日の正座占いは最下位だったよ。出会い運が最悪なんだって」
続けて浮かび上がったトーナメント表に各ノベライザーが配置される。
皇儀はもちろんだが、ベスト8ともなれば、残る六人全員がトシ以上の筆力を持つ文豪であることは間違いない。皇儀を超えるダークホースの存在も充分にあり得るが、やはり天馬が気になるのは筆聖を中心とした組み合わせである。
5回戦【決勝トーナメント】
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『以上、四組の合わせが決定しました!果たしてこの中からどのノベライザーが全国への切符を手にするのか、そして書籍化へのノベライズ・ロードを歩むのか注目必至……いや、筆至です!それではノベライザーの皆さん、明日、スタジアムでお会いしましょう!司会は、
「やはり占いはアテにならんな」
「当たらなかったね」
ひとまず、皇儀とのノベライズは決勝までお預けとなることが決まり、二つのため息が漏れた。
■
許すことは才能ではないか。放課後、学校の校門で笑いながら手を上げて連中と別れるトシを見て、天馬は思った。
友情、愛情、仲間、どんな形にしても人間関係というのは、固い殻に覆われるも、些細な衝撃や変化で腐り終えてしまう蛹のように脆い。しかし、トシはかつて自分が受けた侮蔑や虐げられたノベライズへの想いなど無かったように連中と接する。
校内選抜から決勝トーナメントにかけて、連中はトシと天馬に自分たちがしてきた無礼な態度や陰口を謝罪した。正直、天馬は彼らと今までどおりの関係を送るのは無理だと思っていたが、トシのひと言ですべてを受け入れた。
『ノベライザーたるもの、ライバルの数は無限でも、敵は存在しない』
殆どが飾りとも言われるノベライズの暗黙の誇りに救われたのは、彼らよりも天馬なのかもしれない。
「いけー!マグナム・キッド!」
「まけるな!ホーリー・セイバー!」
飛陽高校は住宅街の近くにあるので、通学の行き帰りに小学生ともよくすれ違う。道端で男児たちが自分でカスタマイズしたと思われる、ソウル・ライドを小さくしたようなモノを戦わせながら遊ぶ姿が目に入る。
「ホロモデラーだ。僕らも小学生の時はよく遊んだよね天馬」
「そうだな……」
トシの真っ直ぐな想いとノベライズは伝染する……。
良き友に出会えたこと、そして今はその友とノベライズの道を昇り続けられることが天馬にとっては嬉しかった。
「でもあの時、僕は必死に特訓したのに、天馬が裏コードでホロモデラーを無敵にして100連勝したインチキは今でも忘れてないからね。」
「……まだ、覚えていたのか。ところで次の対戦相手だが、お前はミス……」
前言撤回。やはりこいつは根に持つタイプかもしれん……。天馬は己の買い被りを後悔しながら、話題を次のノベライズに切り替えようとしたその時だった。
「や、やめて……ください」
「いいだろうが、ああん?」
角を曲がった先でトシと天馬は一悶着に遭遇した。
二人と同い歳くらいだが、一回り小柄な女子が自動販売機を背に男に詰め寄られている。
男はズボンのベルトを垂らして、ハードロックなプリントがされた半袖Tシャツを着崩した姿、そして髑髏と剣と鎖が交差した紋様が腕に描かれていた。
「お、おい!」
「い、いきなりかよ!」
見るからに異世界とは違う意味で、自分たちとは住む世界が違うタイプと察知しながらもトシは男に声をかける。もっと慎重に様子を窺え、と天馬は言おうと思っていたが時すでに遅かった。
「なんだテメエらは……?」
振り返った男を一目見てトシと天馬はコンセントを挿した際に生じるスパークのように体をバチリと奮わせる。
男の顔立ちはスラリとしているが、眼光は天馬とは比べものにならないほど鋭利だった。そして何と言っても特徴は、オールバックにしたミディアムな前髪からこぼれる、額に刻まれた十字傷である。
「な、何をやってるんですか! 警察を呼びますよ!」
「俺はこう見えても、イザとなったら声がデカイからな!」
トシと天馬は、男の背後で学生鞄をワキで押さえながらぎこちないファイティングポーズを取るも不釣り合いな言葉で先制口撃を仕掛ける。
「ふざけてんのか……」
男は顎を上げて上目使いでさらに鋭さを増して睨みつけてくる。
「こ、こっちは二人だぞ!」
「そうだ!タイマンなら勝てる可能性はゼロだとしても、1+1は2にも3にもなる。賭ける価値は十分にある!」
「だ、駄目だよ天馬。幾ら数字を足してもゼロをかけたらゼロだよ」
「そっちのかけるじゃない!」
ズイッと一歩、男が詰め寄ると同極の磁石が反発するような勢いでトシと天馬は鞄で防御しながら後退りする。
「おもしれえ奴らだな……」
男はポケットに手を入れて威圧的な態度を見せる。
「まずいな。この手のタイプは、ナイフの一本や二本くらい出すかもしれん」
「ナ、ナイフどころか、拳銃……いや、もしかしたらバナナを出すかも」
「それを言うなら
刃物以上に切れのあるツッコミを見せる天馬。こんな状況でも二人はある意味絶好調だ。
「本当におもしれえな、テメエら! ちっ……やめだ、やめだ」
トシと天馬の
『こ、こわかった……』
危機を免れて安堵したトシと天馬。そして少女の三人は自販機の前でへたり込む。
「危ないところをありがとうございました。野鐘先輩。一角先輩」
涼しげで幼さの残る可愛らしい顔立ちにセミショートの茶髪。デニムのハーフパンツにTシャツ姿の少女が二人に礼を言う。
「うん。怪我もなさそうでよかった」
「それよりも、どうして俺たちの名前を知っている?」
少女はズボンに付いた砂埃をはたきながら立ち、咳払いをする。
「私、一年の
栖雲と名乗った少女は、ハキハキとした態度で素性と目的を明かす。
「無事で何よりだが、うちの学校にそんな部あったか?」
「ははは……。実はまだ部員は私だけだったりして」
いぶしかげに聞く天馬に栖雲は頬をかきながら答える。
「ライジング・ノベライズ、5回戦進出おめでとうございます。お恥ずかしながら、お二人のノベライズのことを今日知ってピンと来たんです。私の初特集記事はこれしかないって!」
両拳を顎の下で握りながら迫りくる栖雲にトシは気押される。
「お願いします!お時間は取らせませんから、野鐘先輩のこと取材させてください!ノベライズの意気込みとか、普段どんな本を読んでるとか、先輩のお宅で私の初めての相手になってください!」
他人に聞かれたら、誤解を招きかねない栖雲の申し出にトシは周囲を見渡しながら焦りの仕草を見せる。
「わ、わかったから少し落ち着いて栖雲さん。天馬も行こうよ」
「お、おう」
「一角先輩は明日、午前のノベライズ前に取材させてもらいます。それじゃ行きましょう、野鐘先輩」
「え、あ……ちょ。じ、じゃあね天馬。明日、スタジアムで」
栖雲はマイペースに事を運ぶと、トシの手を引っ張りながら連れて行ってしまった。
「なんなんだ、あいつは……」
置いてきぼりをくらった天馬だったが、しばらくして何かを思いついたように、セルラブルの通話モードを起動する。
「もしもし、俺だ。実はだな……」
俺の性格もなかなかのモノだな。
天馬は自分でも分かるほどの意地悪な笑顔を見せながら、ある人物に連絡を取り始めた。
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