8-3rd. ED 決着

 その日、ライジング・ノベライズに伝説が……いや、神話が生まれたと、あの場にいた観客たちはのちに語る。燃える太陽と空と海の輝きがぶつかり合いながらも、互いを讃えて共鳴するあの光景を……。


    ■


『……皆さん。泣いても笑っても、これが最終EDです!勝負というのは、何と無情なのかと私は噛みしめております。野鐘選手。皇儀選手。どちらにも勝ってほしいというのが正直な気持ちです!皆さん、どうか一文字たりとも二人の筆跡を見逃さないでください!』


 トシと皇儀のノベライズを映すスタジアムのロビーは、大歓声に包まれていた。その割合はトシと皇儀の半々である。一筆一撃の度に両選手とソウル・ライドの健闘を称賛する声がエネルギーの塊となって巻き起こる。その声援の差には筆聖も新星もなかった。


 これだけの声援を浴びながらも、主役である二人にこの声はまったく届いていない。観衆に囲まれた中で行われる全国大会とは違い、隔離された空間でノベライズを繰り広げるエリア予選に誰もがもどかしさを感じていた。


「トシ、がんばって……。皇儀さんに負けないで!」

「大丈夫よ姫奈ちゃん。野鐘君ならきっと勝てる。だって、ここまで何度だって奇跡を起こしてきたんだから」


 姫奈は何者にも引き離せない力と願いを込めて両手を組んで祈る。詩仁はそんな姫奈の震える肩を抱くが、自分も全身が心臓になったように落ち着かず、互いに支え合っていた。


 ……でもトシが負けたら、慰めついでに私に振り向かせるチャンスか……?

「姫奈ちゃん。邪推よこしまな心はソウル・ライドにも影響しちゃうよ?」


 詩仁は、不敵な笑みを浮かべる姫奈の心を読んだ。


「大ちゃん。どっちが勝つと思う……?」

「なに言ってやがんだ、希空のあ。マサトシに決まってんだろ……って、痛えよ!ちったぁ落ち着け!」


 剛池は、希空に片腕を力いっぱい掴まれながら勝負の行方を見守る。


4th.ED

【NOGANE:12 ― 12:SUMERAGI】


「マサトシの奴、ほんとヒヤヒヤさせやがる……コォ……」


 希空は、剛池が既にオーバー・ライズした得点を何度もチラ見しながら、密かに息吹で呼吸を整えていることに気付く。さらによく見ると、空間をも握り潰しそうな握力で拳を圧縮させていた。


「龍兄……。野鐘さん、勝つよね?」

「どれだけ祈ろうが、勝敗を決めるのはあいつら自身だ。俺はライズ・ノベルの分析に忙しいから少し静かにしててくれ」

「もう~。そんなの後で見れるじゃん!」


 決着が待ちきれずに足踏みをする栖雲に対して、鉤比良は冷ややかな態度でスマホで前EDのライズ・ノベルを確認していた。そうでもしなければ、抑えきれない興奮を見透かされそうだったからだ。


4th.ED 先攻:野鐘 昇利 Turning (R)ize Novel

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星春に目覚めし、破械の女神スタープリング・デスヴィナス】 ジャンル:SFファンタジー


 長年、平和を維持してきたキャメロット皇国は、世界の強国の中でも三指に入るガルマ帝国の侵攻による占領の危機に瀕していた。皇王も病に倒れて軍備力も衰えるなか、齢12歳のウィル王子はある晩、流れ星に国の平和を願う。だが、それは星ではなく、銀河系の外から惑星を滅ぼしにやってきた、全長150mもの女型の破壊機人ハーディアだった。


 ウィルの強く純粋な願いを偶然傍受したハーディアは、それを愛の告白と勘違いしたことで恋愛回路が構築されてしまい事態は大きく動き出す。 救いの女神として信仰するウィル少年と愛する者を守りたいハーディア。百倍もの身長差の二人が繰り広げる究極のすれ違い戦記ラブコメ!!


【EX:エクセレント 4ポイント】

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4th.ED 後攻:皇儀 莱斗 Turning (R)ize Novel

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【アレックス・ビート】 ジャンル:冒険ファンタジー


「おいら、勇者様に会いたいんだ!一緒に連れてってくれよ!」C級勇者のアレックスは、ひょんなことで出会った記憶を失くした少年キズナと旅路を共にする羽目になる。


 魔王に支配されつつあるこの世界では、各国やギルドから幾万人もの勇者が輩出されていた。貴族の家に生まれて音楽家を目指すも、挫折を味わい落ちこぼれの烙印を押されたアレックスは、家から逃げるように勇者となって淀んだ毎日を過ごしていた。


 どうやらキズナが会いたい勇者は、SSランクの聖勇者らしく、二人は魔王の城に最も近い世界の中心を目指すことに。無鉄砲なキズナの行動力に剣すらまともに振れないアレックスは命からがらな日々を送るが、いつしか彼には保護者ではなく、父親ともいうべき責任感が芽生えはじめる。


【EX:エクセレント 4ポイント】

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 4th.EDは両者ともに最高得点となった。互いに真のノベライザーとして目覚めた二人のライズ・ノベルは、どちらも傑作に相応しかった。


「物語序盤の引き込みは互いに申し分なしか……。二人はきっとチェイン・ライズで勝負に出るだろうが、創造力なら野鐘。筆力なら皇儀と言ったところか」


 鉤比良は冷静にライズ・ノベルを批評しながら、このノベライズを左右する要素を分析する。それは概ね正しかった。


    ■


 5th.EDは、始まりからクライマックスを迎えていた。自分の持ちうる最大の筆力と創造力を発揮して物語を紡ぐなかで、トシと皇儀のソウル・ライドは激しく衝突していた。


 トシのジークが空間をも砕く一撃を見せれば、皇儀のインペリオンは、躱すことなく長刀と鎧で支え受け、インペリオンが万物をも超越する一閃を突き出せば、ジークは避けることなく全力で受け止める。


 ノベライズ・ハイによる極限の集中状態である彼らには、自分たちの世界しか見えていなかった。時折、チラリと相手に目を向けては口元の端をわずかに緩ませて心を鳴らしていた。


 心の底からノベライズを楽しむ二人だったが、わずかながら押されていたのは筆聖の方だった。ノベライザーとしての努力すめらぎ天性トシの差がここにきて生じつつあった。


 ピシリ……


 物語の内容は見えずとも、トシが弾く鍵打音の一字一句から、ライズ・ノベルに篭められた魂や想いがヒシヒシと伝わる。


 不屈の闘志は万剣を弾き。断固たる信念は海をも掬い。そして、揺るがぬ希望は空をも掴もうとしていた。


「まさにこの一心が生み出す力か……!」 ピシリ……


 もう完全に消え去ったと思われた『不安』という二文字が皇儀の中によぎるが、ノベライズの原点にして、あの言葉で己を懸命に震え立たせる。


「ノベライザーたるもの、敗北など恐れるな!真の敵は諦めることだ!」


 ピシリ……


 皇儀は削り尽くされそうな精神力を維持のこしながら、ノベライザーの暗黙の誇りを大声に乗せて物語を紡ぐ。たとえ生命が尽きようとも、勝利の空を目指して舞い続ける。


 このまま秒針が止まれば……。いつまでもこのノベライズが続けば……。


 トシと皇儀はそんな我儘を抱きながら最終章の折返しを迎えようとしていた。二人だけではない。このノベライズを見ているすべての者が同じ思いだった。5分……7分……9分と、時を重ねると同時に失うと共に、そして、すべてが終わる罅音すきねと共に。


 トシ。ここまで自分を燃焼できるお前が俺は羨ましい。 ピシリ……


 天馬はふと、いつの間にか自分の頬に一筋の涙が伝うことに気付いた。彼だけではない。この戦いを見届けるノベライズを愛する者たち、魅入られた者たちをも感化させていた。


 トシ……あたしを全国に連れてってくれるんだろ!?  ピシリ……

 負けんじゃねえぞ、マサトシ……!  ピシリ……

 野鐘君は、私に生きる物語を教えてくれた……。  ピシリ……

 礼は言わんぞ野鐘。だが今だけはお前の勝利を願ってやる……! ピシリ……


 天馬、姫奈、剛池、詩仁、鉤比良。トシとノベライズで語り合った者だからこそ分かる思いを巡らせる。そして、みんながこんな素晴らしいノベライザーたちと同じ時代を生きてこられたことに幸福を感じるなか……


 パキィィィィィィィィィィィンッ!!!!


 熱く鮮やかに奮われた感動が爆ぜるように、言葉は砕け、物語は散った。

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