最終話「意志」
「グガガガガガガガ!」
凄まじい咆哮。
ドグマ・キャッスルの魔力は依然として高まりを見せている。
だが、俺はもう次の一手に手をかけ始めていた。
一瞬の隙、それがチェックメイトへの鍵だ。
強化スキルを駆使し、ドグマの猛攻をことごとくかわしていく。
「くっ、目障りなやつめ! ならこれならどうだ!」
ドグマは頭部が紅く光始める。
「みんな、範囲魔法来るぞ!」
「おっけーよ、構えはできてる」
「ワタクシとミルで防いでみせますわ。二人はその隙に一気にたたみかけてください!」
「リュウタロウさん、お任せを!」
皆、準備完了のようだ。
ふっ、全く本当に頼もしい女の子たちだよ。
いかなる時も前向きに立ち向かう姿勢を俺も見習わないとな。
「まとめて消してやる! 塵(ちり)となって後悔するがいい!」
真っ赤に輝いた後、ドグマからL7
魔術は真っ先に俺たちの方へ。
「イルーナ、ミル!」
「《リフレクションバリア》!」「《リフレクションバリア》!
上級範囲魔術を真っ向から受け止める二人。
「ぐぐぐ……」
「大丈夫か!?」
「私たちなら大丈夫です。二人はドグマを!」
大丈夫だと言っているが、結構ギリギリのラインだ。
この調子だとおそらく長くはもたない。
今なら……一気に勝負を決められる!
「一気にいくぞアイリス! 万が一の時の後方支援は頼んだ!」
「りょーかい!」
ファスト。
強化魔術を使い、一気に詰める。
範囲魔術が放たれている間は大きな隙ができる。
俺とアイリスは両側面から一気に切り裂く。
「はぁっ!」「やーっ!」
その一振りはドグマに大きなよろけを与える。
放たれていた範囲魔術の発動を停止させる。
「グッ! ドグマが押されている……そんなハズは!」
プリシアが焦りだし、ドグマの行動が鈍くなる。
(なるほど……使用者の心情も奴に影響するのか。それにさっきから気になっていたんだがあの影はなんだ?)
不自然な影を俺は捉えていた。
それと同時にプリシアの大きな鼓動を聞き取るべく模索する。
俺は3人に指示を出す。
「みんな、援護を頼む! そろそろ終幕だ!」
「任せてちょうだい!」
「わかりましたわ!」
「了解ですっ!」
よし、これで決着への準備は整った。
「ヴィーレ、いくぞ!」
『ああ! 存分に暴れな!』
俺は目を瞑り、瞑想に入る。
ヴィーレの能力によって広範囲に渡って微かな音も聞き取ることができる。
一瞬の鼓動の音、それを聞き取るんだ。
聞き耳を立て、集中。
そして、
「……!? この音は」
間違いない。プリシアの鼓動の音だ。
奴のいる場所はドグマのすぐ後ろだ。
それにあの不自然な影……間違いない!
俺は一気に魔力を膨張。
ヴィーレに注ぎ込む。
「みんな、伏せろ!」
この一言で3人は即座に伏せる。
そして詠唱。
「穿て!
膨大な魔力により放たれた混沌嵐はドグマのすぐ真後ろに。
それは見事にプリシアに直撃。
予想通り、身にまとっていたバリアが剥がれ落ちる。
「ば、バカな! 結界を張っていたはずなのに!」
ゴッドムーヴ。
上級移動魔術で一気に加速。
視認不可能なほどの速さでプリシアに近づく。
一気に目の前へ。
「なっ、なに!?」
考える暇さえ与えない。
俺は一気にヴィーレを振り下ろす。
「これで……チェックメイトだ!」
振り下ろした強靭な一撃はプリシアの影を一刀両断する。
「ぐああああああああああああああああああああああ!」
漆黒の影はプリシアから消滅。
そして彼女は意識を失い、真っ逆さまに地上へと落ちていく。
「ファスト!」
移動魔術で彼女が地面に叩きつけられる前に救出。
そしてそこにはもうドグマの姿はなかった。
ドグマ消滅時の破片が蒼く光り、なんとも幻想的な空間が生まれる。
「お、終わったの……?」
「ああ、でもまだもう一人いるよ。高みの見物者がね」
その見物者は高笑いをし、姿を見せる。
「はははは! さすがですね、
「お褒めの言葉をいただき光栄だね」
「そんな身構えないでください。私は単純にあなた方の勇姿を称えたいだけなのです」
「本当かしら? 隙を狙っているんじゃないでしょうね?」
アイリスは彼のことを信用できないみたいだ。
今まで敵として交戦してきたのだから無理はないだろう。
だがファックスは異様なまでの冷静さを出す。
「私は傭兵みたいなものです。依頼があって初めて動きます。この依頼は破棄となりましたのでここにいる意味はなくなりました」
ファックスに戦う意思はないようだ。
でもアイリスたちは、
「いや、信用ならないわ。あのような男を今後も活かしておくと危険だわ」
「そうですわ。またいつどこで現れるか分かったものじゃないですよ」
「ここで決着をつけましょうリュウタロウさん!」
ファックスとは相対するように好戦的意思を示す。
(こりゃ……無理矢理言わないと聞かないな)
俺はさっと腕を横に出す。
「やめろみんな。戦う必要なんかない」
「で、でも……」
「これはギルドリーダーとしての命令だ」
俺の真剣な表情を見て彼女たちは武器を収める。
「わ、分かった」
そしてこのやり取りが行われている間にはもうファックスの姿はなかった。
『私はこの辺で失礼させてもらおう。
ファックスの声だけが聞こえる。
おそらく遠隔から魔術を行使して声を届かせているのだろう。
「リュウタロウ!」
「リュウタロウ様ー」
「リュウタロウさーん」
手を振りながら駆け寄ってくる。
「終わったわね」
「ああ、それにプリシアも救出できた」
「よく分かりましたわね。彼女が魔物に操られていたことを」
「不自然な影が見えたんだ。もしかしたらって思ったけど予感が的中して一安心だ」
そして抱きかかえたプリシアをそっと降ろす。
「間近で見るとホント美人よね姉妹揃って」
「本当ですね。お人形さんみたいです」
その時だった。
―――ゴゴゴゴゴゴゴゴ。
大きな音が地鳴りとともに施設内に響く。
「なんですのこの音……」
「まずい、崩れるぞ! みんな早く元来たところへ!」
俺たちは速攻で来た道を逆戻りしていく。
「やばいわ、すぐ後ろにまで迫ってきてる」
「とにかく走れ! このままじゃみんな下敷きだ」
とにかく全力疾走。
多分、今の俺は他の誰よりも早い自信がある。
体育祭とかでのリレー選争いにも食い込めるだろう。
ちなみに現実世界での足の速さはクラスでも1、2を争う鈍足だった。
俺たちは走る。
崩れ行く天井は留まることを知らない。
ダメだ……このままじゃ間に合わない!
察した俺はミルに、
「ミル、地上へ上れるゲートは作れるか?」
「即席なのでどこに出るか分かりませんよ?」
これは賭けだ。もしかしたら出れないかもしれない。
そうしたらみんな仲良くあの世行きだ。
でもここで下敷きにされるよりも望みがある方がよっぽどいい。
俺はミルにゲートを作るよう頼む。
「頼む、ミル!」
「わ、分かりました!」
ミルは地上に上がるためのゲートを大急ぎで作る。
そして、
「できましたリュウタロウさん!」
ミルは転移ゲートを前方に張る。
「よし、みんな飛び込めー!」
ゲートの向こうにダイブする。
* * *
「……ん?」
目を覚ます。
「こ、ここは……」
見覚えのある光景だった。
城の入り口部分だ。
「ん、んん……」
アイリスたちも起き上がる。
どうやら無事なようだ。
「りゅ、リュウタロウ……ここは」
「地上だ。どうやら成功のようだ」
「よ、よかった……」
「でかしたぞミル」
えへへと照れた表情を見せるミル。
とそこへ、
「リュウタロウ様!」
「リュウタロウ殿!」
ミンスリーとアルベルトが走って来る。
「ミンスリー姫、アルベルトさん」
「お怪我はないですか?」
「ああ、この通りだよ」
「よかった……」
本気で心配していたのだろう。
冷静さを欠いたミンスリーの姿が顕著に出ていた。
そしてそのすぐ横で横たわるプリシアの姿を目撃する。
「お姉様!」
近くまで駆け寄る。
意識があるか確認。
生きていると知り、ホッとする様子を見せる。
「彼女は魔物に操られていたんです。人の心理につけ込む魔術をかけられていました」
「そうでしたか……」
眠っているプリシアを見つめるミンスリー。
その表情は安心したのか、少し嬉しそうだった。
「ん、んん……」
「お姉様!」
「み、ミンスリー?」
プリシアは意識を取り戻す。
みた感じ憑依された際の後遺症などはないようだ。
「私は何を……」
「記憶がないの?」
「え、ええ……今まで何をしていたのか思い出せない」
気絶するほどの衝撃で記憶ごと吹っ飛んでしまったのだろう。
でもその方が彼女にとっても都合が良いだろう。
自分の知らない内に魔物に侵され、ちょっとした気持ちの変化で支配されていたこと。
そしてそれが長い間続き、数々の悪の所業をしてきた。
その真実を背負って一生を過ごすより知らない方がいい。
記憶が消えて正解だったわけだ。
「その……ごめんなさいミンスリー。私……いけないことをしていた気がする」
「ううん、もういいんです。お姉様が無事だっただけでも」
2人はギュッと抱き合う。
彼女たちはようやく普通の姉妹に戻ることができたのだ。
「良かったですね、姫様」
アルベルトがミンスリーに駆け寄る。
「はいっ!」
最高の笑顔で返答。
その笑顔は俺たちが見たミンスリーの笑顔の中でも一番に輝いていた。
* * *
「もう行ってしまわれるのですか?」
「うん。そろそろ学園にも行かなきゃだし、何より目的以上の成果を成し遂げちゃったからね」
「リュウタロウ殿、本当に世話になった」
「いえいえ、こちらこそ色々ありがとうございました」
本来、ナパード公国に来た理由は極秘施設の監視だ。
今回の訪問だけで監視以上に黒幕まで撃退するという波乱万丈の成果を出してしまったので此処にいる意味がなくなったわけだ。
それにこれ以上学園を休むわけにはいかない。
なぜなら、俺はアイリスたちみたいに優等生でもなんでもないので留年する確率が高いからだ。
俺たちはこの国でお世話になった人たちと握手を交わす。
そして彼らから貰った溢れんばかりの食料や衣服などの荷積みをし、ベラードへ向けて馬車を走らせる。
「また来てください。絶対ですからね!」
ミンスリーが大きく手を振る。
俺たちも手を振り返し、ナパード領を去った。
「それにしても国王陛下の誤解が晴れてよかったですね」
「そうだな、プリシアも刑に処されることもなかったそうだし一件落着だな」
「それにしても色々あった他国訪問でしたわね」
「ああ……ホントだよ。やっと帰れる」
ここへ来て疲れが出てくる。
もう身体的にも精神的にもクタクタだ。
「でも最後のリュウタロウの一撃はかっこよかったわよ」
そう言うアイリスに俺は、
「でもそれはアイリスたちがサポートしてくれたからこそだよ。特にアイリス、君には何度も助けられたよ。ありがとう」
「えっ……」
サラッと言ったこの一言がアイリスに突き刺さる。
「ん? どうしたアイリス。顔が真っ赤だぞ?」
「な、なんでもないわよ!」
(油断も隙も無いんだから……)
何かを隠すように強めに返事をする。
そして馬車は順調に帰路を辿っていく。
「よーしみんな、帰ったら祝杯でも挙げよう!」
「おーーーー!」「おーーーー!」「おーーーー!」
俺たちは天高く拳をあげる。
『異世界はロマン』
これをスローガンに俺は今までを生きてきた。
そして念願の異世界転移。
やっと自分の居場所を見つけることができた。
俺の夢は異世界を見つけ、その世界で自分の
俺の夢の計画はもう第2段階に来ているわけだ。
この世界で俺の国が建国されるのもそう遠くない気がする。
絶対的根拠はない。
でも、この仲間たちとならきっと成し遂げられる。
俺はそう思うのだ。
よし、これから大変になると思うけど一丁やったりますか!
俺の意志は揺らぐことはない。
今もこれからもそうだ。
なぜかって? 理由は単純だ。
それはそう……異世界が、この世界が大好きだからだ。
イセオタ(異世界オタク)が異世界にて王国をつくるようです 詩葉 豊庸@『俺冴え』コミカライズ連載中 @banrai_shirogane
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