第2話「出会い」
「まじか、まじかよ! あはははは! 異世界は本当にあったんだ!」
俺はその時、異世界を否定していたものにざまあみろと一言ぶつけてやりたい気持ちになった。
樹木に登り、高い所からこの世界を見てみる。
「なんだよこの美しい世界は!」
その光景は今まで見た景色の中でダントツだった。
いや、比べるだけ無駄というレベルでずば抜けていた。
「とうとうきちまったんだな俺は……本物の異世界に!」
俺は今まで妄想の異世界に浸っているだけでも本当に異世界に来たような感じで満足していた。
だけど、今度は違う。正真正銘、本物だ。
遥か先まで見える地平線。
見える範囲内では海らしきものが見えた。
そのもう少し手前には……
「まさかあれは都か!?」
視力1.5の俺が目視できる範囲では都に見えた。
「こんな所でじっとしているわけにもいかないな。まずはこの世界のことを知らなければ」
樹木を降り、都らしきものがある方向へ向かった。
見たこともない生物がそれぞれ生きるために頑張っている。
「あれはなんていう生き物なんだろう。すごい触手だな」
歩くたびに新しい発見があった。
これぞ異世界。 まさに俺が妄想の中で描いたものそのものであった。
しばらく歩くと大きな森に入った。
道は少しずつ険しくなっていき、森も次第に深くなっていった。
「結構歩いたな~どこかで休むか」
俺は丁度寄りかかれるくらいの木を見つけてそこで休憩することにした。
風で木の枝が靡く音が聞こえる。
たまにその音はまるで木々たちが演奏しているかのように聞こえた。
その音は心地よく、休憩するためのBGMにはぴったりだ。
ゆっくりと休憩しているとどこからか誰かの声が聞こえた。
「これは……女の子の声?」
俺は声のする方向へと進んでいった。
すると、なんということだろうか。1人の少女が複数の男たちに囲まれているではないか。
「ど、どういうことだ? ま、まさかそういうプレイなのか!?」
俺の卑猥な妄想が脳内で駆け巡る。
顔のニヤつきが止まらない。
「はっ! いかんいかん。踏み込んではいけない世界に誘われるとこだった」
だが、見る限りではそんなふざけたようなことではないということは理解できた。
「あの服装は……盗賊か何かか? そしてあの女の子は…」
その少女は手に大きな大剣を持っていた。それをぎゅっと握りしめ盗賊たちを睨みつけている。
もう少し近づいてみると会話が聞こえてきた。
「なあなあ嬢ちゃんよお、ちょっとそのマグを借りるだけだからさあ」
「ふざけないで、あんたたち盗賊団でしょ? これを売り飛ばして金にでも変えるつもりなのはバレバレよ」
「おじさんたちがそんな風に見えるのかい? それを素直に渡してくれたら痛い目に遭わずに済むんだよ?」
「私はこの命に代えてもこのマグは守って見せるわ!」
その少女はその大剣を握りしめて離さない。
「マグってなんだ? あの剣のことを言っているんだろうけど」
すると盗賊たちはしびれを切らした。
「このクソガキ! なあ親分、やっちまいましょうぜ」
「まあ、待ちな。重要なのはそのマグだが…この女も結構、ふっふっふ」
少し遠いが、確かに美麗な顔立ちをしている。
しかも遠くから見てわかるほど巨乳だった。
「なら親分、この女もお持ち帰りしましょうぜ。きっと団長も大喜びですわ」
「ああ、そうだな。これで俺たちの株を上がるわけだ」
盗賊たちはその少女を手を引っ張り、無理やり連れて行こうとした。
「いやっ! 触らないでこの外道!」
「優しくするからさあ~おとなしくしてよ~。ね?」
さらに盗賊たちは力を入れる。
「もう力づくで持っていくぞ。奴らに見つかりでもしたら面倒だ」
「うっす! 親分」
リーダー格の盗賊の掛け声と共に、さらに少女を担ごうとする。
「や、やばい……どうする俺! 目の前で女の子が男たちに襲われているというのに」
俺はとりあえずなにかできないかと持っていた学校のバックをあさりだした。
するとバックの中に普段部活の練習で使っているフィンとパドルが出てきた。
「こ、これだ!」
俺はポケットにパドルをしまい、左手にフィンを装着した。
「部活道具をこんなことに使いたくないが、女の子を守るためなら仕方ない!」
俺は臆することなく、盗賊たちの所へ特攻した。
「おりゃあああああ!」
俺の掛け声で盗賊たちは驚いて振り向いた。
1人目をタックルで力強くなぎ倒す。
「な、なんなんだ貴様は!」
短剣を抜いた盗賊の攻撃をかわし、右ストレートで吹っ飛ばす。
これで2人目。残り3人。
ここにきて水泳をやっていた運動神経が発揮された。
「水泳続けていてよかったぜ」
3人の盗賊は固まってそれぞれ剣を抜いた。
だが、その剣は普通の剣とは違い、なにか魔力のような力が宿っているようだった。
「こ、こいつ、ふざけやがって!」
「おい、お前らやっちまえ~!」
彼らは、勢いよく襲ってきた。
リーダー格の盗賊が振りかざした剣を俺がフィンでブロックする。
するとみるみるフィンが溶けていった。
「うわっ! なんなんだこりゃ!」
「っははは! 見たか! これが我々、千の盗賊団が誇るマグの力よ!」
俺はポケットの中のパドルを取り出し、2人の盗賊めがけて思いっきり投げた。
「ふん! こんな石ころみたいな攻撃きかんわ!」
投げたパドルは盗賊が剣を近づけただけで一瞬で蒸発した。
「ま、まじかよ…俺のパドルが…」
「ふははは! もう終わりか? 期待外れよの~」
(ちくしょう! 何か手はないのか?)
すると後ろから先ほどの少女の声が聞こえた。
「そこの者、これを使いなさい!」
そう言って渡されたのは先ほど少女が大事に持っていた剣だった。
美しい紺色が目を引く立派な大剣だ。
持っただけで力が湧き出しそうなくらいの美しさと重量感だ。
「お、おう!」
俺はその剣を握りしめ、気合いを入れた。
するとその剣が俺の意思に呼応するように大きな光を放った。
「す、すげえ! なんだこの溢れる力は! やっぱ異世界は最高だぜ!」
俺が思いっきり剣を振りかざすと、雷のような鋭い光が大地を切り裂きながら盗賊のほうへ飛んでいった。
盗賊たちはかろうじてよけたが、驚きのあまりその場に立ち尽くしていた。
「な、なんなんだ。あのマグは……お、お前ら退散するぞ!」
リーダー格の盗賊が部下を連れて去っていった。
「すげえ…お、おれ今、魔法を放った…や、やったぞ~~!」
俺は拳を天に高々と振り上げた。
1人で盛り上がっている所に先ほどの少女が話しかけてきた。
「助けてくれてありがとう。助かったわ」
「いやいやお安い御用だよ。それにこの剣のおかげっていうのもあるし」
近くでみると物凄い美人だった。
美しい銀髪のロングヘアが日の光を帯びてさらに輝く。
そしてなんといっても魅力なのは迫力のある胸と圧倒的スタイルの良さだ。
彼女は今まで見た異性の中でも別格の可愛さだった。
「あなた凄いわね…マグ使いなの?」
少女が驚いた顔でこちらを見てくる。
「ま、まぐ? そういえばさっきの奴らもそんなこと言ってたな」
「あ、あなたマグを知らないの?」
「知らないというか初めて見た」
「そ、そう……じゃあどうやってマグの力を解放したのよ」
「う~ん、気合い?」
すると少女はきょとんとしてしまった。
「ま、まあいいわ。改めて助けてくれてありがとう。私はアイリス・リーベンバッハ。宜しくね」
「俺は財前 龍太郎。よろしく!」
これは生粋の異世界オタクが異世界で王国造りを目指す物語。
そしてこの出会いがこの俺、財前 龍太郎が異世界で成し遂げるための大きな始まりの一歩となった。
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