第11話「決闘 後編」

 「両者、戦闘準備!」


 決闘デュエル審判員ジャッジの声と共に2人の戦士は、気迫をぶつけ合う。 


「いくわよ! ムル・フラガ!」


 灼熱の如く燃え上がるアイリスのマグが異次元のゲートから姿を現す。


「こちらもいきますわよ! ナターシャ!」


 翠緑すいりょく色に光り輝くマグがイルーナの存在感を飛躍させる。

 両者のマグが顔を合わせ、迫力がさらに増す。

 どうやら2人とも本気のようだ。


「すごい迫力と緊迫感だ……」


 今にも吸い込まれていきそうな感じだった。

 2人のオーラが強すぎて今にも潰されてしまいそうな……そんな感覚だ。

 こんな臨場感は今まで感じたことがなかった。


呼応コンコード!」


 この一声と共に魔力がマグを通じて高まるのを感じる。

 両者のその魔力の強さから凄まじい意志と気が伝わってくる。

 両者がマグを構える。

 先ほどまで熱気に溢れていたコロシアム内が今は静寂の世界へと変貌する。


 そしてその時は来た。


「はじめ!」


 この開始の合図と共に両者はいきなりぶつかり合う。

 スピードは若干、アイリスの方が早いか。

 パワーはイルーナの方が上のようだった。


「くっ……すごいパワー」

「このパワーは魔力の転換によって生み出されているものなんですよ」

「さ、さすが魔術の知識と技能では有名なナイトメア家のご令嬢ね。だけど!」


 アイリスはそのパワーを逆に利用し、攻撃をはねのけて相手の懐に入り込む。


「なっ!」

「まずは一発頂くわ!」


 素早く切り上げられたその剣さばきは、さすがアイリスといったところだ。

 イルーナは吹き飛ばされるも体制を整える。


「やりますわね、アイリスさん。リーベンバッハの名は伊達じゃないようで」

「これでもマグの扱いには自信があるのよ」

「さすがですね。でもまだまだこれからですわよ」


 両者とも一歩を譲らない。

 俺は観客席の最前列で観戦していたため、お互いの気迫と気迫のぶつかり合いがより一層伝わってくる。

 俺から言わせれば、異世界ものラノベの最強主人公が2人もいるような感覚だ。


麗火演舞フラム・レイ!」


 ムル・フラガの固有能力エターナルスキルだ。

 固有能力エターナルスキル、それはマグとその使い手である人物によって変化するいわゆるオンリーワンな特殊魔術。

 その能力は様々でマグを深く研究する熟練の学者たちですら頭を悩ませるほどである。


 アイリスは持ち前の剣さばきとスピードで一気にイルーナへと近づく。


「さぁイルーナ・ナイトメア、覚悟しなさい!」

「ふふっ甘いですわ」


 イルーナはナターシャを地面に突き刺す。


花影転化チェンジドフラワーズ!」


 突き刺したマグから地面に魔力が注ぎ込まれ、植物が地面からみるみる生えてくる。


「こ、これは……」


 アイリスは完全に動きを封じられた。

 辺り一面には生い茂った植物。

 動こうにも動けない状況だった。


「どうでしょう。これがナターシャの固有能力エターナルスキルですわ」


「動きを封じる固有能力エターナルスキルか。厄介だな」


 コロシアムが植物で覆われる。


「さぁ、次はこちらの番ですわ」


 彼女はその植物を操り、アイリスに攻撃を仕掛ける。


「自在に操れるというの!?」

「この能力がただ防御するだけのものだと思っていたら大間違いですわ!」


 現時点ではアイリスが劣勢だ。

 このまま押し切られて長期戦に持ち込まれればアイリスの勝機は遠のく。


「ならこれならどう?」


 アイリスも同様にムル・フラガを地面へと突き刺す。

 そして―――


麗火演舞フラム・レイ!」


 地面から炎が湧き出るように噴射する。

 次々と防壁を消し飛ばす。燃え盛る炎がまるでアイリスの勝ちたいという気持ちが具現化しているようだった。


「や、やりますわね!」

「そう簡単に負けるつもりはないから!」

「私も負けるつもりはありませんわ!」


 勝負が白熱している最中、学園近くの村からSOSのサイレンが鳴り響いた。


『全生徒に告ぐ。北東約800m先に魔獣ビーストの群れが接近中。生徒諸君はすみやかに非難し、身の安全の確保に専念せよ』


 学園からの警告アナウンスだ。

 どうやらこちらに大量の魔獣ビーストが接近しているようだ。

 生徒たちは突如起こった出来事に混乱している。

 コロシアム内は大荒れとなった。


「皆さん落ち着いて! すぐ避難シェルターへ」


「アイリスさん、どうやら勝負はお預けのようですね」

「ええ、そのようね。まずはその魔獣ビーストの駆除が最優先ね」


 2人は皆が避難シェルターに向かう方向とは逆の方向へ走っていく。


「あの2人まさか……」


 あとを追いかけやっとのことで捕まえる。


「おい、アイリス、イルーナ! 2人ともどこに行く?」


 アイリスとイルーナがこちらに気づく。


「決まっているでしょ。魔獣ビースト討伐よ」

「いや”討伐よ”じゃない! 生徒は避難警告が出されているんだぞ?」

「リュウタロウ様、お気持ちは分かりますが、止めないでくださいまし」

「い、イルーナ……」


「私たちAランククラスのマグ使いは学園の生徒でありながら緊急事態を対処する任を受けていますの」

「Aランククラス……?」


 この学園では最上位クラスのSランクから最下位ランクのDランククラスまでおおまかに5段階のランクでレベル分けがされている。

 特に能力の高いSランクとAランクのマグ使いは生徒という傍ら、学園の防衛兵としても活動するようだ。


「だから……リュウタロウ様は逃げてくださいまし」

「そうよ! この前の戦いは1体だったとはいえ、今回は数すら不特定なのよ。マグを使い始めたばかりのリュウタロウには危険すぎるわ」


 女の子2人が戦うと言うのに俺だけ逃げられるわけがない。

 1人の男としての自信はないが、プライドだけは現実世界に忘れてはこなかった。


「俺も戦う!」


 そう思うと、咄嗟にこの言葉が出た。


「で、でも……」


 アイリスとイルーナは心配そうな顔をする。


「俺だってマグ使いだ。こんな緊急事態で敵に背を向けられるかよ!」


 決まった! 我ながらカッコイイこと言った気がする。

 異世界にきたらこんなセリフを言ってみたかったのだ。


 すると2人は笑いながら、


「あはは、リュウタロウはホント怖いもの知らずね」

「そういうお姿、私はとても好みですわ」

「そうと決まったら”奴ら”を蹴散らしに行くぞ!」


 俺たちは早速現場に向かおうとしたその時、アイリスとイルーナがふと立ち止まる。


「ん? 2人ともどうした?」

「学園の方からミーティングに集合との連絡が入ったわ」

「え? なんでそんなの分かるんだ?」

「テレパシーよ」

「テレパシー? 人の心が読める奴?」

「ええ、そうよ」


 テレパシーが日常的に使われているのはさすがに驚いた。

 現実世界でもその概念は存在するがまだ研究中の段階だ。

 この世界では魔術とは別に超能力も存在するらしい。


 俺たちはその命に従い、急いで学園のミーティングルームへ足を運んだ。

 魔獣ビーストはもうすぐそこまで迫ってきている。


 俺は前回に魔獣ビーストと戦った記憶を思い出しながら、きたるべき戦闘に備えるのであった。

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