第36話「決着へ」
「姫様!」
巨大兵器ドグマ・キャッスルはミンスリーに牙を向けた。
「バリア!」
間一髪だった。
俺は巧みな反射神経でミンスリーを守る。
「リュウタロウ様!」
「姫様下がって! ここは俺がやります!」
「ええい!
「ふっ、悪いな。そう簡単に姫様を殺されるわけにはいかないんだよ!」
「なら先に貴様から潰してやる!」
標的は俺の方に向く。
そこで俺はアルベルトに、
「アルベルトさん、姫様を連れて城の外へ逃げてください」
「なっ!? リュウタロウ殿、それは……」
「奴等とてあんなデカブツを城の外には出さないと思います。今は姫様の身が最優先です」
「だ、だが……」
不安そうな顔をするアルベルトに俺は『ふっ』と笑う。
「任せてください。俺たちは負けません!」
アルベルトは俺を見て、首を縦に振る。
「分かった。君たちを信じよう。国を……殺戮姫から解放してくれ」
俺はうんと頷く。
そしてアルベルトはミンスリーの手を引く。
「姫様、こちらへ!」
「待ってくださいアルベルト」
ミンスリーは俺のところへ寄る。
そして俺の前に立ち、じっと見つめる。
「……姫様?」
「リュウタロウ様、本当は一国の責任者として悪徳から背中を見せるのは愚かな行為であると理解しております。終いには他の国の方をこんな形で巻き込んでしまいました」
暗く悲しい顔をする。
そこで俺は、
「どうしたんですか姫様。いつもの姫様じゃないですよ」
「えっ」
「そんな悲しい顔をするあなたはいつもの姫様じゃない。笑った姫様の方が数倍可愛いですよ」
「か、可愛い!?」
蒸発したかのようにミンスリーの顔色が真っ赤に染まる。
「ですから笑ってください。俺たちなら大丈夫です。必ずよい結果を持ち帰るとお約束いたしましょう」
ミンスリーは両手を胸元でギュッと握りしめる。
「分かりました、あなた方を信じます。死なないでくださいね」
「はい。承りました」
ミンスリーとアルベルトは後ろを向き、走っていく。
「ぐっ! 逃がすか!」
だが、ドグマも簡単に逃がしてはくれない。
すぐさま二人に襲いかかる。
―――ガシン!
「くっ!?」
その一撃を俺とヴィーレで受け止める。
「おっと、お前の相手は俺たちだぜ? 余所見はいけないな」
「ええい! ならまずはお前たちを地獄に送ってやる!」
邪悪なオーラを放ち、魔力がグングン高まっていくのを感じる。
「すまないみんな。本当は一人でカッコイイとこを見せたいんだが無理そうだ」
「なにいってんの、私たちは仲間でしょ」
「そうですわ。ギルドメンバーとして背を向けられません」
「こういう時こそ協力ですよ、リュウタロウさん!」
やる気は十分。
俺たちも負けてはいない。
『主様が一人でなんて無理があるぜ』
「うるさい」
ヴィーレは俺をからかいだす。
俺は皆に指示を出す。
「よし、じゃあ前衛は俺とアイリス。後衛はイルーナとミルで行くぞ」
「了解!」「了解ですわ!」「はい!」
役割を確認。
そして俺たちは巨大兵器相手に突っ込んでいく。
「じゃ、いっちょやるか!」
「ふざけるな、簡単にこのドグマ・キャッスルをやれると思わないことだ」
ドグマは閃光を放ち、俺たちに襲い掛かってくる。
俺とイルーナはこれを見事に避け、相手の出方をうかがう。
「確か弱点はプリシア自身とミンスリーは言っていたな」
「ええ、でも彼女の姿はないわ」
プリシアのみじゃなくファックスの姿もない。
「一体どこに身を潜めているんだ?」
気配はまるで感じない。
おそらく魔術の作用によっての物だろう。
「リュウタロウさん、後ろ!」
「ん!?」
奇跡的に攻撃をかわす。
「あ、あぶねぇ……」
「リュウタロウ! 集中して!」
「す、すまん」
攻略方法ばかり考えていて周りが見えていなかった。
反省をする。
「おい、ヴィーレ。何か分かったか?」
『おそらくあのファックスとかいう男が高度な結界を張っているのだろう。気配を感じ取れない」
「ヴィーレでも無理なのか……」
頭を悩ませる。
後衛のミルがバフ魔術をかけ、俺たちを強化し、イルーナがドグマの動きを止める。
「二人とも、一気にやっちゃってください!」
「サンキュー!」
俺とアイリスはドグマに目にも止まらぬ怒涛の斬撃を繰り出す。
だが、やはりそのほとんどの攻撃が弾かれ無効化されてしまう。
「はははは! 無駄よ! ドグマを貫通する攻撃などないわ」
余裕を見せるプリシア。
「くそ……このままじゃ消耗戦だ。次の一手を打たないとみんなの魔力と体力が持たない」
何か手はないのか……
そう思った時だった。
「ヴィーレさん、力で結界をこじ開けることは可能ですか?」
こういったのはミルだ。
『あのレベルの結界だと相当大きな力を有しなければ無理矢理破ることはできないだろう』
「大きな力……あっ!」
最初に思いついたのはアイリスだった。
「ねぇリュウタロウ、
「本当なのか?」
『いや、私の
だが、ここでミルが、
「いえ、行けるかもしれません。私たちの魔力をリュウタロウさんに与えるのです」
「他人の持つ魔力の付与……ですがその技術は相当な技量を持つ魔導士でないと無理だと聞いたことがありますわ」
これを聞いて再度、考え直し始める一行。
だがそれでもミルは、
「私がやってみます」
「み、ミル!? いくら貴方でも……」
「いや……やってみる価値はある。それに……わざわざ結界を破らずともあいつに勝てるかもしれない」
「本当なの、リュウタロウ」
「ああ、俺に考えがある。だが、そのためには一瞬だけ爆発的な魔力を必要とする。ミル!」
「は、はい!」
いきなり呼ばれて飛び上がるような声を出すミル。
「魔力の付与、試してみてくれないか? 一瞬でいい。俺が合図を出す」
「わ、分かりました!」
とりあえずミルの詠唱準備を整えるため、俺たちは時間を稼ぐことに。
「何をしても無駄だ! 私には勝てない!」
止まらない猛攻。
近づく事すらできなくなってきた。
『どんどん魔力が高まっている……これではあの女一人では制御できなくなるぞ』
「ああ、そうなったら最悪だ。王都は確実に沈む」
早い所決着をつけたい。
次々と繰り出される魔術からミルを守る。
ミルの魔力が膨らんでいくのを感じる。
そしてその時はやってくる。
「リュウタロウさん、準備ができましたよ!」
「よし、二人とも下がれ!」
イルーナとアイリスを下がらせる。
『何をする気だ、主様』
「動かしているのがプリシアなら気配を完全には消せないはずだ。彼女も人間、微かでも鼓動が聞こえるはずだ」
『ふっ……なるほど。考えたな』
「ヴィーレ、ちょっと無理矢理になるが付き合ってくれ」
『もちろんだ、あんたは私の使い手。主に従うのが使命さ』
ふっ……頼もしい。
俺はつくづくいい相棒を持ったと思う。
「じゃあ、そろそろ閉幕と行こうか!」
魔力を込め始め、ヴィーレの姿は白銀色に染まっていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます