第6話「居候」
俺は突如現れた謎の魔獣『アークビー』と対峙していた。
相棒であるヘッズナイトを持ち、精神を落ち着かせる。
魔力が体内からマグへ流れていくのが分かる。
気を心臓に集め、集中する。
魔力が十分高まり、詠唱を開始する。
「
その一声とともに魔力が放流する。
(きたきたきたあ! さっきの感覚と同じだ!)
ヘッズナイトの蒼く鋭い光が渦となり、防御壁となってアークビーの攻撃を無効化する。
「女の子を傷つけたらどうなるかその身を持って教えてやるぜ!」
俺は目の前の化け物めがけて走り出す。身体がかなり軽い。
まるで無重力空間に放り出されているようだ。
俺のスピードは既に人間の限界を超越していた。
アークビーの怒涛の攻撃をまるで予知しているかのようにかわす。
「見える! あいつの次の行動が……!」
そしてマグを1振り。
「ぎゅゅああああああああああああああああああ!」
悲痛な叫びが都中に響き渡る。
だが、攻撃の手は休めない。
再生される前にすぐさま体制を整え、アークビーの目の前にまで詰め寄る。
「うおおおおおおおおおお!」
2発目は目のダイヤ部分を直撃した。
アークビーは先ほどより大きな唸り声を上げ、転倒する。
「どうやらあそこがあいつの弱点らしいな」
すぐさまもう片方の目を破壊する。
「あいつ……いったい何者なの? あの動き、素人とは思えない…」
アークビーは弱点であるコア部分を破壊されたため力を失い、動けなくなる。
「そろそろとどめと行くか! 相棒、もう少し頑張ってくれよ」
さらに魔力を高め、マグに流し込む。
俺の力はとどまることを知らなかった。
「とどめだ!
嵐のような凄まじい暴風が蒼い閃光に包まれながらアークビーに向かって飛んでいく。
「ぎゃあああああああああああん!」
化け物は後腐れもなく爆散した。
原型をとどめることもなく完全に消え去った。
魔力の渦から解放される。
「ふう……終わったか」
俺はすぐに振り向き、アイリスの元へと行く。
「大丈夫? 怪我はない?」
俺はそっと手を差し伸べる。
「ええ、ありがとう……」
だがアイリスは驚いた顔で俺を見る。
「ん? どうかした?」
「あなた……いったいどうやってあそこまでの力を・・・」
「どうやってって言われてもなあ。感覚? としか言えないな」
「なんとなくってこと?」
「まあそゆことかな」
「感覚だけであそこまでの力って……なによそれ……」
その後、アイリスは少し不機嫌になったのか話をすることが少なくなった。
結果的に運よく死傷者、負傷者は出ず、残りの3体も苦しい長期戦にはなったが騎士団団長、バルクの活躍もあって戦いは終わりを迎えた。
* * *
王都での
あれから王都は損壊した部分の修復にあたり、今ではもうすっかり本来の王都の姿を取り戻していた。
さて、じゃあ俺はあれからどこに行ったのかというと王都から数十キロはなれたベラード王国領のボランという町にいた。
なぜそこにいるかというと話は数日前に遡る。
―――数日前。
アークビーとの激闘後、俺たちは騎士団本部にいた。
「リュウタロウ、君のあのすさまじい一撃、素晴らしかったぞ」
騎士団団長のバルクが俺を祝福する。
「たまたまですよ。あの時魔力の扱い方を団長が教えてくれたおかげです」
「しかし最後の魔力の高まりは私も身体がしびれを感じたくらいだ。君はもっとマグや魔力のことを知れば立派な戦士となるだろう」
するとバルク団長がポンとなにかを思いつくように手を叩く。
「そうだ! 学園だ。リュウタロウよ、学園に通ってはみないか?」
「が、学校ですか!?」
異世界へ来て学園に通うという発想はなかった。
だが、異世界ものラノベには学園というものは鉄板中の鉄板だ。
その世界を知ることができるのだ。
これは異世界オタクの俺にとっては千載一遇のチャンスだった。
「通わせていただけるのですか!?」
「ああ、逆に君みたいな才がある者を放っておくほうが罰があたる」
だが、1つだけ問題が発生した。
今の俺には活動の拠点となるものがなかった。
王都に住まうとなると、片道数十キロの登校生活を強いることになる。
先ほど言った通り、学園はベラード王国領のボランという所にある。
通うにも結構な忍耐が必要だった。
―――さあ、どうしたものか。
するとバルク団長はこう言いだす。
「住まう所がほしいなら我が屋敷に居候するといい」
「ふぁっ!?」
いきなりの発言に隣にいたアイリスがすぐさま反応する。
「え!? 屋敷ってリュウタロウを!?」
「ああ、そうだ。事情を話せば父上も母上も納得してくれるであろう」
「いやいや兄さん、そういう問題じゃないでしょ? 仮にもリーベンバッハの名を背負っているのよ?」
「家柄などむしろ今の時代では過去の遺産にすぎん。しかも学園での友人が増えることはお前にとってもいいことだろ?」
「べ、別に私は友達がいないわけじゃ……」
「はいはい、とりあえず2人には私から伝えておこう。アイリスは案内をしてやってくれ。私は雑務があるのでこれで失礼するよ」
「ちょっと、兄さん!」
団長はそういうと席を後にした。
そして去り際に団長が俺にそっと耳打ちをした。
「リュウタロウ、妹を頼むぞ」
「え? それってどういう……」
いかにも意味深な言葉を放ち、団長は暗闇の町に消えていった。
「ああ、もう! 一体兄さんは何を考えているのよ!」
―――とまあ話は冒頭に戻るわけだが、いきなりすぎて俺も整理がついていなかった。
だが、寝泊りする場所がないのは事実なので仕方なくリーベンバッハ家へお邪魔することになった。
リーベンバッハ家の屋敷はボランから1キロぐらい先にいったキャトルという小さな町の外れにあった。
「えーと? これは一体……」
そこは俺の想像していた屋敷の50倍はある広さだった。
(え? もしかしてこの人たち相当身分のお高い家系の方々なの!?)
「あ、アイリス?」
「ん? でょうしたにょ?」
さきほど王都で爆買いしたドーナッツを口いっぱいにほおばりながらこっちを向く。
ほっぺにドーナッツのカスがついている。
取ってあげてパクっというシーンが一瞬頭をよぎったが、そんな勇気、俺にあるはずがなかった。
「ごめん、アイリス。口の中なくなってからでいいよ。あと口にカスついてる」
「へっ!?」
アイリスはいそいでハンカチで口を拭いた。
「それ、早めに言いなさいよ……」
リンゴ病みたいに顔が赤くなり、恥ずかしがりながらじっとこちらを見る。
(やめて、そんな目で見ないで! 俺そういうの弱いから!)
「そ、そんなことより早く中に入るわよ!」
彼女は今の出来事を紛らわすために急いで中に入ろうとする。
「お、おう!」
俺もその後に続く。
今日未明。この俺、財前 龍太郎は生まれて初めて異性の御家へお邪魔する。
まさか初体験が異世界で、それにこんな形で迎えるとは思っていなかった。
期待に胸を膨らませ俺は屋敷に一歩、足を踏み入れたのだった。
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