第26話「亡霊」
ベラードを出発してから3日ほど経った。
氷の国へはようやく半分まで来たという所だ。
「もうそろそろ日が暮れるな。次の街に急ごう」
「今回は野宿じゃ無いのね」
「3日連続で野宿は勘弁だ」
もう既に2日連続で野宿している。
まぁ実際は宿泊先が見つからず、やむを得ずって感じだったのだが……
ミルの話によればこの先に小さな村があるらしい。
「とりあえずその村まで行こう」
俺たちはその村へ向けて馬車を進める。
―――数十分後。
「ミル、村なんてないぞ?」
「おかしいですね。この辺りのはずなんですが……」
「あれじゃない?」
アイリスの指を指す方向に村の入り口であろう門の姿が見えた。
「多分彼処ですよ! リュウタロウさん」
「ようやくか! 結構かかったな」
辺りはもうすっかり暗くなっていた。
時間的にこれ以上進むことはできない。
「村の人たちに聞いて泊めてもらえるか聞いてみよう」
「リュウタロウ様、マグは見せない方がよろしいのでは?」
「ん? ああ、そうだね。悪いヴィーレ」
『主様、迷彩魔術は効果時間あるから人間の姿でも大丈夫か?』
「わ、わかった。でも下手なことはするなよ?」
『わかってるって!』
ヴィーレは一瞬にして人の姿に。
マグだと知らなければパーフェクト美女なんだけどな……
『完了しましたぁ……』
しゃべり方も変わるところにもかなりギャップを感じる。
毎度ながら調子が狂う。
話している間に村の門前まで来ていた。
「す、すみま……」
言葉を遮るように門が開く。
ギギギっと不気味な音をたてながらゆっくりと……
「何だ、この不穏な空気は」
「村全体が真っ暗だわ」
門が開いたその先は明かり一つない寂しい村だった。
辺りは真っ暗なため、明かり一つないこの空間には月光だけが唯一の灯だった。
「まるでゴーストタウンだ。人がいる気配を感じない」
「どういうことですの? ここはもうナパードの領地内のはず」
「立ち止まっても仕方ないわ。とりあえず馬車から降りましょ」
俺たちは馬車から降り、ここに住んでいる人たちを探す。
「すみませーん! 誰かいませんかー!」
ミルは声を張り上げ、返事を求める。
だが、返事は一切として帰ってこない。
一部の住宅を除いてみても既にもぬけの殻だった。
一体どういうことだ? まさか本当は此処に人は住んでいなかったのか?
こんな疑問が浮かび上がってくる。
だが、所々見ると人が住んでいた形跡があった。
(はぁ~こういう所って異世界ラノベで言えばアンデッドとかが好みそうな場所なんだよなぁ……)
と、こんなことを考えると、
「リュウタロウ様、後ろ!」
「ん?」
『主様!』
ヴィーレの驚異的な判断で俺の後ろを襲った魔術槍を跳ね除ける。
「ドドドドドド……」
「あいつは……」
「アンデッドね……」
そう、俺の予想は見事に的中しアンデッドに襲われたのだ。
しかも1体じゃない。
これは……囲まれている……だと?
気がつかないうちにアンデッドに囲まれていた。
ここは正真正銘のゴーストタウンだったのだ。
じりじりと近づいてくるアンデッドたち。
武器構成は右手に短剣、身体には生前の兵隊がつけていたのであろう鎧を身につけていた。
「どうやらナパードの兵士たちの亡霊のようですね。ですが相手としては脅威ではありません」
「マリーさん!?」
こんな時でもマリーさんは常に冷静だ。
下がっていろと言わんばかりに戦闘態勢に入る。
「お嬢様方はお下がりください。ここは私が」
「えっ……でも……」
「大丈夫よリュウタロウ。いいから見てなさい」
「お、おう……」
「それでは……久しぶりの戦闘ということでウォーミングアップをさせていただきますよ」
マリーさんは一瞬にしてアンデッドの目の前へ。そして視認することすら困難な斬撃を次々と繰り出し、バッタバッタとアンデッドをなぎ倒していく。
おいおい……なんだよあのぶっ壊れた強さは……
あれか、戦闘メイドってやつなのか。恐ろしい……
数秒もしない内にアンデッドたちは灰となって消えていた。
「肩慣らしにもなりませんね……久々で少し張り切ってしまいました」
「つ、強いんですね……」
「いえ、大したことはないですよ。お嬢様をお守りするべく武道を少し嗜んでいただけです」
(いや、さっきのレベルは嗜んでいたなんてレベルじゃないんだよな……)
心中ではこう思っていたが、あえて触れないようにした。
「ドドドドドドド」
「ん? まだ来る」
アンデッドは再度現れる。
だが、今度は様子が違った。
「融合……していくだと」
アンデッドは次々と一体のアンデッドに吸収され、どんどん大きくなっていく。
「こいつは……ドラゴンか?」
大きくなっていくアンデッドは次第に変化し、ドラゴンのような風貌に様変わりする。
チリも積もれば山となるとはまさにこういうことだ。
1体のアンデッドと比べるとオーラが全然違った。
「スケルドラゴンですか……ようやくまともな相手が出てきましたね」
「マリーさん大丈夫なんですか?」
「お任せください。私の任の1つにはお嬢様方を護衛するということもございますので」
マリーさんは再び戦闘態勢へ。
そして瞬間移動。気がつけばマリーさんの拳はドラゴンの腹部にめり込んでいた。
「ゴ――ーーーーーー!」
スケルドラゴンなるものはワインのコルク栓のように吹き飛ばされる。
だが、これで終わるわけもなく平然とした姿で立ち上がる。
「マリーさん、ちょっといいですか?」
「はい、どうかなさいましたか?」
「ちょっと試したことがありまして……」
『あれをやるのですね主様』
「うん、まぁ成功するか分からないけど」
「あれ…って?」
皆は首を傾げる。
「まぁ見てなって」
精神統一させ魔力を心臓の方へ集中。スケルドラゴンへ手をさしだす。
そして一声。
「グレートバーサークマジック、煉獄の槍!」
俺の背面に魔法陣が生成される。そして煉獄の炎に覆われた槍がスケルドラゴンへ次々と突き刺さっていく。
「グゴーーーーーーーーーー!」
「止め!」
最後の槍がスケルドラゴンの頭部へ命中、それと同時に砕け散る。
辺り一面には骨だけが残った。
『成功ですね、主様』
「ああ、まさか本当にできるなんてな……」
振り返ると皆、目を丸くしている。
あれ? 俺なんかした?
誰も何も言わないことに不安を感じる。
最初に口を開いたのはアイリスだった。
「りゅ、リュウタロウ……その魔術……どこで学んだの?」
「え? いやアイリスの家の書斎に面白い本があってさ」
「まさかあの神話からヒントを……?」
「え? あれ神話なの?」
その本は現実世界でいう、童話。いわゆる伝説上の話だったという。
「煉獄の槍はかつてこの世界一帯を支配した
「ええ、この世界でL8以上の魔術を使えるのは10人満たないか、くらいと言われていますわ」
「煉獄の槍を神話だけで……信じられません」
(ま、まじか……俺って今、
なんだろう、凄い魔術を使ったらしいのに釈然としない。
『さすがですね主様』
釈然とはしないが皆から祝福を受けたのでとりあえず乗っておく。
「な、なぁ今の魔術……」
背後から男の声がする。
「ん? 誰だ?」
いきなりの事で皆、警戒する。
「やめてくれ、俺は敵じゃない」
その男は俺たちに攻撃をしないよう要求した。
そしてその男は膝を立てる……
「なにをするつもりなんだ?」
「助けていただきたい! お願いする!」
(ど、土下座だとおーーーー!?)
その男は俺たちの前でいきなり土下座をかまし始めた。
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