第8話「学園」
今日から楽しい楽しい学園生活が始まる……
はずだったのだが、まさかの入学初日で女子生徒のスカートめがけて顔ダイブしてしまうという特大イベントを引き起こしてしまった。
言っておくが決してわざとではない。
さすがにそこまで廃れていない。
ただ魔力の扱いにまだ慣れていなかっただけなのだ。
俺は学園長に挨拶するため、学園長室へ。
「失礼します」
俺はそっと扉を開けて中に入る。
それに気づいた学園長が椅子を回転させ、こちらを向く。
「おお、君がバルクくん推薦の……」
「はい。この度当学園に入学させていただくことになった財前 龍太郎と申します」
「待っておったぞ、リュウタロウ殿。ワシはセントバーナー魔術学園、学園長のマーキス・セントバーナーだ。皆、わしのことはマーちゃんと呼んでいる」
(マーちゃんって……やけにフレンドリーだな)
見事にカールされたお髭が特徴の学園長だった。
「最初は不安なこともあるじゃろ。困ったらアイリス君始め、ワシにもどんどん相談してほしい」
「あ、ありがとうございます」
学園長というと固くてすごく怖いイメージがあったが、この学園長は優しそうだった。
「―――ところで……」
学園長は俺の腰を凝視する。
「な、なんでしょう……?」
「その腰に差しているものはもしかするとマグかの?」
「え。あ、はいそうですが……」
「おお、やはりそうであったか。実はワシは学園長の傍ら、マグの研究も行っている学者でもあるのじゃ」
どうやらこのヘッズナイトは見たことのないタイプのマグのようで今度見せてほしいと言われた。
俺は快く承諾し、その場を後にした。
次は教師室へと足を運んだ。
担任教師のエリカ先生に挨拶をする。
「あなたがリュウタロウくんね。担任のエリカよ。宜しくね」
「お、お願いします!」
色気たっぷりというかわざとなのだろうか?
胸元が激しく開いた姿に綺麗な紺色の髪を一つに束ねている、かなりの美人だ。しかもこれまた巨乳である。
俺は終始そっちの方にしか目がいかなかった。
よって話に集中していなかった。
「それじゃあ後は教室で説明するわ」
「え? は、はい」
結局話を聞いていないまま教室の前にまで来た。
エリカ先生が先に教室に入り、HRを開始する。
「今日はみんなに転校生を紹介するわ」
どうやら俺は名目上、転校生という扱いになっているようだ。
「それじゃあ入ってくださ~い」
エリカ先生が入ってくるように言う。
とうとうクラスメートとご対面の時間だ。
俺は緊張で心臓がバクバクだったが、最初の印象に全てをかけていた俺は緊張をはねのけて教室に入った。
「それでは自己紹介をお願いします」
「あ、はい。財前 龍太郎といいます。これから宜しくお願いします」
クラスメートから拍手をされる。
なんとか乗り切った。
正直この瞬間が一番緊張した。
この学園は広い教室に1クラス50人くらいだ。
右上の席にはアイリスの姿も見えた。
朝のHRが終わった途端、俺の周りには人だかりができていた。
転校初日に起こるイベントであり、俺がどんなやつなのか知れる機会というわけだ。
逆にここで悪印象を与えてしまうと華の学園生活が一気に暗黒の学園生活へと凶変する。
「―――リュウタロウくん! どこから来たの?」
「ちょっと遠い所から……」
「―――ドール大陸の人? それとも他の大陸から来たの?」
「まあ……うん…」
怒涛の質問攻めで押しつぶされそうだ。
でも逆にここまで興味を持たれたことが生涯で一度もなかったため、悪い気分にはならなかった。
休み時間はアイリスに学園の案内をしてもらっていた。
「しっかし広いなーこの学校」
「ベラード王国が大陸全土で優秀なマグ使いを育成するために創立した魔術学園だからかな」
これだけ広ければ、何年通っていても学園内で迷子になりそうだ。
案内されていると背後から俺の名を呼ぶ女の子の声が聞こえた。
「あ、あの……リュウタロウさん」
「ん? あ……」
その女の子とは今朝に俺がスカートダイブした女子生徒だった。
「えっと……その今朝の件は誠にご迷惑をおかけしたというかなんというか……」
「い、いえ……私こそ変な所にいたので……」
たじたじな俺に対して彼女は冷静だった。
「あ、あのこれ……落としましたよね?」
手渡してきたのは1枚のハンカチ。
確認するとポケットの中にあったハンカチがいつの間にか無くなっていた。
「あ、本当だ。ありがとうございます!」
「いえ、良かったです……」
「俺は財前 龍太郎。今日からここに転校してきたんだ」
「あ、はい。先ほど言っていましたよね」
(ん? 先ほど?)
「私は同じクラスのミル・セイント。影が薄いからリュウタロウさん気づかなかったかもしれないけど……」
(ごめんなさい、気づいていませんでした。まさか同じクラスだったとは)
でも一つ言えるのは彼女も相当な美人だと言うことだ。
肩までの黒髪セミロングに小柄だが、すらっとしたスタイル。
あまり全面的に出ているわけではないが俺の鋭い観察力からすると彼女は隠れ巨乳だ。
「あ、あの……そんなに見られたら……」
(はっ……! まずい。いくらなんでも凝視しすぎた)
「リュウタロウ~? なにミルの事じろじろみてるの~?」
早速アイリスに疑いの目を向けられる。
「い、いや。特に意味はないんだけど……」
「嘘ばっかり。どうせいやらしい目で見てたんでしょ?」
「見てるわけないだろ!?」
(まあ見てましたが、はい)
「私をごまかそうとしてもそうはいかないんだからね!」
「ふふっ、2人は仲いいんだね」
「べ、別に仲いいわけじゃないわよ!」
「ホントに~?」
「ホントよ!」
(なんだ、しっかり友達いるじゃないか。バルク団長がアイリスは友達がいないって言ってて不安だったけど)
「なに笑っているのよ!」
「いや、別にー」
無事に1日を終え、俺たちは帰る支度をしていた。
「初日の学園はどうだった?」
「うーん、難しい科目とかもあったけどみんな良い人たちばかりでなんとかやっていけそうだ」
「ならよかったわ。先に正門に行ってて。私はエリカ先生に用事があるから」
「分かった」
俺はアイリスに言われた通りに正門へと向かう。
「やっぱ異世界は最高だな! 現実世界とは比べ物にならん」
のんびり学園内を見ながら正門へと向かっていると3人の男子生徒が1人の女子生徒を囲んでいる光景が目に入った。
(ん? なんだ?)
背後に回り、見やすい位置へと移動する。
「なあ、お前のせいで服がこんなんになっちまったんだけど?」
「す、すみません。人がいるの気づかなくて……」
その女子生徒の手にはアイスクリームを持っていた。
よそ見をしていてあの男の服につけてしまったというとこだろうか。
「この制服、新品だったんだけどよー?」
「なあシラト、この女よく見たら美人じゃね」
「ああん? ほう……眼鏡で地味な感じを出しているが、確かにそうだな」
男たちは女子生徒に詰め寄っていく。
「なあ、俺たちも悪じゃねえんだ。ちょっと付き合ってくれたら今の事は無しにしてやるよ」
(はあ、なんでああいうやつっていつもいつもそっちの路線に走るんだか)
異世界ラノベで出てくる悪役で最も典型的な例が目の前で起こっている。
でもこのままじゃ彼女が危ないので助けることにした。
「ちょっとこっちに来てもらおうか」
女子生徒の手を掴もうとした瞬間、俺はそれを止めに入った。
「おい、何やってる?」
「あ? なんだてめえ」
鬼の形相で睨み付けてくる。ああ、怖い怖い。
「通りすがっただけだ。なにやら不吉な感じがしたんでね」
「なあちょっとその手を離してくれな―――」
いきなり殴りかかってきた。
だが俺はそれを華麗な身のこなしでかわす。
「ほう、今のをよけるか」
「シラト、あいつ噂の転校生じゃないか? 朝から女のスカートに顔突っ込んだっていう……」
ぐはっ! これは痛い。
やはりその噂は広まっていたか……ああ、今すぐ登校時にリセットしたい気分だ。
「ああ、例の変態野郎か。なんだ? お前もこの女に興味があるのか?」
「悪いがそんな悪趣味は俺にはないんでね」
とか言ってもあんなことが朝あったら説得力皆無なんだよなぁ……
「はっはっは! 女のスカートに顔突っ込むやつがよく言うぜ」
ごもっともである。
こればかりは反論できない。いくら誤解だとしても。
「だが、運が悪かったな変態。お前をただで返すわけにはいかないんだ」
シラトと言われる男は天に手を翳す。
「さあ出てこい! マーシャル!」
掛け声とともに一本のマグが現れた。
「さぁて、たのしませてくれよ?
どうやら一戦交えることになりそうだ。
あまり戦いたくはないがいたしかたない。
ヘッズナイトを構え、気を集中させる。
「
青いオーラと黒いオーラが対を成す。
「じゃあお手並み拝見といこうかねえ!」
彼は猛スピードで襲ってくる。
だが俺も負けてはいない。それを上回るスピードで相手を圧倒する。
「くっっ! 俺のスピードについてくるどころかそれを上回ってくるだと!?」
「悪いけど、これで終わらせてもらうよ」
相手の動きを見切り、懐に入る。
一気に切り上げ、相手をふっ飛ばした。
「くそっ! なんなんだあの強さは……」
俺は男の目の前でマグを向けた。
「勝負ありだ。あの子のことはあきらめてもらおうか」
「ちっ! おいお前ら、ずらかるぞ」
彼はその周りの男たちと共に逃げていった。
結果は俺の圧勝だ。
「大丈夫ですか?」
すぐに女子生徒の元へ駆け寄る。
「は、はい! 助けていただきありがとうございました! あの……お名前は?」
「財前 龍太郎。今日からこの学園に通うことになったんだ」
「転校生の方でしたか! どうりでみたことがないと……」
眼鏡をかけ、桃色の髪が特徴的な女の子だ。
この子もなぜか分からないが豊満な身体をしている。
ぶっちゃけ今まで会った女性陣の中でダントツにでかい。
なに? この世界の女の子はこれが普通なのか?
確かに俺の妄想上の異世界でも豊満な女の子は必ずと言ってもいいほどいたが。
「あ、自己紹介が遅れてしまいましたね。私は2年のイルーナ・ナイトメアと言います」
「よろしくね。イルーナさん」
「イルーナで大丈夫ですよ。リュウタロウ様」
(さ、様!? なぜに様付け?)
「あの・・・なんで様付けなの?」
「助けてくれた恩人だからです。あのまま助けていただけてなかったら今頃私は……」
「普通にリュウタロウで大丈夫だよ」
「いえ、リュウタロウ様と呼ばせてください!」
これもまた運命だろうか。
学園初日にしてイベント盛りだくさんの1日だった。
でもまあ、これから楽しくなりそうだ。
俺はそう思ったのであった。
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