第4話「相棒」
「す、すごい賑わいだ」
ここはドール大陸、世界でも3番目くらいに大きな大陸だそうだ。
そして俺たちはドール大陸北部の王都「ベラード王国」に来ていた。
海に近いことから主に漁業が盛んでベラードの魚介といえば有名らしい。
立ち並ぶ露店型の市場、赤レンガで出来た西洋風を思わせる住宅街。
まさに漫画やアニメに出てくるような世界そのものであった。
「やばいこれは興奮する! 異世界の王都……想像通りの世界じゃないか!」
「あなたは王都に来たのは初めて?」
銀髪靡くこの美少女はアイリス・リーベンバッハ
王国騎士団長を兄に持つ、おそらくエリートな家柄の少女だ。
「え、うん。初めてだけど…」
「そう、じゃあまずこのマグを兄に渡しに言ったらこの都を案内するわ」
「ま、まじですか!? ぜひお願いします!」
「なんでそんな興奮しているのよ」
確かにこの時の俺は鼻息も荒く、正直気持ち悪かった。
だが、こんな夢にまでみた世界に自分が立っているという現実を前に黙っていろっていう方が無理がある。
前方にそびえるのはこの国の象徴、ベラード城。
青色の塗装、装飾されたこの城は存在感の塊であった。
その城の手前にあるひときわ大きい建物が騎士団本部だ。
「ここよ」
彼女は本部の中に入っていき、後に続いた。
「お~アイリス無事着いたか」
銀髪で長身のイケメンがアイリスの元へやってくる。
(い、イケメンだとお~!?)
まあなんとなく妹さんのお顔を見て予想はしていたが、お兄さんも普通にハンサムだった。
「うん、兄さん。例のアレを持ってきたよ」
「おお~新しいマグか! ようやくだな」
彼はマグを持ったまま目を瞑って動かなくなってしまった。
(ん? なにをする気だ?)
するとマグから青白いオーラがアイリス兄の身を包み込む。
「我が正義の意志に答えよ……
蒼白いオーラがさらに濃く、強くなり、体全体を覆い隠す。
邪悪なものを一切感じない。
鋭い意志が光を通してこちらにも伝わってくる。
「なんだ? この心地よい光は……」
「兄さんの意志にマグが反応しているのよ」
「意志? じゃあこの光は」
「そう、兄さんの団長としての強い意志がオーラとなって表れているのよ。これが魔力の放流」
ものすごい力を感じた。
近くに立っているだけでなにかに身体を押されているような、そんな感じだった。
しかししばらくするとその光はだんだん弱まっていき、消えてしまった。
「あれ? 消えちゃったけど……」
「おかしいな、マグが呼応してくれない」
「やっぱりそうなのね」
「やっぱり? そういえば隣にいる男性はどちらの方なのかな?」
「え? ああ、彼はリュウタロウ。私が道中で盗賊に襲われているのを救ってくれたの」
するとアイリス兄は一気に表情を変えた。
「な、なに!? 盗賊に襲われただと? 大丈夫だったのか?」
「うん、大丈夫。彼が助けてくれたから」
「すまない、うちの妹が迷惑をかけた」
アイリス兄は深々と頭を下げた。
「い、いやいやいや頭上げてください!」
「いきなりのことでアイリスに護衛をつけることができなかった私の責任だ」
彼は自分の妹を傷つけてしまったということに大きな後悔があるのだろう。
「自己紹介が遅れてしまって申し訳ない。私はベラード王国、第1護衛騎士団『祇王騎士団』団長のバルク・リーベンバッハだ。宜しく頼む」
「財前 龍太郎です」
握手をしようとした時、俺は団長の右手に剣で切り裂かれたような古傷があるのを見つけた。
(か、かっけええ! 歴戦の古傷ってやつか!)
「ところでリュウタロウ、君は変わった格好をしているがどこから来たのだ?」
古傷ばかりに目がいってしまい、いきなり質問されたのでびくっとした。
「へっ? いやそのちょっと遠い所から」
「彼は放浪者なのよ」
アイリスがすぐに答える。
「なんと、さすらいの旅人というわけだな? ではここにきたのも初めてか?」
「あ、はい。まず王都に来たのが初めてですね」
するとバルク団長はニッコリと笑った。
「そうかそうか、ならアイリス。ベラードの町を彼に案内してあげなさい」
「この後行くつもりだったわ。ところでそのマグの事なんだけど……」
アイリスは道中で盗賊に襲われた所から俺がマグを使って撃退したことまでをすべて話した。
「なるほど、そういうことがあったのか。確かにこのマグは私しか使えないはず……」
バルク団長は俺の方を向き、先ほどのマグを手渡してきた。
「リュウタロウ、もう一度このマグを呼応されてはくれないか?」
「え。でも俺あの時は必死でどうやって使ったか覚えていないんです」
「それなら私が教えよう」
俺は魔力の放流の仕方を団長から教えてもらい、マグを握った。
「深呼吸するんだ! 気を心臓に集中させろ!」
「は、はい!」
「落ち着いたら自分の意志をマグに伝えさせるんだ。なんでもいい、自分が願うことをマグに伝えろ!」
自分の願い……それは!
マグが俺の意志を受け取り、大きな光の渦ができた。
やがて渦は巨大化し、俺の身を包み込む。
光の渦はとどまることを知らない。さらに大きく、激しさを増す。
「今だ! 唱えろ!」
「
詠唱とともにその光が爆発的に膨れ上がる。
体が熱い、これがマグの力……!
「なんて魔力だ。こんなの今まで見たことがない」
「兄さん、彼の魔力は……」
「ああ、普通じゃない」
マグが蒼く強い光を放つ。
(この鼓動、高揚感。力が湧き上がってくる!)
力はどんどん膨れ上がる。
「よし、もうその辺にしておけ」
「え、え? ど、どどどうやって止めるんです?」
さっきより一層光が鋭くなる。
「気を静めるんだ。気持ちを落ち着かせろ」
「気持ちを落ち着かせる……」
すると光が収まっていき、渦が消えた。
「ふう……」
「すごい力だ。君は高級魔術師なのか?」
「いえ、魔法とか知りませんし……」
「な、なんだと!? では魔術は使えないのか?」
「え、ええ」
団長の表情は凄いを通り越して呆れていた。
「どうやらこのヘッズナイトは君を選んだようだ」
「え、まじですか」
「あのようなマグの輝きを私は一度も見たことがない。これは君に託そう」
そういうと俺はマグをそっと受け取った。
「これからそいつはお前の相棒だ。大事にしてやれよ」
[相棒……か」
(異世界へ来て初めての相棒……やばいニヤける)
俺はヘッズナイトを天に掲げた。
「よっしゃ~これからお前は俺の相棒だ! よろしくな!」
マグが蒼く輝き、俺に答えた。
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