第24話「誘惑」
アイリスは俺をいきなり押し倒してくる。
「あ、アイリス……?! 何を……」
「……ここまでしても分からないの?」
彼女の息が段々荒くなっていく。
「いや、だからその……ていうか服を脱がないでくれ!」
「どうして? 服を着ているとできないじゃない……」
「で、できないって……」
(か、顔が近い……!)
美少女が俺をベッドに押し倒し、上にまたがる。
まさか……俺、アイリスと……
彼女の吐息が俺の肌に触れる。
アイリスがそっと目を閉じる
俺はここで初体験を迎えるのか……
俺もそれに答えるように目を閉じる。
―――バタンっ!
「リュウタロウ様、ここにいるのですか?」
イルーナとミルが部屋を扉を強く開けてきた。
「あ……」
「え……」
「あ、あの……えと……その……」
イルーナはその場で立ち尽くす。
そして一気に顔色を変えた。
「何していますの、リュウタロウ様」
「リュウタロウ……さん?」
「ご、誤解だ2人とも! あ、アイリスもなんか言ってくれぇー!」
「え……私はただお礼を……」
「いや間違ってるからお礼の仕方!」
「リュウタロウ様、じっくりお話しをお聞かせくださいまし」
「いやだから誤解……」
「リュウタロウさんがこんなに不純な人だったなんて……」
2人は完全に信じ込んでしまったみたいだ。
「頼むから俺の話を聞いてくれぇぇぇぇぇ!」
―――それからしばらくして。
「そ、そういうことだったのですね。すみませんてっきり」
「すみません先走っちゃって」
「い、いや分かってくれればいいんだ」
「りゅ、リュウタロウ……ごめんなさい。私の勘違いが誤解を……」
「ま、まぁ仕方ないさ」
まさかアイリスが殿方に心から礼をするときに自分の身体を捧げなければならないみたいなことを思っていたなんて驚きだ。
「あ、アイリス……一体それはどこで教えてもらったの?」
「兄さんだけど……」
(あの人……自らの妹に変なことを……)
「でもまさか常識じゃないなんて……うう、死にたい」
熱があるんじゃねえかってくらいにアイリスの顔が真っ赤に染まる。
ただなんだろうか。少しだけ……いや結構残念な気がしてならない。
もしあのままいっていたら……いやいや変なことは考えないようにしておこう。
「リュウタロウどうしたの?」
「へ? い、いやなんでもない」
でも理性崩壊しなくてよかった……俺も言ってしまえば1人の雄。もう少し踏み入れられていたらどうなっていたか分からなかったな。
とりあえず俺は場の雰囲気を改めるために話題を変える。
「ご、ゴホン。で、イルーナたちは何か用があったの?」
「そうでしたわ! リュウタロウ様、これを」
渡されたのは1枚のニュースペーパー。
「こ、これは……」
「はい。この前王都を襲撃しようとした謎のギガンテスの痕跡がナパード公国付近で発見されたみたいですの」
「ということはこの前のギガンテスは……」
「ナパード公国によるものの可能性が高いですわね。この記事を見た後、すぐさま王都から連絡がありましたの」
「王都から?」
1枚のニュースペーパーと共に1通の手紙も同封されていた。
そこに書かれていたのは……
「氷の国の調査……か」
「これは王都から私たちのギルド宛てに来ていましたわ」
「ギルド名義で極秘に調査に行ってほしいということなのか……?」
「恐らくそういうことでしょうね」
「王都からの命令によると今回の任務は監視みたいです」
「監視?」
「ナパード公国にはスノープリンスの問題もあります。今王都が目をつけている施設が1か所あるみたいで」
「どんな施設なんだ?」
「襲撃してきたギガンテスみたいな人工的に生物を作り出す実験をしているとかなんとか。中には生身の人間の身体を使って実験をしているとの噂もあります」
「う、嘘だろ……」
話を聞いただけでぞっとする。人体実験が当たり前のように行われている国なんてろくなもんじゃない。
まぁまだやっていると決まったわけではないが。
「あの国で裏の組織の権力が高まりつつあるらしいのです。ナパード公国とは間接的とはいえ貿易相手の一角なので調査をしてきてほしいと」
「なるほどな。で、返事はいつまでなの?」
「一応今日中に返事がほしいとのことです」
「きょ、今日中か。みんなどうする?」
「どうするって……ギルドリーダーはリュウタロウなんだから私たちはそれに従うわ」
そういうこと言ってもなぁ……この世界のことまだ知らないし、調査したところで俺たちにメリットがあるのかも分からない。
と、思っているとミルが思いついたかのように、
「あ、これを言うのを忘れていました。今回の調査を承ってくれるのなら陛下からなんでも1つだけ褒美をくれるそうですよ」
「な、なんでもだと……?」
「あ、はい……」
俺たちが困っていたのがギルドを運営するためのお金が不足していたことだ。
これまでクエストには何回か挑戦していたのだが、貯蓄するほど貯めるのは厳しいことを重々承知した。
今回の任務が上手くいったのなら前と同様になんでも褒美が貰える。
(ギルドの貯蓄額とわずかな土地があれば……)
俺は異世界物ラノベで培った知恵を振り絞り、国造りのためのビジョンを描き出す。
「いける……いけるぞ!」
「何がです?」
(はっ! やばいやばいつい声に出てしまった)
「い、いや……ちょ、調査に行けるって意味だよ。み、みんなは行けそう?」
ぎこちない返答だ。
でも皆、不信感を湧くことなく返事を返してきた。
「私は問題ないわ」
「賛成ですわ」
「異論はありません」
「よ、よしじゃあ今すぐ王都へ返事を返してくれ。準備ができ次第、出発だ!」
(よ、よかった……バレルところだった)
ちなみに国を造りたいという夢は彼女たちには伝えていない。
なぜかって? 理由は単純。バカにされるのが怖かったからだ。
国を造ろうだなんて言ったからみんな腹抱えて笑うだろうと思ったからだ。
罵倒とかはいくらされてもいいが夢自体をバカにされるのだけは少しばかり不安があった。
「リュウタロウ様、学園にはどう伝えますの?」
「ん? 許可をもらっていないのか?」
「はい、まだこのことは……」
「なら今すぐ伝えてくれるかミル」
「分かりました。任せてください!」
「よしじゃあ各々準備を進めてくれ!」
3人はそれぞれ準備のため部屋に戻る。
外を見るともう既に日が落ちていて真っ暗だった。
「さてと……俺も準備する前に一風呂入ってからにしますかね」
そして俺は風呂に入るべく、浴室へと向かった。
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