第30話「対決」
「くそっ! なんて重い攻撃なんだ」
俺たち3人は『天界の奇術師』ことファックス・レイ・バーレンシュタインとの戦闘に苦戦していた。
「なかなかやりますね。さすがに3人をまとめて相手にするのはキツかったですかねぇ」
「3人掛かりで攻撃をしているのにピンピンしてやがる」
「やはり一筋縄ではいかないみたいね」
3人で一斉に攻撃をしかけても攻めきれない。
とにかく相手に隙はなかった。
「もうちょっと楽にいけるかと思ったのですが……いたしかたないですね」
すると彼は複数の魔法陣を展開し、詠唱を始める。
「いでよ、エルダーゴーレム。彼等を駆逐するのです!」
錬金術によりいかにも堅そうな金属を纏ったゴーレムが2体、姿を現す。
「おいおい、3体目は出さないのか?」
「あえて出さなかったのですよ。私は彼と一度、1対1で戦ってみたくてね」
そう言うと彼は俺の方へと目線を合わせてくる。
「なるほどな。どうやらあいつはリュウタロウ殿に興味深々のようだ」
「リュウタロウ、彼の相手は頼んだわ」
(いや、頼んだとか言われてもな……)
「さて、続きをしましょう。
「ここまでお膳立てしてでも戦いたいわけか。だったらやるしかないな」
「それではいきますよ!」
瞬間。彼はもう目の前にはいない。
「どこだ、どこへいった?」
『主様、上だ!』
「くっっっ!」
上から振り下ろされる重い一撃を受け止める。
相変わらずの重い攻撃に手からつま先まで痺れるのを感じる。
こいつ、やはり剣術も一流だ。
「ほう、またも私の一撃を受け止めますか。では!」
ファックスはその場でじっとして動かなくなる。
「……何をするつもりなんだ?」
『気をつけろ主様、強大な力を感じる』
「強大な力?」
だが、その強大な力の意味が時間が経つにつれて理解できるようになる。
ものすごいオーラだ。見えないが身体が震えているのが分かる。
これは恐らく……恐怖による震えだ。
「お待たせいたしました。準備はよろしいですか?」
「俺はいつでもOKだ」
「それでは……」
「……!」
またも先ほどと同じく消える。
「くっ……またか」
「リュウタロウ後ろ!」
「なに!?」
「遅いですよ!」
「うわーーーーっ!」
俺は盛大に吹き飛ばされるが、ヴィーレの加護と持ち前の運動神経でなんとか立て直す。
「ほう、あれほどの強力な一撃を受けて立て直しますか。面白い……」
戦況は防戦一方だった。
ガードはできても攻撃に移れない。
「くそっ、なんて隙のない攻撃だ」
このままではやられるのも時間の問題だ。
どうする……?
『主様、私のリミッターを……!』
「……いや、その必要はない」
『それはどういう……』
俺はその場で停止。目を瞑る。
「おや、目を瞑って何をしようと? 諦めたのですか?」
だが、俺は目を瞑って黙り続ける。
「そうですか、分かりました。ならせめて最後くらいは一撃で仕留めさせていただきますよ!」
マグを構えて俺に向かってくるファックス。
どんなに速い攻撃でも一瞬の隙というのは必ず生まれる。
奴の鼓動、音、タイミング。感じ取れるものは全て感じ取るんだ。
ここは異世界だ。俺もこの世界の住人としての身体が出来上がりつつある。
もしそうだとしたら……そこか!
―――ガシャン!
「なんだと!?」
俺の予想は的中。
ファックスの一撃を無効化し、その隙をついて攻撃を叩きこむ。
「はぁーーーーーー!」
「うおっ!」
ファックスをマグ諸共吹き飛ばす。
だが、相手もそれなりの猛者。すぐに態勢を整える。
「くう……やりますね。まさか目を瞑ったまま私の攻撃を読むとは予想外でしたよ」
「こういう類の攻撃は冷静に感じ取ればなんてことはない」
(まぁ正直、成功するとは全然思ってなくてほぼ賭けだったんだけどな!)
だが、確かに今の一撃は感じることができた。
俺の推測通りこの世界に来てから非人間的な事ができるような身体になってきているみたいだ。
「なるほど、プリシア様が警戒するのも納得ですね」
「プリシア様……?」
「では、私もそろそろ本腰を入れされていただきましょう。エルドラド!」
彼のマグの影響だろうか。ドーム型の結界が俺たちをすっぽりと覆う。
「くっ……ようやく蹴りをつけられたぜ」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
アルベルトさんとアイリスもなんとか金属ゴーレムの撃退に成功したようだ。
「おや? エルダーゴーレムをもうお倒しになったのですか。これまた想定外ですねぇ」
「リュウタロウ殿、これは一体」
「分かりません、結界のようですけど」
「嫌な予感がするわ」
そしてファックスは地面にマグを突き刺す。
そしてマグから離れていく。
「さて皆さん、全員お揃いというわけで第2ラウンドといきましょうか」
「第2ラウンドだと?」
「穿てエルドラド!
その瞬間、とてつもない重力が俺たちを襲った。
「なっ、なんだこの凄まじい重力は!」
「くそっ……動けん!」
「これは……固有……能力?」
「ご名答。これは私のマグ、エルドラドの
「なるほどな。こんな能力もってりゃ誰も勝てないわけだ」
「そうですねぇ。できればこの能力はあまり使いたくなかったのですが、あなた方はそれなりの実力をお持ちのようでしたので」
「俺たちの実力を認めた……ということでいいのか?」
「ええ、あなた方は素晴らしい冒険者だと思いますよ」
「『天界の奇術師』にそんなことを言われるなんて思わなかったわ」
「そうですか、それは良かったです」
そして彼は俺たちの方へゆっくりと近寄ってくる。
「最後は私の持つ最大の魔術、ヘルブラスターで止めを刺させていただきます」
「L6級レベルの魔術……なるほど奇術師と言われるのは……」
「その通りですよ反逆姫の親衛隊長さん。私は錬金術を主とした仕事をしていますが、本業は魔導士です」
「ふっ……こりゃどうすることもできないな」
「そうですね……でも、重力ごときで簡単に屈するほど軟ではありませんよ」
「……!」
俺は気合いで立ち上がり、マグを構える。
(重すぎだろ! 身体が今にも押し潰されそうだっつーの!)
「バカな……普通の人間なら立つことは決してできないはず……」
「リュウタロウ……」
「そうかもな、でも俺には相棒がいる。こいつとなら人間の領域なんて軽く超えられるさ」
『そうだな。化け物級の魔力を持つ主様なら人間の領域なんて越えられるだろうな』
「なにっ!? マグが喋っただと!」
「お前、今更かよ。さっきからちょくちょく喋っていたぞ?」
「ははははは……! 面白い、面白いぞ!
「そりゃどうも」
「これは私もそれ相応の対応で答えなねばなりませんね」
「俺もだ。やられた分はやり返す! いくぞヴィーレ!」
『おうよ!』
「そこまでよ」
どこからか女性の声が聞こえる。
「いつまで遊んでいるのかしらファックス。それとも貴方が苦戦するほどの相手だったのかしら?」
(あいつは……)
その女性とは先ほどここを視察しにきた本当の殺戮姫、プリシア・ナパードだった。
「申し訳ございません、プリシア様。彼らの能力を少々過信しておりました」
「撤退よファックス。ここはもう捨てるわ」
「はっ! 承知いたしました」
「ザイゼン・リュウタロウと言ったかしら?」
「なぜ俺の名前を……?」
「有名よ。それと前のギガンテス討伐、見事だったわ」
「前の……? ということはもしかして……」
「ええそうよ。ギガンテスをベラードに送ったのは私よ」
「なぜそんなことを……」
「マグの
「そういうことだったのか」
「最後に忠告しておくわ。貴方たちがどんな目的で此処に来たのかは知らないけど、これ以上私の邪魔をするなら容赦はしないわ。覚えておきなさい」
この炎に囲まれた地でプリシアはそれだけを述べると炎の中に消えていった。
「それでは皆様、私もこの辺でお暇させていただきます。ザイゼンくん、君とまた戦える時を楽しみにしていますよ」
そう告げると、ファックスはその場から消え去ったのだった。
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