第10話「決闘 前編」

 時に俺、財前 龍太郎は学園の屋上にいた。


「はいリュウタロウ様、口を開けてくださいまし」


 俺は屋上で1人の女子生徒に《あーん》をさせられそうになっていた。


「い、イルーナ。自分で食べられるから大丈夫……」

「いいえ、ぜひワタクシに食べるお手伝いをさせてください」


 俺は彼女の《あーん》を拒むも、積極的すぎて結果的にすることになってしまった。


「あ、あーん……」


 太めに巻いてある厚焼き玉子を口に運ぶ。

 いや・・・運ばされるが正しいか。

 そして一口食べる。


「ど、どうですか……?」


「……! 旨い!」


 そのおいしさは今まで食べた厚焼き玉子をはるかに凌駕していた。

 口に運んだ瞬間、ほんのりとした甘味が広がり後味はくどい感じで終わらずさっぱりとしている。

 正に天下一品と呼べる厚焼き玉子だった。


「よかったですわ。お口に合うか心配で……」

「いやいや本当においしいよ。ありがとうイルーナさん」

「その”イルーナさん”っていうのやめてくださいます? 普通にイルーナと呼んでください」

「え、でもまだ出会って間もないのに……」

「関係ありませんわ! しかもあのアイリスさんという方には”アイリス”って言ってましたのに……」


 イルーナはさらに俺の方へと近づいてきた。

 寄せているからかいつにもまして豊満な胸がより大きく感じる。


「わ、わかった。これからはイルーナって呼ぶよ」

「はい! お願いいたします」


 するとイルーナは次のおかずを俺の口元に運ぼうとする。


「ま、まだやるの?」

「はい、ワタクシがそうしたいのです」


(そう言うが、これ結構恥ずかしいんだよなあ。めっちゃ見られてるし……)


「はい、リュウタロウ様」

「あ、あー……」


「何をやっているのよ、リュウタロウ」

「あ、アイリス!? いつからそこに……?」

「ほんの数分前からよ」


 気配を消していたからか全くアイリスの存在に気づいていなかった。


「それで……? 今、ここで何があったか説明してもらおうかしら」


 見た感じで何となく分かる。彼女は不機嫌なご様子だった。


「いや何があったかって……イルーナからお弁当を頂いていただけだよ」

「本当にそうかしら? 私は何か《あーん》している所を偶然見ちゃったんだけど」

「なっ……!」


 偶然とは面白いものでこういう時に限って見られていたりする。


「あら……あなたは今朝の……」

「アイリス・リーベンバッハよ。あなたリュウタロウとどういった関係なの?」

「ワタクシはただリュウタロウ様に助けていただいたお礼がしたくて尽くしているだけですわ」

「でも、あそこまでする必要ないんじゃないかしら?」


 2人の言い争いは段々とヒートアップしていく。

 アイリスが何か言えば、負けじとイルーナが食らいつく。


「あなたこそリュウタロウ様とはどういったご関係で?」

「私はその・・・リュウタロウのご主人様よ!」


「……は? アイリスなにを……」


「ご主人様……? ということはアイリスさんとリュウタロウ様は互いに主従関係を結んでいると?」

「ええ、そうよ。だからリュウタロウに命令する権利は私にあるの」


「おいいいいい! なに話を勝手に進めてんだ?」


「なるほど……そうでしたか。しかし今はワタクシとリュウタロウ様の時間。いくら主従関係を結んでいるからと言っても邪魔する権利はありませんわ」


「おいおい、イルーナも信じないで……」


 もう2人には俺の声は届いていなかった。

 というかどんな展開だよこれ。

 俺は普通に屋上で弁当を食べようと思っていただけなのにこの修羅場は。

 異世界人恐るべし……


「なら決闘デュエルでどうかしら?」

決闘デュエル?」

「ええ、1対1の決闘デュエルよ」

決闘デュエルですか……分かりました、お受けいたしましょう」


(んんん? なんか大きなことになっているんだが? 決闘デュエル?)


「そういえばまだあんたの名前聞いていなかったわね」

「ワタクシはイルーナ・ナイトメア。アイリスさんと対峙できるなんて光栄ですわ」

「私もナイトメア家のご令嬢相手なら不足はないわ」


 両者の間に火花が散っているのが俺には見えた。

 2人とも本気である。

 なんのために争う必要があるのか未だに謎だが。


決闘デュエルは今日の放課後、いい?」

「異論はありませんわ」


 ということで今日の放課後、訓練場にて決闘デュエルが執り行われることになった。


 午後も魔術による実習訓練が行われ、アイリスはこの後の決闘デュエルに向けて、ウォーミングアップをしていた。


「すごい気合いだねアイリス」

「当たりまえよ。決闘デュエルを申し込んだのは私だし、負けるわけにはいかないわ」

「それはまあいいと思うが、その前の主従関係の話はどういうことだ?」

「仕方ないじゃない。あんたが不純異性交遊をしないようにするために守ってあげたというのに」


「あれは不可抗力だ! 俺が望んでしてたわけじゃない」

「すごい鼻を伸ばしていたのは気のせいかしら」

「お、俺は別に鼻なんか伸ばしてない!」


 強気なことを言っているがまずあの状況でなにも感じない方がある意味凄いと俺は思う。

 大抵、恋愛とかに無縁の男はああいうことされるとほぼ一撃で落ちる。

 それが美少女となると確率はさらに高まる。

 俺はまだ理性を保っていただけましな方だろう。

 イルーナは恐らく女子生徒の中でも唯一アイリスと肩を並べられるほどの美少女だ。

 眼鏡をかけて地味な演出をしているが俺の勘がそう言っているので間違いない。


 1日かけて終わった実習訓練が終わり、いよいよその時が近づいてきた。

 あらかじめ決闘デュエルをするには事前に担当教師に許可をもらわなければならない。

 許可は既にエリカ先生から貰っていた。


 場所は訓練場にある決闘デュエル専用に作られたコロシアム内で行われる。

 しかも一番驚いたのは物凄い多くの観客がいるということだ。

 どこから噂が漏れたのか知らないが、結構な数の観客が入った。


 それもそのはず、2人は学園でもトップクラスの戦闘能力を持っており、マグ使いのリーベンバッハ、魔術使いのナイトメアと言われるほどの名家同士の戦いだからだ。

 リーベンバッハ家は古来よりマグの扱いに長けているらしく、対してナイトメア家は魔術に関する知識は大陸随一との呼び声が高い。

 とまあこんな名家同士がぶつかり合うのだから人が見に来るのも当然である。


「それでは只今より、アイリス・リーベンバッハとイルーナ・ナイトメアの決闘デュエルを催す」


「おおおおおおおおおお!」


 凄い歓声だ。まるでサッカーのワールドカップの試合を見ているかのような気分だった。


 両者が選手入場口から出てくる。

 凄い熱気でコロシアム内が暑く感じる。

 言い争いからこんな大事おおごとにまで発展するとは思わなかったが実際どっちが勝つか気になる自分もいた。


「準備はいいかしら?」

「ええ、いつでも」


 互いに相手を見つめ合う。


「両者、マグを構え!」


 コロシアム内に緊張感が走る。


 そしてこの注目の戦いがこれから始まろうとしているのであった。

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