第12話「共闘」
ここはセントバーナー魔術学園、ミーティングルーム。
アイリスの話によるとここに集まるよう、学園側からテレパシーを通じて伝えてきたらしい。
「みんなもう集まっているか?」
ミーティングルームには数十人の生徒たちが招集されていた。
いわゆるこの学園でのエリート格の
そしてそこにはクラスメートであるミルの姿もあった。
「リュウタロウさん」
「あ、ミルさん」
「ミルでいいですよ。私がさん付けで言われるとなんか違和感あるので……」
「ご、ごめん。気を付けるよ」
「あ、いいえ! こちらこそすみません……」
彼女と話している時はどこかぎこちない。
だけどそんな控えめな彼女もここに呼ばれたわけだから実力は相当なものだということだ。
そして人だかりができている所の中央にいるのが……
「なあアイリス。あそこにいる金髪の女性は誰なの?」
「彼女はこの学園の生徒会長であり、ナンバーワンのレーネ・セントバーナー。学園長の娘さんよ」
これには驚いた。
学園長が親でその子どもが生徒会長なんて漫画やアニメの世界だけだとずっと思っていたからだ。
異世界に来てからなんだか発見ばかりだ。
でも逆にそれが新鮮で楽しんでいる自分がいた。
指揮は基本的にレーネ会長が取り、それに従うのが定例。
こういうことは過去にもあったらしく、珍しいことではないが今回は普段より
「以上だ。皆、絶対に無理はするな。王都の方にも救難信号は出している。無理だと判断したらすぐに離脱するんだ」
作戦事項を伝えられ、いざ戦闘へ。と、思っていたらいきなり会長直々に声を掛けられた。
「ちょっとそこの君、いいかな」
「あ、はい。ごめんアイリス先行ってて」
「え、ええ……」
俺は会長の元へ。
「な、なんでしょうか」
「見ない顔だな。新入りか? sクラスにもAクラスにも君の名前はないが……」
「す、すみません! 俺、まだ転校してきたばかりで……でも
俺はてっきり怒られるのかと思っていた。
しかし、彼女は逆に『ふっ』と笑って、
「ザイゼン・リュウタロウ……だろ? 話は父から重々聞いている。初日からやらかしたみたいではないか」
(うわーまじか……もう既にあのスカートダイブ事件はここまで来ていたか……)
変な噂で有名になっていることを確信し、落胆する俺。
「だが、君の実力も相当なものだとバルク先輩から聞いている」
「バルク団長から……?」
「ああ、あの人は私にとっては憧れの人だった。だからこそ信用できる。期待しているぞ」
レーネ会長はそう言ってミーティングルームを去っていった。
「よし! 一発やってやるか!」
俺は一層気を引き締めた。
* * *
戦闘区域は緊張感に包まれていた。
相手は以前対峙した
しかも今回は王都の事件とは比べ物にならないくらいの数だった。
20、いや30はいるな。あのデカ物が30匹もなんて想定外だった。
「B小隊、遅れるなよ!」
俺たちはそれぞれ小隊を組み、討伐へとあたった。
俺、アイリス、イルーナ、ミルはレーナ会長が指揮をするA小隊だった。
「皆の者、気を引き締めてかかるぞ!」
「おーーーーーー!」
会長の討伐開始の合図と共にアークビーに攻撃を仕掛ける。
「
皆、次々とマグを召喚する。
「いくぜ、相棒!」
先陣を切るのは生徒会長、レーナ・セントバーナー。
その圧倒的スピードに目が追い付かない。
しかも彼女はマグを使わず、対魔獣用片手剣一本で戦っている。
片手剣を抜いたと思ったらいつの間にか敵の懐へ潜り込み、一斬。
相当な実力者だ。
「ぎゅあああああああああああああああああ!」
負けじとアークビーも威嚇するが、会長の前では力及ばず、次々と倒されていく。
「1匹であそこまで苦戦した相手あんな簡単に……」
その圧倒的な強さに他の討伐隊も刺激を受ける。
「俺たちも会長に負けてられねえ! どんどん攻めるぞ!」
レーナ会長の活躍で隊の士気が上がる。
俺も負けてはいられない。
「アイリス、イルーナ、ミル! 俺たちも行こうぜ!」
「ええ、元よりそのつもりよ!」
「初めての共同作業……ふふふ」
「支援します!」
先陣を切り、まずは敵の腹部を斬りつける。
コンボを重ねるようにアイリスとイルーナが同時攻撃。
2人ともさっきまでいがみ合っていたとは思えないくらいの連携だ。
「さすがアイリスさんですわね」
「あんたこそ、相変わらずの凄いパワーね」
だが、倒してもすぐに敵は現れる。
「休む暇はないようだな」
「ええ、そうね」
「腕が鳴りますわ」
戦況はこちらが優勢だ。
一気に攻め、アークビーたちを追い詰める。
「あともう少しだ! 最後まで気を抜くな!」
どうやら王国軍の救援は必要なさそうだった。
というか、正直会長1人で十分なんじゃないか?
マグも魔法も使わず剣術だけであそこまで戦えるのは相当なことだ。
だが、会長の顔に笑みはなかった。
なぜだ? ここまで押しているというのに……
「ん? なんだろうこの感覚……」
「リュウタロウ? どうしたの?」
「いや、今物凄く邪悪なオーラを感じたような……」
「邪悪なオーラ……?」
だが、不運にもその予感は的中してしまった。
引いていくアークビーの背後になにやら大きい影が姿を現した。
「……まずい! 皆の者下がれ!」
いきなりの指示に戸惑うが、皆すぐに後退する。
次の瞬間だった。
「きゅああああああああああああああああああああん!」
謎の影はいきなり攻撃を仕掛けてきた。
その一撃は凄まじく、大地は割れ、大きな地震まで引き起こした。
あと一歩遅ければ全員ただじゃ済まなかっただろう。
「こ、これは……!」
それは今までアークビーの中で一番の巨体であり、形状はまるで鳥のような形をしていた。
今までの相手とは別格だということはすぐに分かった。
「全小隊、こいつは今までの
「会長1人だけに背負わせるなんてできねえよ!」
「そうだ! 俺たちも戦う!」
他の小隊は撤退の意図を示さない。
「これは指揮官命令だ! 今すぐ撤退しろ!」
謎のアークビーは次の攻撃を仕掛けてくる。
しかもこいつは……早い! 今までの奴らとは比べ物にならない。
怒涛の攻撃は複数の小隊を襲った。
「ぐはっっ!」
「た、隊長! て、撤退だ!」
力の差を感じたのか次々と撤退していく。
「よし、それでいい。お前たちも早く逃げろ!」
俺たちにも逃げるよう催促する。
だけど俺たちは身を引くことはなかった。
「会長……あなたはあの化け物に1人で勝てる自信があるのですか?」
「どういうことだ? ザイゼン・リュウタロウ」
「自分を囮に使うなんてやめてくださいよ。俺にも戦わせてください」
「君たちAランクレベルのマグ使いに何ができる? あいつの力はその眼でしっかり見たはずだ」
「そんなの関係ありませんよ! 1人より2人、2人より3人。協力すればその力も大きくなるじゃないですか」
「私はお前たちを死なせたくないだけなのだ。君たちを死なせたら私の責任になる」
あの圧倒的強さを見せた会長ですらここまで言っている。
邪悪なオーラに身を包んだあの化け物の強さは俺たちの想像のはるか上をいっているのだろう。
それでも俺は逃げたくなかった。
可愛い女の子を残して男として引き下がれない。
「俺は会長の憧れの人に認められてここに来ています」
「……!」
「だから……!」
「私たちも同意見です会長」
「ええ、こんなところで引き下がれないですわ」
「わ、私も1人のマグ使いですっ」
アイリスたちも戦う気満々のようだ。
すると会長は笑みを浮かべ、
「ふっ……命知らずな奴らだ。それなら共闘といこうじゃないか」
「そうこなくっちゃ!」
俺たちは一斉にマグを構える。
ちくしょう、こんな時だってのに楽しくなってきやがった。
こんな気持ち、今まで感じたことがない。
「さあ、やってやろうぜ!」
「ええ!」
「ですわ!」
「はい!」
俺たちは強大な敵を前に今一度、結束を固めるのであった。
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