第14話「覚醒」

 マグを構える5人の使い手、それに相対するのは1体の巨大な魔獣ビースト


 そして戦いは第2回戦を迎えようとしていた。


「はぁーーー!」


 レーナ会長の豪快な一振りは魔獣ビーストの左腕部に命中した。

 先ほどと同じようなマグによる怒涛の連撃。

 何度見ても爽快感MAXだ。


 再度魔獣ビーストは転倒する。

 ここで一気に総攻撃。


「応えろ! ヘッズナイト!」

「ムル・フラガ、私に応えて!」

「行きますわよ! ナターシャ!」


 魔力をマグに充填。

 そしてその重い一撃を魔獣ビーストのコア部分へ。

 重い一撃を3発もくらったらさすがの化け物も厳しいだろう。


 俺の一撃はコアの中心部分に命中。

 アイリス、イルーナもそれに続く。


「ぎゅああああああああああ!」


 だが、奴はまだ立ち上がる。


「効いていないのか?」


 すると、魔獣ビーストはいきなり口を開け、行動を起こす。


「攻撃、来るぞ!」


 次の瞬間、口内から特大なビーム砲が放たれた。

 ギリギリ回避できたものの、凄まじい威力だ。


「あ、あいつあんなこともできるのかよ」

「あんな攻撃……今までの魔獣ビーストなら考えられないわ」

「もう一種の違う生物と考えるのが正当ですわね」


 まさか口からビームを吐くとは……


 圧倒的な破壊力に驚くも、俺たちは屈することはなかった。


「次にどんな攻撃が来るか分からない。油断するな」


 俺たちは連携を組み、弱点部分に攻撃を次々と命中させる。

 定期的にダメージを負えば、再生できるとはいえひとたまりもない。


 奴の動きが鈍くなった。

 全力の一撃をくらわすには絶好の好機だ。


「よし、今だ! 一斉攻撃!」


「ナターシャ! 2人の援護を!」


 イルーナがマグにより植物生成で動きを止める。


混沌嵐カオスストーム!」

麗火演舞フラム・レイ!」


 俺とアイリスの一斉攻撃があのでかぶつの身体を貫く。


「ぐぅああああああああああ!」


 悲痛な悲鳴を上げる。

 そしてそのまま豪快に倒れ込む。


「お、終わったか?」


 辺りが静まり返る。

 でかぶつは一向に動く気配はない。


「終わったようだな」


 見渡せばさっきより酷い光景となっていた。

 これを見ればいかに激しい戦いだったということが分かるだろう。


「やっとか……」

「手強い相手でしたわね」

「正直、今回はやばいと思ったわ」

「この件についてはすぐに王都へ報告する。皆、ご苦労だった」


 だが、安心した俺たちの背後には……


「ゴゴゴゴ……」


「ん? なにこの音?」


「あ、アイリス! 避けろ!」


 俺の一声は一歩遅かった。


「えっ?!」


「ぎゅあああああああああ!」


 倒れ込みながら放たれたビーム砲はアイリスめがけて飛んでいく。


「くそっ! 間に合わない!」


 アイリスの元へ急ぐ俺。

 その時だった。


『お前は彼女を救いたいか?』


「え? この声は……」


『救いたいか?』


 心に訴えかけるように響く声。

 その声はどうやら女性の声のようだった。


『お前は救いたいのか?』


「ああ、俺は救いたい! 彼女を……アイリスを!」


『お前の願い、聞き入れた』


 その声と共にマグが輝き始める。


(マグが……どうなっているんだ?)


 虹色の輝きが俺を包み込み、アイリスの元へ。


 そして放たれたビームを俺が受け止める。


「りゅ、リュウタロウ! いつの間に……」

「大丈夫か!? アイリス!」

「あんた、一体何を……」


 虹色の光はビームを少しずつ押し返していく。


「悪いが、俺はこんな所でくたばるわけにはいかない! この世界に俺の国を造るまでは……!」


 俺の意志は虹色の光と共に魔獣ビーストに襲いかかる。


「さぁ……終幕だ!」


 虹色の光は魔獣ビーストを包み込み、そのまま消滅した。

 それと同時に俺の身体から輝きが消えていく。


「終わった……今度こそ」 


 残ったのは新種の魔獣ビーストの結晶らしきものだけ。


「怪我はない?」


 アイリスにそっと手を差し伸べる。


「あ、あんたこそ。一体何が……」

「分からない。でもあの時俺は何かと一体になった感じがしたんだ」


「りゅ、リュウタロウ様ー」

「リュウタロウさん!」


 ミルとイルーナがすぐさま駆け寄る。


「今の力はなんですの?!」

「凄い生命力を感じました!」


 実際のところ、俺自身もわかっていない。


「ザイゼン・リュウタロウ……今回は君に助けられたよ」

「いや、俺は何もしてませんよ」


 あの光は一体なんだったのか。


「ところでリュウタロウ様。お使いのマグは何処に?」

「ん? あっ!」


 気づけばマグは手の中にない。


「え、まじかよ! 俺のマグが……」


 あの光と一緒に消滅してしまったのかと思いきや、また心の中に例の声が。


『ざわざわうるさいなぁ』


「だ、誰だ?」


『お前のマグならここだよ』


「どこだよ……」


「リュウタロウ……様?」

「いきなりどうしたのよ」

「い、いや誰かの声が……」

「声……?」


『だからここだって! 手を天にかざしてみろって!』


 俺は言われた通りに手を天にかざす。

 すると先ほどの光が溢れて、


(ヘッズナイト……? いや……今までとまるで違う)


 見たこともないマグが俺の手の中に。

 白銀のような色に黄金の装飾が一筋。


『全く、手荒な真似をしやがって……』


「手荒な真似って……ん? 待てよ?」


 俺たちは異変にようやく気づく。


「ま、マグが……喋るだとぉーーー!?」


 声はどうやら他の人にも聞こえるみたいだ。


「マグが喋るって……」

「そんなことが……」


 アイリスとイルーナはこれに驚く。


「す、素敵です! マグが喋るなんて大発見ですよ!」


 対するミルは驚くどころか興味津々。


「なるほど……リュウタロウがマグ本来の姿へと覚醒させたということか……」 

「か、覚醒?」


『そうだぜ、主さまよ。お前が私を目覚めさせたんだ』


「俺が……?」


 アイリスを守りたいという思いと異世界で国を造りたいという意志が新たなマグへと変貌を遂げたのだ。


「君はなんていうの?」

『それは主であるお前が決めてくれ』


 意志による覚醒……それなら。


「ヴィーレにしよう。これから君の名はヴィーレだ!」

『ヴィーレ……なかなかいい響きじゃない』


 ヴィレというのはドイツ語で『意志』を指す。

 こいつにぴったりの名だ。 


「皆、無事か!」


 後方から王都軍と祇王騎士団が向かってくる。

 その先頭にたつのは、アイリスの兄であり騎士団団長のバルク団長だ。


 俺たちはここで起こった出来事を全て話した。


「わかった。新種の件はこちらで調査しよう。マグの件も非常に興味深いが、何せこちらも多忙でね」

「いえ、わざわざ来ていただいただけでもありがたいです。バルクさん」

「そうかしこまるな、レーネ。唯一の悪いところだ」

「わ、悪いでしょうか?」

「ま、まあ俺にとってはな。もっと柔軟になってもいいんじゃないか?」

「は、はい……わかりました」 


 先ほどの戦姫の貫禄から一転、バルク団長の前では学園の後輩というレーネ会長を見ることができた。

 レーネ会長とは会ったばかりだが、なにか新鮮さを感じた。


 俺たちはバルク団長等が去るのを見送り、学園へと帰還した。

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